皆さんが勤務する企業を見渡した時、マーケティングが「広告に代表される顧客とのコミュニケーションに関する方法論」と狭く理解されていることはないだろうか。また、既存顧客との信頼関係を構築・維持するため、いわゆる「どろどろ」とした営業活動が重視され、マーケティングのような理論的な顧客獲得アプローチは二の次だったりしないだろうか。さらに、製品が売れるかどうかは技術力が左右するという考え方が前提で、販売やマーケティング部門の存在感が小さいといったことはないだろうか。

こうしたことが起きているならば、マーケティングの重要性が正しく理解されていない可能性がある。また、消費者取引中心の企業で長年蓄積されてきたマーケティングの理論アプローチを、企業や組織において部品、原材料、機械・設備などの生産財を提供する組織に当てはめようとすることのひずみが誤解を生んだとも考えられる。

現在、中長期的な有望分野として、マーケティング分野へのIT投資の積極化が期待されているが、最初の出発点としてB2C(消費財)マーケティングとB2B(生産財)マーケティングの相違を理解することが重要だと言える。両者の相違を理解することが、マーケティングITを必要とする顧客への正しいアプローチにつながることになるだろう。本稿では、B2BマーケティングとB2Cマーケティングのあり方を整理してみたい。

下図に示したように、企業や組織を対象にビジネスを行うB2B企業の顧客は、最終消費者ではなく、企業内のステークホルダー集団である。そのため、顧客の購買決定プロセスと顧客との関係に相違が現れる。

B2BマーケティングとB2Cマーケティングの相違

複雑な購買決定プロセス

不特定多数の消費者を相手にビジネスを行うB2C企業と比べ、B2B企業の顧客の数と単位が異なる。顧客の数が少ないと一見、管理が容易になるように思われるが、実際は顧客がステークホルダー集団で構成されているゆえの複雑なマネジメントが必要となる。

それは、購買の最終決定が、開発部門、生産部門、購買部門などの各担当者や管理者の合議で形成されるためである。そして、必要な財の必要性、購入時期、購入方法、購入先を明確な基準を設定したうえで、購入を判断する。B2Bビジネスにおいて、広告に接することで購買意欲がかき立てられたことをきっかけに製品・サービスの購入に結び付くことはまれなのである。

長期にわたる顧客との関係

B2Cビジネスの場合、特定のブランドへのロイヤルティにより、同じ製品・企業が選択されることから、ブランド価値を高めることが顧客との長期的な関係を維持するうえで重要である。これに対し、B2B企業の顧客の場合、カスタマイズや供給量といった個別の要求にこたえることができることを理由に、過去に取引経験のある企業と取引を長期間にわたって継続することがよくある。

また、継続的な取引を行うと、顧客企業に関する知識が蓄積しやすくなる。逆に言うと、B2B企業の場合、顧客と直接の接点になる営業部門が顧客情報を独占することなく、研究開発部門をはじめとする社内各部門と共有することが、首尾一貫した体制で顧客に価値ある商品を提供し続けることにつながるのだ。

マーケティングITの活用におけるポイント

マーケティング業務を支援するためのソフトウェアが市場形成期に入りつつある昨今、国内では「マーケティング専門組織がない」「リーダーシップを取るCMO(Chief Marketing Officer)がいない」といった点が問題視されている。営業とマーケティングの組織分化が進んでいない傾向はB2B企業で顕著である。

これは、B2B企業が国内の既存顧客を中心にビジネスを展開してきた歴史が長く、体系化されたアプローチで新規顧客を獲得してこなかったためだ。このことは不特定多数の消費者を対象にビジネスを展開してきたB2C企業と異なり、社内にマーケティングに関するノウハウが十分に蓄積されていないことを意味する。また、製品・サービスの機能や特徴に照らした顧客セグメンテーションを明確にし、見込み顧客となりうる層を抽出するターゲティングが属人的なスキルに依存している可能性も高い。

この顧客セグメンテーションとターゲティングは、見込み顧客の獲得とは独立したプロセスであり、顧客を分類して把握する「属性」という非常に重要なインプットに影響する。この定義が甘いと、属性分析がうまくいかず、見込み顧客に対する効果的な施策を展開することは困難である。言い換えると、企業の損益計算書に明示される販売管理費を正しく使えないことにつながる。

マーケティングITベンダーおよびその導入を支援するベンダーには、成熟していないマーケティング支援という市場を育てていくため、ユーザー企業と協調して「マーケティングITの顧客を深く理解する」プロセスに取り組む姿勢が求められる。