急激なITの進化により「情報処理」はコモディティ化しており、ビッグデータを活用した各種予測システムや、コンピュータが理解し得る定量データの入手は容易になった。しかし、いまだにデータとツールがあれば「分析」が実現できるという誤解はビジネスシーンに蔓延している。

そうしたなか、12月9日に開催されたセミナー、マイナビニュースフォーラム2014「分析&実践力で競争優位に立つ!」では、楽天の執行役員 兼 楽天技術研究所の代表、森正弥氏が、『「分析」だけじゃ成果は生まれない!! 現場で使える!「時代をとらえたデータ活用」のための考え方とは?』と題する講演を行った。

楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表の森正弥氏

「そもそもの"分析"のスタートラインが間違っているケースが多い」と主張する森氏の講演では、事業で成功をつかむために必要とされる、時代をとらえたデータ活用の考え方やアプローチについて、楽天における成功事例をもとに解説がなされた。

売れる売れないの判断は日本の小売ではもはや無意味!?

森氏が代表を務める楽天技術研究所は、楽天グループが展開する様々なビジネスに貢献する新しい技術を開発するために設けられた組織である。現在、コンピュータ技術者を中心に50人のスタッフが東京、ニューヨーク、パリで活動している。

森氏は同研究所で開発した、AR(Augmented Reality:拡張現実)型のO2Oサービス「AR-HITOKE」を紹介。「HITOKE」とは、楽天の社内用語となっている「ひとけ」を意味する。同社では、よく売れている"人気"商品のことを「ひとけがある」と表現するのだという。AR-HITOKEは、実店舗にある商品をスマートフォンで覗くことで、人気商品かどうか、他の顧客や友人の評判はどうかなどを視覚的に確認できるようにするサービスだ。

AR-HITOKEでは、スマートフォンのカメラで商品を撮すことで、ディスプレイ上の商品の前に小さな人間のアイコンが並ぶ。それぞれのイラストは、青が男性、赤が女性で、色の濃さで世代を表している。各アイコンには吹き出しが付いており、そこにはソーシャルネットワーク上で発信された、その商品に対するレビューのコメントが表示される。また、カメラをズームアウトすると、一度に複数の商品とそれぞれのアイコンを表示し、商品間の人気を比較することが可能となっている。

AR-HITOKEの概要

続いて森氏は、日本の小売業界の特徴について言及し、「日本の小売は、顧客も商品もロングテール。日本にはロングテールにマッチした土壌がある。こうした特徴は、他のアジア諸国にも欧米にもない日本ならではのものだ」と主張した。

森氏が言う日本の小売の特徴とは、主に以下の3点となる。

  • 各地に特産品が存在し、コアな趣味を持つ人が多い
  • 販売者も購入者もロングテールである
  • 常識では計れないようなものが売れる

「「自分が客だったら買わないだろう」といったよくある平均値的な概念が意味を持たなくなってきている。なぜなら、日本人それぞれが独立した嗜好を持った個人であり、ロングテールだからだ」(森氏)

従来、人々の購買活動は地理的な制約や時間的な制約にとらわれていた。行ける場所、行ける時間、店舗がオープンしている時間などといった制約だ。しかし、こうした地理的、時間的、空間的な制約から解き放たれた時に、人々は完全に個人となって必ず自分の欲しいものを求めるようになる。つまり、ロングテールと化すのである。

森氏はこう強調する。「ロングテールというのは、どのような軸で分析してもロングテールになるという特徴がある。このことは、人々が自由であることの裏返しだと言える。つまり、年間数百万や数十万円しか売上のない商品に対して、複数人のチームでデータを分析してもあまり意味がないということだ。この商品が売れるのかどうかではなく、この商品を買う人がいたとして、きちんとその人の下へと届くのかどうかを考えるようにしないといけないのが、現在の日本の小売。発想の逆転が大事なのだ」

ロングテール商品の極端な例