Intelの日本法人であるインテルは3月25日、同社IT部門が2015年の1年間に取り組んできた内容を公開するパフォーマンスレポートの最新版「2015-2016 Intel IT Annual Performance Report」の日本語版を公開し、IT部門の取り組みが自社のビジネス価値を向上させることにつながっていることを明らかにした。

Intelが公開した「2015-2016 Intel IT Annual Performance Report」の日本語版の表紙。同社のWebサイトにて見ることが可能

インテル 情報システム部 APAC and Japan地域部長の邱天意氏

今回のレポートのポイントは「Productivity(生産性)」、「Digitization(デジタル化)」、「Cybersecurity(サイバー・セキュリティ)」の3つ。「IT部門の仕事は、これまで企業活動の舞台裏が中心であったが、それが役員室へと移ってきており、経営方針の決定などにも実際に関わるようになってきた」と語るのはインテル 情報システム部 APAC and Japan地域部長の邱天意氏。

グローバルでビジネスを展開する同社は現在、72カ国に153の拠点を有し、そこで働く10万4820名の従業員を71のIT拠点で働く約6300名のITスタッフによってサポートしているという。ちなみに2014年から2015年にかけて同社のストレージ容量は37PB増加(106PB→143PB)し、データセンターで稼動するサーバの数も約6万台増加(84379→144040)と大幅に増強されているが、従業員1人あたりのIT支出額は従来よりも少ない約1万3000ドルで、これについて邱氏は、「積極的にITコストの削減を行っているわけではないが、新たな技術を積極的に投入することで、結果として効率が向上している。そのため、収益に対するIT支出額の割合も売り上げの増加もあるが、前年比0.1ポイント減の2.5%と低下している」とする。

また、そうしてサポートしている従業員のデバイスの数は、モバイルPCが約15万台とするほか、デスクトップPCが約1万5000台、タブレットが約4800台、そしてスマートフォンがBYODを含めているが約5万台としている。デスクトップPCの中には、同社が生産性の向上に向けて進めている施策の1つであるワイヤレス会議室の実現に用いられる小型PCなども含まれている。1年間で500室以上に設置されたというワイヤレス会議室は1台のPCをホストに、会議に参加しているほかのPCにプレゼンテーションを表示したりする同社のリアルタイム・コラボレーションソリューション「Intel Unite」とvPro対応の小型PCを組み合わせて実現されるもので、利用者の89%がほかの人にも推奨するとの評価を下したとのことで、2016年には3000室の導入を目指すという。

Intelの2015年のIT関連の概要

ほかにも業務改善としては、会議室を予約だけして、使わないで空いたまま、という状況はどの会社でも聞く話しだが、それを防ぐために、会議室にセンサを設置し、予約開始時刻から5分経っても、実際に使用している状況が確認できなければ、自動的に開放され、かつ使わなかった人を社内ポータル上でブラックリストとして提示するといった取り組みや、IT周辺機器の自動販売機の導入、移動式会議ロボットによる、遠隔地からの離れた場所での会議の利便性の向上なども進められており、離れた場所でも顔と顔を合わせられることによるコラボレーションの加速といった価値も確かめられているという。

生産性の改善に向けたさまざまな取り組み

さらに、こうした遠隔地同士のコラボレーションによる業務効率の改善としては、クラウドを用いた製品検証機能の共有とテストサイクルの短縮を行っており、実際に製品ラインアップの増加に加え、SoC化による回路規模の増大と複雑化が生じていながらも、3~4週間程度の製品検証期間の短縮を実現したという。「IT部門としては、ユーザーの生産性向上などを実現していく必要がある。自動化された社内テストを通じて、製品品質の向上と市場投入までの時間短縮を図ることが可能となった」(同)とし、例えばバグを特定する分析のためのテストプロセスは従来60分程度かかっていたが、これが5分程度に短縮され、そうした積み重ねから、技術者の時間の節約につながり、結果として1製品あたり12万8000ドルのコスト削減を実現したとする。

製品品質向上におけるIT部門の役割。ビジネス価値より上はIT部門のみならず、他部門との連携をとることにより、実現されるという

さまざまな事業部とIT部門が連携していくことで、ビジネス価値が生み出され、その結果として業務改革が実現される。そうした流れは今後、ますます加速していき、役員室での意思決定に活用されることになるが、そうしたデータの分析は役員室のみならず、製造の現場でも活用されることにもなる。「統合分析ハブ(IAH)の実装後、データ定義を調整し、複雑なクエリのデータをモデル化するために必要な時間が従来比で50%短縮されたほか、インサイトの待ち時間は従来数カ月かかっていたものが、生データとしていじることが可能なデータであれば1日、BIアナリストが処理できる環境にするにしても数日で実現できるようになり、これによりデジタルメディアのマーケティング費用は1四半期あたり17万ドルの削減ができた」(同)とするほか、「製造現場では約50億のセンサポイントの処理を行っており、多くのデータが生み出されているが、その中から重要なものを特定し、ビジュアライゼーション化するなどを行ったことで、生産管理者がモバイル端末などで確認、アクションなどを行えるようになり、従来は4時間かかっていた分析を30秒で実行できるようになった。在庫管理もインメモリ処理による意思決定の加速を行うことで、在庫の最適化を実現。2015年から2016年にかけて3700万ドルの削減を見込んでいる」(同)という。

デジタル化により意思決定の迅速化や製造効率の改善などが行えるようになった

同社のHPCの概要。スーパーコンピュータの性能ランキングTOP500でも81位にランクインしている。近年の取り組みとしてPUE1.06を達成。実現にあたっては、外気を用いる自然換気冷却や密結合蒸発冷却などを活用したという

エッジノードが生み出す膨大なデータを活用することで業務の効率が改善される一方で、そうして稼動する機器が増えるにしたがって外部からの攻撃にさらされる可能性も増加していくこととなる。同社でも、マルウェアが前年比2倍の勢いとなる約2億2500万件が検出されるなど、脅威のうち99%を占める従来型のものに対し、保護・検出・修正の3点のバランスを意識したアーキテクチャの構築で対応しているほか、残り1%の巧妙で絶えず進化する標的型攻撃などにリソースを集中し対応を行っているとする。

また、いまや避けては通れないクラウドの活用においても、セキュリティをどのように担保していくかが課題となる。例えばSaaSアプリケーションでは、「IDとアクセスの管理制御」、「アプリケーションとデータの制御」、「ログと監視の制御」といった3つのリスク領域におけるセキュリティ管理に集中することで、知的財産権の保護に対するベストプラクティスを作成することに成功したとする。ただし、パブリッククラウドのSaaSエコシステムは絶えず進化しており、プロバイダと制御を継続的に再評価する必要があるとしており、Intelが掲げるセキュリティガイドラインにマッチしているのか、などを基本に、新たなSaaSのユーセージモデルに対してセキュリティを担保していくとした。

Intelのセキュリティの基本的な考え方とSaaSアプリケーションにおけるセキュリティリファレンス

なお、同社では今後の5年間のIT業界の支出の半分以上がデジタル体験に関係してくるとしており、そうした変革を率先して推進していくことで、ビジネスの成長を継続させ、かつビジネス価値の向上と資産の保護につなげていきたいとしている。