国内トップシェアのPanasonicのネットワークカメラの中核は、パナソニックシステムネットワークス社の福岡事業所(福岡市博多)にある。ここでは、ネットワークカメラの開発およびマーケティング活動を行っており、事業所内にはショールームもある。今回ここで、パナソニックシステムネットワークス マーケティング統括課 主幹の寺内氏に、同社のネットワークカメラの最新技術について取材を行った。

パナソニックシステムネットワークス社の福岡事業所(博多)

事業所内のネットワークカメラのショールーム

寺内氏によれば、同社のネットワークカメラ用途の大半は防犯・監視目的のセキュリティ領域だという。この領域では、人の顔を判別できるようにすることが目的となっており、画質をどう上げていくかがこれまで追求されてきたという。

寺内氏は「そういう意味で、雰囲気を正しく伝えることを目指したデジタルカメラとは、開発の方向が若干異なります」と話す。

ショールーム内にあった最大32台のカメラ映像を記録できるNwework Disk Recorder「WJ-NV300」。カメラだけなく、レコーダーなどシステムで提供できるのが同社の強みだという

最新機種である全方位ネットワークカメラ「WV-SFV480/WV-SFN481」では、「4K Ultra HD エンジン」を搭載し、約9メガピクセル(2,992×2,992ピクセル)、同じく「4K Ultra HD エンジン」を搭載した屋外型カメラ「WV-SFV781L」では12M(4,000×3,000ピクセル)の画像を出力できる。そのため、顔を認識できるだけでなく、人の表情や顔の傷まで判別できるようになっている。また、画質が向上したことで、1台のカメラのカバーエリアが広がり、設置台数を抑えることができるというメリットも生まれているという。

9メガピクセルカメラ「WV-SFN481」。周りのスピーカーのように見える部分はオプションのマイク「WV-SMR10」(後述)

「WV-SFV781L」。赤外線照明を搭載し、照度0ルクス環境下で30m先まで撮影可能なほか、水滴がつかないように「親水コーティング」されている

画質の向上にはカメラ自体の性能向上のほか、ソフトウェアの進歩も大きく貢献している。大きな技術革新となったのが、同社が1997年に開発した「Super Dynamic」だ。この機能は暗いところが黒くつぶれない、明るいところが白くつぶれないということを目指し開発された技術で、シャッタースピードの異なる画像を合成することで、画素単位の明るさを補正するものだ。

「Super Dynamic」のOFF(左)とON(右)

画質が向上したことで、逆に新たな問題も発生している。プライバシーだ。そのため、画像の中から人だけを消し去る「MOR(Moving Object Remover)」という機能も開発されている。MORは人だけでなく、車など物体も消去することが可能だ。MORは、プライバシーの面だけでなく、店内のビデオから人を消し店舗レイアウトだけ表示させるなど、業務用途でもニーズがあるという。

「MOR(Moving Object Remover)」

そのほか、撮影画像の中に表示したくない部分がある場合、その部分をプライバシーゾーンとして、表示しないように設定する機能もある。

プライバシーゾーン

拡張機能ソフト「WV-SAE200W」を使うと、さらにセキュリティ機能を強化できる。

「進入検知」では、カメラの指定した画角内に移り込んだ人物や物体を検知して、移動した軌跡とともにアラームを発信する。また「物体検知」では、置き去りや持ち去りを検知。置き去りでは、爆発物などそれまでなかったものを検知し、置き去りは、逆にそれまであったものがなくなったことを検知するもので、盗難に有効な機能だ。

「進入検知」

「置き去り検知」。以前はなかったバックを検知

「持ち去り検知」。ここでは、絵画がなくなったことを検知している(上図参照)

そのほか、指定したエリア内に一定時間(10秒~5分)以上うろついている人を検知する「滞留検知」や、指定したラインを指定方向に超えたことを検知する「ラインクロス検知」もある。

「滞留検知」

「ラインクロス検知」

興味深いのは「方向検知」で、これは一方通行の逆走など、人物や物体が特定の方向に移動したことを検知してアラームを発信する。

「方向検知」。特定の方向(右の画像)のみエラーとしている

また、ショッピングセンターなどで、過去に万引きなど問題を起こした人物がカメラの前を通過するとアラームを発生する機能もある。これは、サーバ側に保存された過去データと照合して判定するという。

要注意人物検知。検知したカメラをマップ上に赤で表示(右)

マーケティングでの利用

ネットワークカメラは防犯・監視用途だけでなく、マーケティング用途でも活用されつつある。その1つがヒートマップだ。ヒートマップでは、量(どれくらいの人が通過したのか)と時間(どれくらい長く滞留したのか)を色別に表示してくれる。これは、売れ筋を考慮した棚のレイアウトを考える際に参考に有効なほか、店舗内にどのように人を配置をするのか、店員が無駄な動きをしていないかなどのチェックにも利用できるという。

また、人物の年齢、性別などを特定することも可能で、これらの統計情報を集計することで、客層を分析することができる。

ヒートマップ

映像だけなく音も検知可能

パナソニックでは、カメラの周りにオプション(WV-SMR10)として全方位ネットワークマイクを取り付けることができ、音もキャッチできる。特徴的なのは、指向性を持っている点で、指定した方向の音だけをキャッチできる。WV-SMR10には16個の全方位マイク(マイクはあくまで全方位)が取り付けられており、これらのマイクがキャッチした音から、指定した方向以外の音をデジタル処理で消すことによって指定した方向の音だけをキャッチする。

9メガピクセルカメラ「WV-SFN481」の周りの取り付けられた「WV-SMR10」

金融機関や福祉施設などで重要事項を説明している際に、映像とともに音も録音することによって、あとで「聞いていない」といったトラブルが発生した際に活用するという。実用上は5m程度の範囲の収音が可能だという。

指向性マイク。この写真では、上の人物(赤の四角がある)の音声だけを拾っている

家庭向けのネットワークカメラ

また、パナソニックは8月26日、家庭向けに「ホームセーフティー&見守り」シリーズを発表した。この製品は屋内・屋外の様子をスマートフォンで確認できる「セーフティー」と「見守り」の両機能を搭載した製品だ。このシリーズはカメラのほか、窓の開閉を感知する開閉センサー、人感センサーなどにより構成されている。

屋内用カメラ

開閉センサー

屋内カメラには、動作検知、温度センサー、音センサーがあり、センサーの検知があるとスマートフォンに通知され、映った映像を見ることができる。カメラには赤外線による暗視機能を搭載しており、夜間でも映像も確認できる。スマートフォンでしゃべったことをカメラから出力することで、侵入者に警告することも可能だ。今後は、ビジネスだけでなく、家庭にもネットワークカメラが普及しそうだ。

植木を持ち去ろうとする人を検知して、スマートフォンで映像確認