そこで登場したのが、ISDNリモートルータ「RT100i」というわけだ。これ、未だにユーザー向けメーリングリストの名前に名を残している、記念すべき製品である。

ISDNリモートルータ「RT100i」

「RT100i」の背面

ただ、個人レベルではISDN回線や高速ディジタル専用線そのものが「高価な買物」であり、RT100iも(この種の製品としては安価だったとはいえ)26万円もしたので、さすがに「ちょっと、個人で気軽に導入してみようか」という種類の製品ではなかった。

それでも、個人ユーザーと企業ユーザーでは価値観や費用対効果の基準が違う。今のブロードバンド回線の基準からすれば途方もなく低速だが(念のために書くと64kbpsである)、ISDNは高い信頼性と安定性を備えており、アナログ電話回線でモデムを使って接続するよりも頼りになる。

そのISDN回線を介して、遠隔地にあるLAN同士をルータで接続したり、インターネットに接続したりできるとなれば、その種のニーズを持つ企業ユーザーにとって、ありがたい製品であったのは間違いない。

しかも、他社製のルータはもっともっと高かったのだ。ルータに限らず、昔はコンピュータそのものも、そこで使うソフトウェアも、そしてネットワーク機器も高かった。数千円~数万円で家電量販店の店頭に製品が山積みされている現在とは話が違う。

1990年代の半ばから後半にかけて、月額38,000円で128kbpsの「OCNエコノミー」が、定額常時接続を可能にした画期的なサービスとみなされていた時代である。ちなみに、このOCNエコノミーとヤマハRTシリーズを組み合わせて使うためのノウハウも公開されていた。(設定例1 /設定例2)

RT80i

そういう事情もあり、個人でも手を出せそうなレベルまで降りてきた製品は「RT80i」ということになる。ちなみに価格は66,800円。1997年9月に発表された。

「RT80i」

ルータに限ったことではないが、「まず高価な上位製品が登場してから、その実績とノウハウを活用する形で、もっと安価な普及版の製品が出てくる」という流れは世の中にある。RT80iも同じで、「ファームウェアの無償更新やバグフィックスの速さ」「安定稼働と高品質」「マニュアルなどを日本語で使える」といったRT100iのメリットはそのままに、身近なところに降りてきた製品といえる。また、価格帯の低下だけでなく、アナログポートを設置していたあたりも、個人ユーザーに対する配慮だったといえるかも知れない。

自分で使ったことがなかったので当時の製品紹介記事を探してみたら、「WWWブラウザからの設定が可能」との記述があった。これもまた、個人でも使いやすいように敷居を下げる配慮のひとつといえよう。

RTA50i

そして、さらに「これは」と思ったのが、「ネットボランチ」第一号機となった「RTA50i」である。

まだ高速の常時接続サービスを安価に利用できる御時世ではなかったので、アナログ回線とモデムの組み合わせに比べれば速く、しかも安定したインターネット接続手段といえばISDNしかない。しかし料金は青天井だから、「必要なときだけ発呼してダイヤルアップ接続、用が済んだら自動切断」という機能は必須のものだった。調子に乗ってつなぎっぱなしにしていたら、大変なことになる。

ターミナルアダプタでも同じことはできるが、それではターミナルアダプタを接続したPCからしかISDN回線を利用できない。その点、ダイヤルアップルータのRTA50iであれば、LANに接続しているすべてのPCで、ひとつのISDN回線を共用できる。

「RT57i」

このシリーズの特徴は、個人ユーザーにもアピールすることを狙ったのか、匡体のデザインに凝っているところだと思う。特に、この次に登場したRTA52i、あるいは後に登場した「RT57i」あたりは、「単なる四角い箱」にとどまらない、凝ったデザインを身にまとって登場した。ネットワーク機器としては異例といってよいだろう。

しかも、Webブラウザを使った「かんたん設定画面」であるとか、ファームウェアの更新対応であるとか、ヤマハルータが高い評価を得ている機能はちゃんと備わっていて、手抜きをしていない。

ごますりでも何でもなく、これを導入しようかと本気で考えたのだが、当時はまだ会社勤めの身。あまり長い時間を過ごすわけでもない自宅には、ISDN回線を導入する踏ん切りがつかなかったというのが正直なところである。