SAPがインメモリによる高速なプラットフォーム技術「HANA」を中核に、攻めの戦略に出ている。今年2月にはデータベースをHANAに限定した次世代ERP「S/4 HANA」を発表、それ以前に発表していたPaaS技術の「HANA Platform Cloud」と共にHANAを中心としたポートフォリオを示した。

このように進化を続けるHANAについて、SAPが5月5日から3日間にわたり米オーランドで開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW 2015」で、エグゼクティブボードメンバーでプロダクト&イノベーションとして技術全体を統括するBernd Leukert氏に話を聞く機会を得た。

SAP Member of the SAP Executive Board, Products & Innovations Bernd Leukert氏

--HANAの土台を築いたVisal Sikka氏の後任として技術トップを引き継いで1年が経過した。この1年の取り組みをどう振り返るか?--

Leukert氏: この1年の間、戦略の継続にフォーカスしたが、それと同時にいくつかの重要な変化ももたらした。

1つ目の変化はプラットフォームだ。HANAはもともと業界向けプラットフォームを目指してしており、そのための戦略的特徴を備えていた。2014年7月、HANAをサービスのプラットフォームとするPaaS「HANA Cloud Platform(HCP)」を発表した。HANAの機能にPaaSのためのサービスAPIを加えることで、技術レイヤに加えて完全なアプリケーションポートフォリオを利用できるようにした。HCPは最も包括的でオープンなPaaSと言える。

2つ目の変化はアプリケーション側にある。2014年のSAPPHIREの中心は「Business Suite on HANA」が中心だったが、2015年2月に「SAP Business Suite 4 SAP HANA(S/4 HANA)」を発表した。S/4 HANAでは、HANAがアプリケーション・ポートフォリオに入ることでHANAの持つ潜在性を完全に解き放つことができる。Business Suiteは記録するシステムから、意思決定を支援するシステムに変革した。

3つ目はビジネスネットワーク分野だ。ビジネスネットワークはSAPのアプリケーション・ポートフォリオを置き換えるのではなく、拡張するものだ。これまで、調達分野でAribaの資産を持っていたが、これに加えて2014年4月にFieldglassを、秋にはConcurを買収した。この2社を獲得したことでビジネスネットワーク戦略を大きく前進できる。

--HCPはどのような点で競合に対し優位性を持っているのか?--

Leukert氏: 第一の差別化のポイントはHANAの技術資産だ。HANAは、スピードなど既存のデータベース・プラットフォームにはない特徴に加えて、複雑性を排除するアーキテクチャを備えている。これは、IBMやOracleが実現していないものだ。また、構造化データ、非構造化データのサポートのほか、地理空間機能にも対応しており、例えば、サービス技術者がマシンの修理に行く時、マシンの位置情報がわかる。

次に、完全なアプリケーションポートフォリオにアクセスできることだ。開発者は豊富な機能に加えて、HTMLベースの新しいUI「Fiori」を利用して新しいアプリケーションを構築できる。モバイルにも対応しており、「SAP Mobile Platform」を別途実装する必要はない。

HCP上にアプリを構築したら、統合レイヤーの「HANA Cloud Integration」を利用してデータ構造を他のオンプレミスアプリケーションやクラウドアプリケーションとの間でマッピングできる。