スペインの超小型ロケット(マイクロ・ローンチャー)開発のベンチャー企業「PLDスペース」は2018年6月11日、スペイン国内の企業やベンチャー・キャピタルなどから900万ユーロ(約11.5億円)の資金を調達したと発表した。

同社はこれまでの投資と合わせ、シリーズAラウンドにて総額1700万ユーロ(約21.8億円)の調達に成功。この資金をもとにロケットの開発を加速させ、2019年後半に高度100kmの宇宙空間への、観測ロケットの打ち上げを目指す。

超小型ロケットの開発は、これまで米国企業が中心だったが、PLDスペースをはじめ欧州でもベンチャー企業がいくつも誕生し、欧州宇宙機関(ESA)やベンチャー・キャピタルなどからの協力や大規模な資金の投入もあり、大きく活気づいている。

  • PLDスペースが開発している超小型ロケット

    PLDスペースが開発している観測ロケット「アレイオーン1」の想像図 (C) PLD Space

PLDスペースと「アレイオーン」ロケット

PLDスペース(PLD Space)は2011年に誕生したロケット企業で、スペインに本拠地を置く。立ち上げたのはRaul Torres氏とRaul Verdu氏の2人の若者で、現在の従業員数は40人ほどだという。

同社は現在、高度100km以上の宇宙空間に到達できる観測ロケットの「アレイオーン1」(Arion 1)を開発している。アレイオーンとはギリシア神話に登場する馬の名前で、海神ポセイドーンと女神デーメーテールの間に生まれた子供とされる。

アレイオーン1は全長12.5m、直径0.7mの単段式ロケットで、50~150kgのペイロード(搭載物)を搭載することができ、100kgの場合は高度150kmまで到達できる。また、ペイロードの搭載部分は4つの区画に分かれており、それぞれに異なる搭載物を載せることができるようになっている。

推進剤にはケロシンと液体酸素を使い、エンジン・サイクルはヘリウムによるガス押し式を採用している。2015年にはエンジンの燃焼試験が行われている。ちなみに、スペインでは過去に固体推進剤の観測ロケットはあったものの、液体ロケットはアレイオーンが初めてとなる。

初打ち上げは2019年の後半に予定されている。

  • アレイオーン1の模型

    アレイオーン1の模型 (C) PLD Space

そして同社にとって真打ちとなるのが、小型・超小型衛星を打ち上げられるロケットの「アレイオーン2」(Arion 2)である。

小型・超小型衛星の開発や利用がブームといわれて久しいが、現在のところその打ち上げは、大きなロケットによる大きな衛星の打ち上げ機会に相乗りするしかない。しかし、打ち上げ日や軌道といった条件が大きな衛星によって決定されてしまうため、小型・超小型衛星を最適な軌道へ打ち上げることができなかった。

そこで最近、そうした衛星を手頃に、かつ自由自在に打ち上げられる手段として、超小型ロケット(マイクロ・ローンチャー)への期待が高まっている。また、超小型であるがゆえに開発の障壁が比較的低く、ベンチャーなどが参入しやすいこともあって、世界中で開発競争が始まっている。この市場は2020年には70億ドル(約7738億円)までになるという予測もある。

すでに、米国に本拠地を置くニュージーランドの企業「ロケット・ラボ」(Rocket Lab)が開発した「エレクトロン」(Electron)が今年はじめに初打ち上げに成功し、頭一つ抜けたが、追いつき追い越せといわんばかりに、開発競争は激化している。PLDスペースも、こうした動きの中で有力選手となりつつある。

アレイオーン2はまだ情報は少ないものの、150kgの小型衛星を積んで地球低軌道に打ち上げられる能力をもつという(もう少し打ち上げ能力の大きなロケットに見直されつつあるという話もある)。また、アレイオーン1と技術や部品を共通化し、開発の確実性の向上やコスト削減を図るとしている。初打ち上げは2021年ごろを予定しているという。

同社のアレイオーンが特徴的なのは、機体を回収・再使用することで、打ち上げコストの低減を図っているところにある。アレイオーン1はパラシュートでの回収が、アレイオーン2はファルコン9のような、エンジンを逆噴射させながらの着陸・回収が考えられている。また2019年には、アレイオーン2の着陸試験も行うとしている。

他社の超小型ロケットは、基本的には使い捨て型が多く、低コスト化を目的に機体を回収・再使用しようとしているものはほとんどない。

狙いとしては、イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXの「ファルコン9」と同じだが、もっとも超小型ロケットの場合、実際にどこまで低コスト化につながるかなど、実現性はまだわからない。

  • 「アレイオーン2」の想像図

    小型・超小型衛星を打ち上げられる超小型ロケット「アレイオーン2」の想像図。第1段機体は着陸・回収し、再使用できる (C) PLD Space

ESAからの支援と、1700万ユーロの資金調達に成功

そして同社のもうひとつの特徴にして、同時に特長でもあるのは、資金調達が比較的順調であることである。

同社は設立から2年後の2013年に、スペイン政府から資金を調達。さらに欧州委員会やドイツ航空宇宙センター(DLR)からも続々と資金調達を取り付けた。

2017年には、シリーズAラウンドにて780万ユーロの調達に成功。そして今回、900万ユーロの追加調達に成功し、同ラウンドでの調達額は総額で1700万ユーロ(約21.8億円)になった。今回投資を受けた中には、スペインの航空・宇宙メーカーのAciturriや、スペイン最大のインフラと再生可能エネルギー会社のひとつであるAccionaのCEO、JoseManuel Entrecanales氏が率いる投資ファンドJMEベンチャー・キャピタルなどが含まれている。

PLDスペースによると、この調達の成功によって、アレイオーン1の開発と、2019年後半の初打ち上げに向けて大きく勢いづくことなる、としている。

PLDスペースは、ロケット・エンジンの燃焼試験こそ成功しているものの、ロケットを実際に打ち上げことはない。それでも多くの資金が集まる背景には、それだけ実現可能性やビジネス性など、同社に対する投資家から期待が高いことの現れと見ていいだろう。

  • ロケット・エンジンの燃焼試験の様子

    アレイオーン1に使うロケット・エンジンの燃焼試験の様子 (C) PLD Space

こうした動きに、欧州宇宙機関(ESA)も秋波を送る。

ESAは今年2月、Future Launchers Preparatory Programme (将来の宇宙ロケットの準備計画)の一環として、超小型ロケットを開発している5つの欧州企業を選出。その中のひとつに、アレイオーン2も選ばれている。

この計画では資金提供は行われないものの(企業が自立できていることも選出基準のひとつだったという)、ESAから技術面での支援を受けることができ、開発の確実性が増すとともに、欧州やESAにとっては、小型衛星の打ち上げ手段を確保し、さらにこの市場における欧州の地位を確立することにつながる。