Oracleはクラウド戦略の展開にあたり何を変えた?

オンプレミスで成功したOracleのクラウドへの転身が順調に行っているとすれば、その理由はどこにあるのか?

「多くの成功した企業にとって変革は難しい」とSwischer氏が聞くと、Hurd氏は暗にAWSと自社を対比させながら「急速に成長して成功した企業はそれを維持するのが難しい。Oracleは急速に成長する必要はない。3~4年前にクラウド戦略を固め、その後はスピーディーに動いている。世界にデータセンターを構築して戦略を実装してきた」と述べた。6年前に37億ドル程度だった研究開発費は、現在50億ドル以上だという。

技術面だけでなく、営業を強化し、報酬の方法も変え、「クラウド戦略を正しく、高速にやろう――これが小さな波を作って広げていった」と、Hurd氏は語った。

"小さな波"の1つが、契約での工夫だ。「これまでOracleは大企業を相手にしており、契約に際しては複雑かつボリュームのある契約書を取り交わしていた。だが、クラウドではスタートアップも顧客だ。Oracle Cloudを導入しているLyftはIT部門すら持たない。そこで、われわれは契約のプロセスを簡素化した」とHurd氏は説明する。「クリックで合意」の導入というちょっとした決断が、大きな変化につながっていると続けた。

クラウドサービスの受け入れは、低成長時代という文脈から見ても意味をなすものだという。世界のGDP成長が2%程度であり、大企業では支出の10~15%を占めるというIT予算の多くが、現状維持に費やされている。この部分をクラウドでカバーし、他のことに予算を割く必要がある、とHurd氏は説明する。

そのために、業界全体として、簡素化を進めるべきだという。「われわれはイノベーションを継続して顧客を支援する必要がある。車を購入したらすぐに乗ることができるように、ネットワーク上でソフトウェアを購入したらすぐに使えるようにする。顧客のコストを下げれば、顧客は自分のビジネス、イノベーションにもっとフォーカスできる」(Hurd氏)

クラウドサービスにおいてOracleが新たに強化しているのが、データサービスだ。同社は4月、広告測定のMoatの買収を発表しているが、SaaS、PaaS、IaaSに続く4つ目のレイヤとして、データを提供する「データ・アズ・ア・サービス」を構築していることを明かした。

データが重要であることは言うまでもないことだが、「企業はパーソナライズして正しいターゲッティングをするために、顧客についてもっと知りたいと思っている」と、Hurd氏はデータの重要性を強調した。「Oracleは堅牢なデータビジネスを構築する」とHurd氏、これは今後フォーカスしていく分野だと続けた。

AIが仕事を奪う――シリコンバレーに責任は?

Swischer氏はOracleをはじめ、さまざまなベンダーが取り組むAIについても切り込んだ。「実店舗から店員がいなくなり、タクシードライバーがいなくなるなど雇用が変化しているが、シリコンバレーはこの変化に責任はないのか?」とSwisher氏。

Hurd氏は少し考えた後、「Oracleはイノベーションを続ける。われわれがしなければ誰かがやる。われわれの仕事は、顧客の効率性と生産性を高め、投資をIT以外の分野に向けるようにすること。今後もシリコンバレーでイノベーションが起こってほしい。われわれがイノベーションを加速しなければ、他の場所で起きる」と答えた。

Hurd氏の回答に対し、「イノベーションとは雇用をなくすことなのか?」とSwischer氏はさらに踏み込んだ。これに対するHurd氏の答えは、「経済がシフトすると投資もシフトする。他の部分に投資して、イノベーションを起こすことができる」というものだ。「イノベーションを恐れるべきではない。もっと効率化を図り、顧客が資本を解放できれば、他のことに投資できる。これを支援している」(Hurd氏)

Swischer氏はさらに、「繰り返しの仕事、感情や創造性のない仕事はなくなると言われているが、これはそれなりの数を占める」と続けると、「複雑な課題だ」とHurd氏は返した。

「中核になるのは教育だろう。もっと価値のある仕事に向けて、人を教育し、従業員を教育する必要がある。繰り返しのある仕事に価値がないということではない。だが、最終的にはこのプロセスは自動化されることになる」(Hurd氏)

そして、「新しい技術を活用することで、より良い成果を生むことができる。だからこそ、イノベーションへの投資をやめるべきではない」と、AIなどの新しい技術開発をやめるべきではないとの見解を示した。

なお、Oracleはもう1人のCEO、Safra Katz氏が中心となって教育への投資を強めており、本社キャンパスの横にデザインシンキングのための高校「d.tech(Design Tech High School)」を建築中だ。