富士通研究所は、手のひら静脈画像からその特徴を2048ビットの特徴コードとして抽出して照合する技術を世界で初めて開発したと発表した。

富士通研究所が新たに開発した手のひら静脈認証システム

従来、手のひら静脈認証では、静脈特徴パターンを比較して照合処理を行っていたが、今回富士通が開発した技術では、静脈画像から抽出した「0」と「1」で表される特徴コードを用いることで、単純にビット比較による高速な照合を実現する。そのため照合時間は、一般的なPCを使用し、1対1で認証、照合処理を行った場合、従来技術の数ミリ秒から約1/1000となる約1マイクロ秒に短縮可能だという。また、データ量も従来に比べて約1/10に削減できる。

生体情報からの特徴コードの抽出

特徴コードは、手のひら静脈画像を情報量に応じてマトリックス状に分割し、分割した領域から静脈パターンの特徴成分を抽出し、情報量削減の技術を用いて最終的に2048ビットの特徴コードを抽出する。画像領域を適応的に分割することで、多少の位置ずれや変形があっても影響を受けにくい特徴抽出方式を実現している。また、抽出された特徴コードから元の画像を類推することは困難だという。

特徴コードは完全なデジタル情報であり、各種の秘匿技術、暗号技術との連携も容易だという。

特徴コードの生成・照合フロー

富士通研究所 ソフトウェア技術研究所 セキュアコンピューティング研究部 主管研究員 新崎卓氏

富士通研究所 ソフトウェア技術研究所 セキュアコンピューティング研究部 主管研究員 新崎卓氏によれば、バイオメトリクスの適用拡大に向けたニーズとして、システム提供者側からは、普及が拡大し、他のシステムでパターンが漏洩した場合に、自社システムに与える影響が心配だといった点や、できれば生体情報そのものは管理したくないというニーズがあり、利用者側からは、いろんなシステムに生体情報を預けるのは不安だという声があるという。

バイオメトリクスの適用拡大に向けたニーズ

今回同社が開発した認証技術では、静脈画像そのものを認証に利用せず、静脈画像からそのパターンの特徴を数値化した特徴コードを抽出して利用するため、これらの課題を解決できる。また、1つの生体情報から複数の特徴コードを生成できるため、生体認証サービスごとに異なる特徴コードを登録することが可能だという。これにより、登録した情報が漏えいした場合でも、別の特徴コードを生成して再登録することで、サービスを使い続けることができる。

想定される適用シーン

新崎氏によれば、1つの生体情報から2の100乗程度のコードが抽出可能で、それらのコード間でセキュリティ上の強弱はないという。また、同氏は2048ビットにした理由を、4096ビットでも可能だが、セキュリティ強度や照合スピードなどのデータのバランスを考慮した結果2048ビットにしたと説明した。

ただ、特徴コードによる認証では、静脈画像パターンを取得するたびに変化する手の傾きや形などに影響されない安定した特徴コードを生成する技術が必要で、富士通では今回、手のひら静脈画像の手の輪郭情報を用いて、手のひら静脈画像の位置補正や形状補正を行うための画像正規化技術も開発した。

この画像正規化技術により、センサーから取得された手のひら静脈画像を、一定の位置と形に置かれた静脈画像のように変換し、大まかな位置合わせを行うとともに、大きな変形を取り除き、特徴コードの抽出再現性を向上させている。

画像正規化技術も開発

富士通研究所 ソフトウェア技術研究所 所長 原裕貴氏

富士通研究所 ソフトウェア技術研究所 所長 原裕貴氏は、「バイオメトリクスの中で、指紋認証や手のひら静脈認証が入力の簡単さや認証の精度において両立している。すでに手のひら静脈認証は、世界で4,000万人以上が利用しており、これをさらに広げるために、決済、自治体サービスにおいて国家レベルで利用されるようにしていきたい。本日発表の技術はそのキーになる」と述べた。

さらなる利用拡大にむけて

同社では2015年度の実用化を目指して、入力時の手の傾きや形状などの制限を減らすための画像正規化技術の強化や、特徴コード抽出技術の高精度化、本技術を利用した生体認証基盤の設計・構築を行っていくという。