米国の宇宙企業スペースXは2021年3月30日、巨大宇宙船「スターシップ」の試作機「SN11」の高高度飛行試験を実施した。

打ち上げや上昇、降下はほぼ順調だったものの、着陸のためにロケットエンジンに点火した直後に爆発。着陸は失敗に終わった。

同社ではデータを分析し、次の飛行試験に向けて作業を進めていくとし、すでに改良型や、より実機に近い試作機の開発も進んでいる。

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    打ち上げを待つスターシップの試作機「SN11」 (C) SpaceX

大爆発に終わったSN11の高高度飛行試験

スターシップはスペースXが開発中の宇宙船で、直径9m、全長50mの巨体を特徴とする。このスターシップをさらに巨大なロケット「スーパー・ヘヴィ」で打ち上げることで、地球低軌道に100tのペイロード、もしくは100人の乗客を運ぶことができる。

また、軌道上で推進剤の補給を受けることで、月や火星にも100tの物資を運ぶことが可能。さらに、スターシップもスーパー・ヘヴィも完全再使用が可能で、1回あたりの打ち上げコストは約200万ドルと、破格の安さを目指している。

実現すれば、スペースXが構想している月や火星への人類移住計画の要となるばかりか、あらゆるロケットを性能面、コスト面で時代遅れにする、まさにエポック・メイキングな宇宙船になる。

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    スーパー・ヘヴィに載せられて打ち上げられるスターシップの想像図 (C) SpaceX

スペースXはまず、タンクやロケットエンジンなどの要素単位での開発から始め、その後すぐにそれらを組み合わせての飛行試験に移った。当初はタンクが破裂するなどのトラブルに見舞われたが、徐々に克服し、現在は「SN(Serial Number)」と名付けられた試作機シリーズによる「高高度飛行試験(high-altitude flight test)」が行われている。

高高度飛行試験は、試作機を打ち上げ、高度約10kmまで上昇したのち、機体を寝かせ、さらに機体の前後に装備している羽ばたくように動く翼を使って制御しながら降下。そして着陸直前に機体を立て、垂直に着陸するといった、一連の飛行の流れを確認することを目的としている。

同様の試験は今回が4回目で、昨年12月には「SN8」が、今年2月にも「SN9」が同様の試験に挑んだが、着陸に失敗し、爆発炎上。3月4日には「SN10」が、やや不完全ながらついに着陸に成功したものの、その後機体が爆発するという憂き目に遭った。

今回飛行したSN11には、SN10がやや不完全な着陸をしたことを踏まえ、改修が加えられた。

SN10までの試作機は、着陸時に2基、ないしは3基のロケットエンジンに点火し、そして徐々に止め、最終的に1基のエンジンのみで着陸していた。しかしSN10の飛行試験では、その最後の1基のエンジンの推力が想定よりも低く、やや速い速度で地面にタッチダウンした結果、着陸脚が折れてしまう結果となった。

そこで今回のSN11では、まず3基すべてのエンジンに点火して状態を確認したのち、1基のみ停止させ、2基のエンジンを噴射させながら着陸することで、同じ問題が起きても対処できるように改修が行われた。

SN11は日本時間3月30日22時00分(米中央夏時間同日8時00分)、テキサス州の南ボカチカにあるスペースXの施設、通称「スターベース」から離昇した。周囲は濃い霧に包まれ、飛行の様子はほとんど見ることができなかったが、SN11はほぼ順調に飛行。高度約10kmに到達したのち、機体を寝かせた姿勢にし、降下を開始した。

そして地面に近づいたところで、エンジンに再点火。機体をふたたび垂直に立て、着陸体制に入ろうとした。しかし、そこで何らかの問題が起き、機体は爆発。着陸は失敗に終わった。なお、スペースXでは「爆発(explosion)」ではなく、「予定外の急速な分解(rapid unscheduled disassembly)」と呼んでいる。

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    スターシップSN11から送られてきた最後の映像。着陸に向けてエンジンに点火した場面が写っている。この直後、エンジンに何らかの問題が起き、機体は爆発したという (C) SpaceX

試験後、同社CEOを務めるイーロン・マスク氏はTwitterを通じ、「着陸のためにエンジンに再点火した直後に、何か重大なことが起こったようです」と語った。

マスク氏はまた「2番エンジンは上昇時からなんらかの問題を抱えており、着陸時の再点火時にも燃焼室の圧力が不足していました」とも語っている。ただ前述のように、こうした場合に備え、3基目のエンジンを点火して、正常な2基のエンジンで着陸できるようにする手筈になっていたため、それ自体は大きな問題ではなかったようである。

スペースXは、「この試験飛行は、スターシップのシステムの理解と開発を深めるためのものです」とし、「データの分析を行い、何が起こったかを知るとともに、次の飛行試験に向けて作業を進めていきます」と前向きなコメントを発表している。

改良型のSN15、軌道打ち上げを見越したSN20の開発も進む

スターベースではすでに、次の試作機である「SN15」の製造が進んでおり、まもなく完成する見込みだという。なお、SN12~14は欠番となっている。

マスク氏によると「SN15は構造、アビオニクス、ソフトウェア、エンジンなど、何百もの設計が改良されています」という。そのうえで「うまくいけば、それらの改良のひとつが、今回SN11に起きた問題を解決するでしょう」としている。

また、より実機に近い「SN20」の製造も進んでいるという。このSN20は地球周回軌道への打ち上げを見据えた”メジャー・アップデート”となり、耐熱シールドやスーパー・ヘヴィとの分離システムなどを装備するとしている。

ただし、マスク氏は「SN20以降の機体は、マッハ25で地球の大気圏に再突入することになります。再突入時に受ける加熱、そしてその後の着陸を無傷で乗り切ることは難しいでしょう。おそらく、多くの試行錯誤が必要になります」とし、今後も今回のような爆発(予定外の急速な分解)が起こりうること、しかしそれも想定の範囲内であることを明言した。

さらに、スターシップを打ち上げるスーパー・ヘヴィの試作機「BN1」の開発も進んでおり、近々飛行試験が行われる予定となっている。

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    製造が進むスーパー・ヘヴィの試作機「BN1」 (C) SpaceX/Elon Musk

参考文献

SpaceX - Starship
Starship | SN11 | High-Altitude Flight Test - YouTube
Elon Muskさん(@elonmusk) / Twitter