東北大学と東芝は3月1日、車載用などの小型モーター向けに、磁石素材の主成分であるレアアースを、今後の需要の急騰によって長期間の調達が懸念されるネオジムから余剰が見込まれる「サマリウム」に変更し、さらに素材に含まれるレアアースの含有量を約半分に減らしても同等の磁力を出せる新しい「等方性ボンド磁石」を開発したと発表した。

同成果は、東北大大学院 工学研究科 知能デバイス材料学専攻の杉本諭教授と、東芝の研究者らの共同研究チームによるもの。詳細は、3月16日に開催される「日本金属学会春期講演大会」にて発表される予定だ。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2019年8月に発表した「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発(第3回中間評価)」によれば、2018年時点での国内電力消費量約9046億kWhのうち、モーターによるものはおよそ55%にあたる約5000億kWhとされており、モーターの高効率化による省エネが期待されている。

一般的にモーターの効率は、高い磁力の磁石によって向上するが、そのためにはレアアースが必要とされ、中でもネオジムが良く用いられている。しかしネオジムは、今後の電気自動車の普及などにより、使用量が急増することが予測されているほか、産出国が偏っており、地政学的リスクなども懸念されることから、ほかのレアアース含め、その使用量の削減、およびネオジム偏重を改め、レアアース資源のバランスの良い活用が求められるようになってきている。

そこで研究チームは今回、ネオジムを採掘する際の副産物で余剰資源となっているサマリウムに着目。NEDOからの委託事業にて、サマリウム鉄系合金の磁石化に取り組むことにしたという。

開発されたサマリウム鉄系等方性ボンド磁石は、全方位に対して磁力が均一であり着磁方向が自由に選べること、形状自由度や寸法精度が高いこと、製造工程が簡略で生産性が高いといった実用上の利点が多く、各種モーターに広く利用されている。今回、新たに開発された等方性ボンド磁石は、これらの利点を保持しながら、ネオジムを使用した従来の等方性ボンド磁石(ネオジムボンド磁石)と比較して、半分のレアアース使用量で同等の磁力が実現されたという。

具体的には、サマリウムと鉄に適正な量のコバルト、ニオブ、ホウ素を加えた合金を溶解させ、急冷凝固させてできた合金に適切な熱処理を施すことで、高鉄濃度な化合物結晶の境目にニオブとホウ素を濃縮させるという技術が開発された。これにより、従来のネオジム合金の中にネオジムが13原子%含まれるのに対し、今回のサマリウム鉄系合金ではサマリウムが約半分の6原子%で済み、少ないレアアース使用量で磁石化することに成功。磁石が持つエネルギーを示す最大エネルギー積は、室温20℃で98kJ/m3と、ネオジムボンド磁石と同等の値を示したとする。

また、残留磁束密度も室温20℃で0.82Tとネオジムボンド磁石と同等であること、1℃あたりの残留磁束密度の低下率は0.06%とネオジム磁石の約半分であり、ネオジムボンド磁石よりも高い耐熱性を持つことも示されたとしている。

研究チームでは、今回の成果について、レアアース資源のバランスの良い消費と使用量削減により、資源リスクの低減と各種モーターのサプライチェーンの強靭化に貢献するとしている。

  • 磁石

    (左)今回開発されたサマリウム鉄系等方性ボンド磁石。(中央)同磁石の減磁曲線。(右)同磁石における残留磁束密度の温度依存性比較 (出所:共同プレスリリースPDF)