SAPは5月9日まで米国フロリダ州で開催した年次ベント「SAPPHIRE NOW 2019」において、RPAの「SAP Intelligent Robotic Process Automation」を一般公開扱いとした。2018年10月に発表した後に買収したContextorのRPA技術を統合し、SAP以外の技術についても自動化ができるようになった。

今回、同イベントでIntelligent Robotic Process Automation担当バイスプレジデントのSebastian Schroeter氏に話を聞いた。

  • SAP Intelligent Robotic Process Automation担当バイスプレジデント Sebastian Schroeter氏

--2018年秋にRPAを発表し、今回一般公開扱いとなりました。その間Contextorを買収しています。これまでの経緯を教えてください。--

Schroeter氏: 今回、「SAP Intelligent Robotic Process Automation(RPA)」が正式提供となり、いよいよRPA市場に本格参入となる。

SAP Intelligent RPAはSAP Cloud Platformの一部であり、オープンなプラットフォームだ。SAP Cloud Platformの顧客(SAP Cloud Platform Enterprise Agreement)はIntelligent RPAを利用できる。

Contextorは2018年11月に買収した技術で、SAP Intelligent RPAにマージされ、Citrix、WindowsクライアントなどSAP以外の自動化を実現する。既に持っていたSAPの自動化と組み合わせることで、SAP製品、SAP以外の製品の双方の自動化が可能になった。

--どのような作業の自動化が考えられるのか?--

***Schroeter氏:* 典型的なRPAのユースケースは複数システムにまたがることが多い。例えば、請求書の処理として、メールやファイル共有などで請求書を受け取り、これを「Leonardo Machine Learning Foundation」を利用して読み取り、S/4 HANAに入れる。

SAPはLeonardo、それに対話型AIプラットフォームの「SAP Conversation AI」を組み合わせることで、インテリジェントなRPAが実現する。エンド・ツー・エンドの自動化を実現するにあたり、RPAだけでは不十分で、AIや機械学習を組み合わせることが勝利の方程式だと考えている。

また、PCが故障した社員がITサポートチームに新たに発注する例もある。故障したPCの写真をとってチャットボットで送ると、ボット側が機械学習を使ってPCの機種を認識する。これがRPAのトリガーとなり、注文書を作成して、ユーザーに代わって提出する部分を自動化する、という流れだ。

機械学習とRPAの組み合わせはパワフルだ。SAPはビジネスプロセスをソフトウェアにした最初の会社であり、それを最も効率よく動かしている。これを追求したのがビジネスプロセスの自動化であり、さまざまな技術を用いて自動化を行う必要がある。

このように、人が介在することなく完全に自動化されるUnattended RPAに加えて、SAPでは人が一緒に作業するAttended RPAも可能だ。例えば、欧州の保険会社AXAの子会社では、カスタマーサービスにSAPのIntelligent RPAを導入し、SAP Conversational AIを利用して、担当者が顧客の保険適用範囲の確認などの問い合わせに応じることを実現している。

このように、Attended RPA、Unattended RPAに対応することで、さまざまなユースケースに対応できる。

--RPAの作成や修正はどの程度簡単に行えるのか?--

Schroeter氏: 事前にコンテンツを作成し、これを使ってドキュメントのあるRPAを作成できる。われわれは継続的にボットの安定性に投資しており、APIベースのインテグレーションを用いることで土台のシステムに変更があってもボットは継続して動く。

既に6万人以上の開発者がSAPのボット構築プラットフォームを利用しており、開発されたチャットボットの数は12万以上に及ぶ。

  • 注文書作成のロボットを作成する画面

  • ジョブの管理画面

--RPA分野では後発となるが、差別化のポイントは何か?--

Schroeter氏: 先ほど述べたが、機械学習、Conversation AIを組み合わせることができるのは大きな差別化になる。また、Attended RAPとUnattended RPAの両方が利用できる点も重要な特徴だ。

また、SAPの自動化についてはSAPテクノロジーをよく理解している我々に強みがある。SAP Cloud Platformの一部であり、使った分だけ払えばよい。顧客はボットの実行回数で課金され、柔軟に拡張できる。

--RPAはERPにどのような影響を与えると予想している?--

Schroeter氏: 2018年の発表時、ERPシステムのマニュアルタスクを3年で50%自動化するという予想を発表していた。RPAはプロセスが比較的シンプルで反復性があるものに利用できるだろう。このようなタスクのうち、80~90%は自動化可能と見ている。

SAPは2018年より「インテリジェント・エンタープライズ」として、システムに自動化やAIを組み込んでいるところだ。UI技術のFioriではビジネスプロセス自動化により、多くの作業でクリック数が削減されている。RPAは大きな取り組みの一部であり、1つ以上のシステムを使うビジネスプロセスを得意とする。RPAは重要だがRPAだけではない。

--RPAでの次の計画は?--

Schroeter氏: SAP技術への統合を深く、かつ、広くしていく。将来的には、コンテンツのマーケットプレイスも提供したい。長期的には、コンテンツを提供するパートナーエコシステムを作っていく。IBM、Ernst & Young、Deloitteなど6社との提携は始まっており、今後、拡大していく。

  • Intelligent RPAのコンテンツ(テンプレート)ロードマップ。当面はファイナンス、調達、サプライチェーンなどが中心となる