高エネルギー加速器研究機構(KEK)とJ-PARCセンターは1月21日、次世代太陽電池材料として有望視される有機無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物の典型物質である「ヨウ化鉛メチルアンモニウム」(CH3NH3PbI3)について、その高い光電変換効率と結晶中の有機分子の運動との間に、明確な相関があることを明らかにしたと発表した。

同成果は、KEK 物質構造科学研究所 ミューオン科学研究系の幸田章宏准教授、同・門野良典教授、同・平石雅俊特任助教、同・岡部博孝特任助教、米・バージニア大学のケイトリン・A・ダグナル博士課程学生、同・ジョシュア・J・チェ准教授、同・スン-フン・リー教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

次世代の太陽電池材料として有望視されている材料の1つに、有機無機ハイブリッドペロブスカイト系化合物がある。ペロブスカイト系太陽電池は、最高効率が25%以上と高効率ながら、簡便な溶液処理法や印刷技術の応用で製造できることから、実用化されれば従来のシリコンベースの太陽電池よりも安価に供給できるようになるとされている。

有機無機ハイブリッドペロブスカイトの高効率性の起源は、結晶中で電気エネルギーを運ぶ電荷キャリアが長寿命であることと考えられているが、その長い電荷キャリア寿命の背景にある原子レベルでのメカニズム、中でも結晶中の有機分子の挙動との関係は良く分かっていなかったという。

そこで研究チームは今回、代表的な有機無機ハイブリッドペロブスカイトであるCH3NH3PbI3について、高効率性を実現するミクロな仕組みを解明することを目的とした研究を行うことにしたという。

今回の研究ではキャリア寿命がマイクロ秒の時間スケールを持つ点に着目。温度上昇に伴うCH3NH3PbI3のジャングルジム構造と、ミューオン偏極率の変化が調べられたところ、80Kくらいから緩和率の温度が急激に低下、120Kくらいから、緩和率の低下が一旦上昇に転じたのち、190Kくらいで再び低下することが確認された。CH3NH3PbI3は、162Kで斜方晶から正方晶へと構造相転移が起こることが知られていることから、研究チームでは構造相転移に伴い、メチルアンモニウム分子と結晶格子との間の摩擦が大きくなるため、メチルアンモニウム分子の回転の高速化が一旦抑制され、さらに温度が上がると再び回転が高速化することを示す観測結果と解釈できるとしている。

  • 有機無機ハイブリッドペロブスカイト

    代表的な有機無機ハイブリッドペロブスカイトであるCH3NH3PbI3の結晶構造。鉛とヨウ素でできたジャングルジム中にメチルアンモニウム(CH3NH3)が存在し回転運動している (出所:KEKプレスリリースPDF)

また、このミューオンスピン緩和率の温度変化をキャリア寿命の温度変化と比べると、両者の間に強い相関が見られるとする。これは、電荷キャリアの長寿命化には、メチルアンモニウム分子の回転が適度な速さに抑制されていることが重要であることを示すものであり、今回の測定では、格子の結晶構造が変わる162Kよりも低温の80Kくらいまで温度が上がるとメチルアンモニウム分子の回転が活性化し始め、キャリア寿命が短くなるということも確認されたという。

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  • CH3NH3PbI3の温度変化とミューオンスピン緩和率。メチルアンモニウム(CH3NH3)は80Kでミュオン偏極率が急激に低下している。緑の点線はメチルアンモニウムが動かないとしたときの理論値 (出所:KEKプレスリリースPDF)

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    ミューオンスピン緩和率とキャリア寿命の温度変化。紫色丸はキャリア寿命、破線は緩和率が表されている。両者の間に非常に強い相関があるのが見て取れる (出所:KEKプレスリリースPDF)

有機分子の回転運動とキャリア寿命の関係がわかってきたことは、今後のさらなる研究によりキャリアの寿命を延ばし、高効率化を実現する可能性があることを示すものだと研究チームでは説明しており、今回の研究成果を活用していくことで、より高効率で安価な太陽電池材料や光情報デバイスの開発につながることが期待されるとしている。

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    A列は歪んだジャングルジム構造によってメチルアンモニウムの運動が阻害されている様子が表された図。B列は歪みのないジャングルジム構造によりメチルアンモニウムが自由に回転運動している様子が表された図 (出所:KEKプレスリリースPDF)