世界中で医療・人道援助活動を展開する国際NGO

1971年にフランスで設立された、非営利で国際的な民間の医療・人道援助団体、国境なき医師団。同団体はこれまで、ボスニア、ソマリアなどの紛争地や、エボラなどの感染症がまん延する地域、ハイチ大地震、東日本大震災などの自然災害の被災地において、緊急医療援助活動を行ってきた。また、医療・人道援助団体であるとともに、援助活動の現場で目にした、人権侵害や紛争・災害の状況などを国際社会に伝える「証言活動」も主な使命としている。

そうした活動資金のほとんどは、民間からの寄付でまかなうなど、独立・中立・公平の原則に基づく人道援助活動が高く評価され、1999年にはノーベル平和賞を受賞。現在、世界約70の国と地域で、日本人医師や看護師をはじめとする3万6000人のスタッフが援助活動を行っている。

この国境なき医師団の日本での事務局となるのが、特定非営利活動法人 国境なき医師団日本である。昨年、日本からは87人のスタッフが23カ国へ派遣されて援助活動を実施。最近では、今年4月に発生したネパール大地震の被災地に6人の日本人スタッフを派遣している。派遣スタッフの職種は、医師、看護師のみならず、物資輸送の専門職や建築士、マネジメント専門家など多様だ。

一方、事務局のスタッフは約50人となっており、主に現地活動のコーディネイトや寄付金等の資金調達、広報活動などを行っている。昨年、日本での寄付金の総額は約70億円に達しており、その9割以上は民間からのものである。しかも、個人からの寄付が最も多い。

国境なき医師団日本 財務/IT IT担当マネジャー 近藤昇久氏

このように、人々の善意の寄付行為によって活動が成り立っている同団体にとって、活動の意義などを広く知ってもらう広報活動や寄付金の募集活動は極めて重要である。最近ではオンラインによる寄付の伸びが目立つという。そんな団体における広報と資金調達の中核を担う公式Webサイトとオンライン寄付受付システムのインフラには、テコラスのフルマネージドホスティングサービスが使われている。

テコラスでは2014年よりプロボノ(各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を生かして社会貢献するボランティア活動)としてインフラ環境を国境なき医師団日本へと寄付するとともに、IT運用管理のスペシャリストとしてのスキルも提供しているのである(回線料は除く)。

財務/IT IT担当マネジャーの近藤昇久氏は、テコラスのサービス導入についてこう話す。「皆さまからの寄付金ですべての活動費をまかなっていますので、内部のコストをなるべく抑えながら、現地の活動資金にどれだけ回すことができるかがとても重要です。システム投資も最小のコストで最大の成果を上げなければなりませんので、高い技術力に基づいたサービスを無償で利用できるのは非常に助かっています」

知識・経験豊富なプロの支援でトラブルゼロを実現

国境なき医師団日本 財務/IT ビジネス・アプリケーション・エンジニア 建部真奈氏

国境なき医師団日本はこれまでも、Webサイトでの広報活動やオンラインでの寄付金受付は行っていたが、システム障害やメンテナンス時のサービス停止に悩まされていた。

「知名度の上昇とともに寄付金の額も大きくなり、しかもオンラインによる寄付が増加していることから、Webサイトの安定性をいかに確保するかというのは喫緊の課題でした」と振り返るのは、財務/IT ビジネス・アプリケーション・エンジニアの建部真奈氏だ。

2013年の春、問題の解決策を模索しつつ、Webサイトのリニューアルプロジェクトも計画していたこの時期、テコラスからプロボノによるインフラ提供の話が持ちかけられた。

「最初から具体的な所まで踏み込んだ話をいただきました。テコラスには大規模Webサイトの豊富な運用実績もあるので、技術的に問題ないことは想像していましたが、実際に話を進めるなかでその豊富な経験やノウハウを実感できました」(建部氏)

こうして両者でサービス内容などを細部まで詰め、移行プロジェクトがスタートしたのが2014年4月。その後、5月にシステム設計を行い、6月から8月にかけてサーバの構築テストを実施。そして同年9月、移行が完了し、新たにWebサイトのオープンを果たしたのである。

建部氏は言う。「以前はマネージドサービスではなく、インフラだけを提供するサービスを利用していたので、『ワン・オブ・カスタマー』という扱いであり、当方の固有の問題はどこに原因があるかわからずじまいでした。それがテコラスさんに相談すると、"このような構成の場合はこのような問題が考えられるので、こうした構成にしたほうが良いのでは"といったように、問題の原因のみならず改善策まで提案してもらえました」

近藤氏もこう続ける。「システム設計時も積極的にアイデアを提供してくれるなど、高い技術力のあるスタッフがそろっていることを感じました。プロジェクトの進行に多少の遅れが生じた際も、こちらの依頼を受けて社内体制を整えるなど、きちんとキャッチアップしてもらえました。サーバ・ホスティングのサービスとはいえ、サーバの設計やシステム連携の検証などが大事なので、知識と経験のあるプロの力を借りることができるのはとても大きいです」

テコラスが提供するインフラ環境への移行後、Webサイト、オンライン寄付金受付システムのいずれも、これまで特にトラブルは発生していないという。

「稼働しているシステムは以前と同じですが、明らかに安定度が向上しました」(建部氏)

「昨年のエボラ出血熱など、世界的に関心を集める出来事があると、Webサイトへのアクセスが一気に増えますので、そうしたなかで安定して運用できるというのは安心につながっています。これからはWebサイトでの迅速な情報発信がより問われるようになりますので、将来を見据えた環境が構築できたと思っています」(近藤氏)

今後、国境なき医師団日本では、テコラス提供によるインフラの拡大や新たなシステム基盤への適用も視野に入れている。社会への貢献度の高い非営利団体が少ないITコストをどう補えばいいのか──今回のプロボノの事例は効果的な問題解決策を示すとともに、IT企業の新たなCSRのあり方を示すものと言えるだろう。