日本人初の宇宙旅行者となった前澤友作氏と平野陽三氏が、2021年12月20日、12日間の宇宙滞在を終えて地球に帰還した。

前澤氏は「地球なう」とツイートし、元気さをアピール。今後、宇宙で撮影した動画を続々と公開していく予定だという。

  • 前澤友作氏

    前澤氏らを乗せ、地球に帰還したソユーズMS-20宇宙船 (C) Roskosmos

ソユーズMS-20の帰還

前澤氏と平野氏、アレクサーンドル・ミシュールキン宇宙飛行士が乗った「ソユーズMS-20」宇宙船は、12月20日8時50分(日本時間、以下同)、国際宇宙ステーション(ISS)から出帆した。

宇宙船はしばらく単独で飛行し、11時19分から、地球をまわる軌道から離脱するためのエンジン噴射を実施。噴射は正常に完了し、その後前澤氏らが乗った着陸船から、軌道モジュールと機械モジュールが分離された。

着陸船は大気圏に再突入し、激しい空力加熱にさらされ、前澤氏らは最大4Gの加速度を受けた。その後、大気中を降下し、やがてパラシュートを展開。そして12時13分ごろ、カザフスタン共和国の草原地帯に無事に着陸した。

現地は天候が悪く、回収チームの到着がやや遅れたものの、3人は無事に宇宙船を降り、回収チームの用意した車輌やヘリコプター、飛行機に乗って、モスクワ郊外にあるガガーリン宇宙飛行士訓練センター(星の街)へと帰還した。

同日夜には、前澤氏はTwitterを更新。「地球なう」というつぶやきとともに、カップラーメンを食べる様子をアップし、元気さをアピールした。

また、「世界中の偉い人たちが宇宙に行って、宇宙から地球を見ながら国際会議みたいなことしたら、地球上はもっともっと優しくなると思った。平和になると思った」という感想もつぶやいた。

前澤氏らは今後、星の街においてリハビリを受ける。このリハビリは、各々の体調に合わせて14日~21日間行われる予定で、専門医の指導のもと、プールで泳いだり散歩をしたりと、徐々に筋肉への負荷を高めながら、通常の体型、体調を取り戻していくことになる。

  • 前澤友作氏

    帰還後、移動する前澤氏ら (C) Roskosmos

日本人初の宇宙旅行、2023年には月へ

前澤氏は1975年に千葉県で生まれ、現在46歳。1998年にスタートトゥデイ(現在ZOZO)を設立し、2004年にファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を立ち上げた。2019年9月に同社を退任したあと、新たにスタートトゥデイを立ち上げ、現在13の事業を営んでいる。また、篤志家、美術品のコレクターといった顔も持つ。

平野氏は、1985年愛媛県生まれの現在36歳。2007年、ZOZOに入社し、退職後は映像制作会社に従事したのち、現在は前澤氏の関連会社の役員として勤務。前澤氏のプライベート企画のプロデューサー兼マネージャーを務めている。今回の宇宙旅行では、宇宙で活動する前澤氏を撮影する役目を担った。

彼らが搭乗したソユーズMS-20宇宙船のコマンダー(船長)を務めたのは、ロシアのアレクサーンドル・ミシュールキン宇宙飛行士。1977年生まれの44歳で、2009年にロシアの宇宙飛行士(コスモノート)に認定。2013年と2017年に、2回の宇宙飛行とISS長期滞在をこなしている。今回のミッションでは、タス通信の「宇宙特派員」も務めた。この3回の宇宙飛行で、累計での宇宙滞在日数は346日となった。

ソユーズMS-20を搭載した「ソユーズ2.1a」ロケットは、日本時間12月8日16時38分にカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられた。打ち上げは成功し、ソユーズMS-20は徐々にISSに接近。打ち上げから約6時間後の22時40分、ISSに自動モードでドッキングした。

前澤氏は「宇宙だよ、着いちゃったよ! 本当にあったよ、宇宙が! ステーションも!」と、喜びの声を上げた。

  • 前澤友作氏

    ISSに接近する、前澤氏らを乗せたソユーズMS-20宇宙船 (C) NASA

ISS滞在中、前澤氏は宇宙での生活の様子などを、TwitterやYouTubeを通じて公開。また、事前にWebサイトを通じて「宇宙でやってほしい100のこと」を募集。ISS内での紙飛行機の飛行や宇宙飛行士とのバドミントンなど、寄せられたアイディアにもチャレンジした。これらの動画は今後、順次公開していくという。

また、ミシュールキン宇宙飛行士をはじめ、前澤氏と平野氏は、ISSの科学プログラムにも参加。ロシアが実施する9つの宇宙生物学・生理学、宇宙技術の実験を行った。

さらに、微小重力環境下での血液の微小循環の研究を目的とした医療実験「LAZMA」の被験者にもなり、得られた結果は、とくに宇宙ステーションや有人深宇宙探査における循環器系の問題の予防策の研究に役立つという。こうした症状を回避、体調を維持できるようになることで、宇宙活動における高い機能性を維持することができるとしている。

前澤氏らの飛行にかかった費用は、公式には明らかにされていない。今年9月にスペース・アドヴェンチャーズのロシア駐在員事務所のセルゲイ・コステンコ所長が明らかにしたところによると、今回のようなソユーズによる飛行の1人あたりの運賃は「5000万ドル」としている。実際にはオプションの有無や為替の変動などで増減するだろうが、前澤氏と平野氏あわせて1億ドル前後かかったものとみられる。

日本の民間人が宇宙へ行くのは、1990年にTBSの社員として宇宙へ行った秋山豊寛氏以来、31年ぶり。ただし、秋山氏はソ連(当時)の宇宙飛行士の資格のひとつ「宇宙飛行士研究者(Kosmonavt-issledovatel)」の資格を得たうえで飛行したが、前澤氏と平野氏は、Uchastnik Kosmicheskogo Polota(宇宙旅行者、宇宙飛行参加者)、英語では「Spaceflight participant」という肩書きでの飛行となり、いわゆる「宇宙飛行士」ではない。宇宙飛行参加者としての飛行は、前澤氏と平野氏が日本初となった。

また、秋山氏はソ連・ロシアの宇宙ステーション「ミール」に滞在したため、日本の民間人としてISSに滞在するのも前澤氏らが初となった。

前澤氏はまた、2023年にはスペースXが開発中の巨大宇宙船「スターシップ」に搭乗して月へ行く「dearMoon」ミッションの実施も予定している。今回の飛行前、「このISSへの宇宙旅行は、2023年に世界中から集まった8人の優秀なクルーとともに、民間初の月飛行へ飛び立つ際に、最高のホストを務めるための準備をする機会でもあります」と述べている。

  • 前澤友作氏

    ISSで他の宇宙飛行士らと過ごす前澤氏ら (C) NASA

参考文献

https://www.roscosmos.ru/33654/
https://www.roscosmos.ru/33653/
Trio of Russian, Japanese Station Visitors Back on Earth - Space Station