顧客のニーズやウェブ上の行動に合わせてレコメンドする商品、サービス、コンテンツを最適化するパーソナライズは、デジタルマーケティングにおいて当たり前の施策となった。しかし、どこまで深いインサイトをデータとして活用するか、どのようにデータを分析してレコメンドに活かすか、カスマージャーニーを理解してどのようにシナリオを組み立てるかによって、同じパーソナライズ施策でも内容は大きく異なる。

では、成功している企業はどのようにデータを活用してパーソナライズコミュニケーションで成果を生み出しているのだろうか。「TREASURE DATA“PLAZMA”Roppongi」において、ブレインパッドの上村篤嗣氏が「プライベートDMPを用いたパーソナライズコミュニケーション事例」と題して講演した。

  • ブレインパッドの上村篤嗣氏

上村氏は、まずAmazonプライムビデオを例に挙げ、パーソナライズによるコンテンツレコメンデーションがどのようなユーザー体験を生み出すのかを説明。パーソナライズコミュニケーションが企業だけでなくユーザーである消費者にもメリットである点を整理した。「もしパーソナライズがなかったら、プライムビデオのトップページに並ぶのは新作作品だけ。しかし、もし(我が子のための商品をよく探している)自分のアカウントに応じてアニメ作品などをレコメンドされれば、我が子がプライムビデオを使った場合に検索することができなくても、観たい作品をトップページでおすすめしてもらえる」(上村氏)。

Amazonだけでなく、例えばYahoo! JAPANやZOZO TOWNといった高収益企業は高度なパーソナライズ施策に取り組んでいると上村氏は指摘。ユーザーの属性セグメントに応じたものや、顧客の行動履歴に応じたものだけでなく、ネットとリアルといったチャネル横断型(オムニチャネル)のパーソナライズ、機械学習やディープラーニングを活用した予測に基づくパーソナライズにまで高度化していると説明する。「ほとんどの企業は属性セグメントに基づくパーソナライズだが、トップ企業は更に高度なパーソナライズに取り組んでいる」(上村氏)

  • 高収益企業は高度なパーソナライズに取り組む

上村氏は企業がパーソナライズに取り組む意義について、「サイト来訪者の興味関心を理解して、次にサイトを再訪したときに、(探さなくても)その人の興味関心に応じた商品やコンテンツを先回りして、“あなたへのオススメ”として提案する。それによって、顧客から愛されるサイト、愛されるメディアになっていく」と説明する。では、具体的に様々なサイトはどのようにレコメンドを行い成功しているのだろうか。

まず挙げたのは、ふるさと納税ポータルサイト「さとふる」。このサイトは、テレビCM施策などを強化したことで来訪者数は好調だったが、そのトラフィックから寄付金額を増やしたい=コンバージョン率を高めたいという課題があったという。そこで、来訪する顧客をデータによって「初回来訪者」「非会員来訪者」「寄付実績のない会員」「寄付実績のある会員」と4つのステータスに分類し、トップページに表示するコンテンツをパーソナライズしたのだという。これによって、施策実施から2週間でコンバージョン率は2.07倍に増加したのだそうだ。

「初めて来訪する人には人気のある返礼品をおすすめし、何度もサイトを訪れる人や寄付実績のある会員には新着の返礼品をおすすめする。対面の接客では必ずやっていることをウェブで自動的に実現できるようにした。言われてみれば当たり前のようなレコメンドでも、すぐに効果を発揮した」(上村氏)

  • ふるさと納税ポータルサイト「さとふる」の事例

一方、旅行代理店大手の日本旅行のサイトでは、“タイミング”をパーソナライズした。ツアー商品を一定回数閲覧した来訪者に対して、限定クーポンを配布することでコンバージョン率の向上を目指したのだ。一般的に、旅行商品は初回訪問で即決することは少ない。いくつかのサイトを回遊しながら、様々な旅行商品を比較検討しながら候補を絞っていく。同じサイトも何度も訪問する。そこで、見込み顧客の背中を押す施策として来訪頻度が高まった顧客に限定してクーポンを配布することにしたのだ。

「来訪者がある程度のPVに達した瞬間にポップアップでクーポンを表示させるようにした。再訪時にバナーに表示したりメールで送信したりするのではなく、“いま”おすすめすることによって、バナーに対して約3倍、メールに対して約1.7倍コンバージョン率が上がった」(上村氏)

  • 旅行代理店「日本旅行」のパーソナライズ事例

また、ゴルフ用品サイトの「ゴルフダイジェスト・オンライン」は広告施策にパーソナライズを用いている。同社が展開しているリターゲティング広告について、来訪者のセグメントに応じて最適化された広告に応じてランディングページのパーソナライズをも行い、広告経由の再訪問やその後のコンバージョンを改善。施策の実施によってリターゲティング広告経由のコンバージョン率が8倍に改善したという。

そして、パーソナライズによるレコメンドはコンテンツメディアも活用している。大手ネットプロバイダーの「ニフティ」は、ポータルサイト事業が保有する来訪者の閲覧履歴とプロバイダ事業が保有する会員の属性情報をブレインパッドのDMP「Rtoaster」で統合管理し、来訪者の興味関心に応じたサイト内のリターゲティングやコンテンツレコメンドによって顧客体験の向上、ポータル事業とプロバイダ事業の相互送客を実現しているのだという。

  • リターゲティング広告にパーソナライズを用いたゴルフダイジェスト・オンライン

  • ポータル事業とプロバイダ事業でデータを統合管理したニフティ

こうした事例を紹介した上で、上村氏はパーソナライズが価値を生み出すための“方程式”として米国の大手コンサルティング会社マッキンゼーが提唱した定義を紹介した。この定義によると、パーソナライズは「Relevance(自分に関係がある内容であること」と「Timeliness(自分のほしいタイミングに適していること)」という条件に加えて、「Loss of privacy(顧客の行動データから得られた情報)」を活用して顧客に先回りしてレコメンドができたときに価値を生み出すという。

そして、上村氏は「この定義を実現するためには、多くのデータを必要とし、そのデータを蓄積するための箱=トレジャーデータのTreasure CDPやブレインパッドRtoasterのパーソナライズエンジンが必要になる」と語り、パーソナライズを実現するためには様々なデータを管理してパーソナライズ施策へのアウトプットに活用できる環境の構築を提言した。

  • パーソナライズが価値を生み出すための方程式