創業者兼CEOのMichael Dell氏

Dellは12月12日より2日間、本拠地のテキサス州オースティンで年次ユーザーカンファレンスを開催した。2回目となる今回は、全世界から6000人を上回る顧客や提携企業が参加した。

初日の12日、創業者兼CEOのMichael Dell氏が基調講演を行い、ソリューションベンダーとしてのDellをアピールした。

Dellは4年前より、数年計画でエンドツーエンドのソリューションベンダーへの変革を図っている。28年前、ここテキサスのテキサス大学オースティン校の学生としてDellを創業したDell氏はまず、クラウドへの移行、BYOD、セキュリティなど顧客が直面している課題を解決するにあたって、「顧客にとって差別化となるバリューを提供するためには、ソフトウェアとサービスの統合により単なる製品提供から先に進めることが必要だ」と述べる。

Dellは100億ドルを費やして転身計画を進めており、この1年だけで50億ドルを投資してソリューションポートフォリオを構築したという。

Dellは現在、PC事業のクライアント、サーバー、ストレージ、スイッチを含むエンタープライズソリューション、ソフトウェア、サービスの4つに事業を分けており、Dell氏はそれぞれについて戦略とこれまでの進捗を語った。

クライアント

PC事業を源流とするDellだが、単なるPCではなく、マルチデバイス環境、デスクトップ仮想化(VDI)、BYODなどのトレンドに触れ、「PCはいまでも大切だ」と強調した。

PCの出荷台数が伸び悩み、モバイルが注目を集める中、DellはPC事業を持ち続けている。一時期PC市場で最大のシェアを誇っていたが、Dellは現在米Hewlett-Packard(HP)、Lenovoに次いで第3位。市場全体が伸び悩む中、ライバルIBMはすでにPC事業を切り離しており、HPも一度は切り離しを図った。

「年間4億台のPCが新たに出荷されており、インストールベースでは約15億台が使われている。仕事の端末となるといまでもPCだ」とDell氏は述べた。なお、前日に報道関係向けに開かれたパネルでは、「エンドツーエンドのソリューションにおいて重要」とPC事業の重要性を説明した。

さらには、10月に登場した「Windows 8」が新しいチャンスをもたらすとDell氏は続ける。タッチ画面や新しいインタフェースにより、「ソフトウェアとハードウェアの両方で新しい革命が起こる。可能性は無限」(Dell氏)。実際、顧客からの関心はとても強いという。Dellはここで、「Latitude 10」「XPS 10」「XPS 12」などの新製品を紹介した。

「Latitude 10」(左上) / 「Dell XPS 12」(右上、左下、右下)

エンタープライズソリューション

サーバー、ストレージ、ネットワークとデータセンターに必要な技術を揃えるエンタープライズソリューションでは、まず、Dellの実績から始めた。

サーバーではIDCの調査で第3四半期、北米とアジア太平洋地区でナンバー1となった(出荷台数ベース)。日本を含むアジア太平洋地区では13%増の成長を遂げている。世界全体では、ナンバー1(HP)との差を64000台まで縮めた。「競合他社が台数を減らす中、われわれはシェアを増やしている」とDell氏は胸をはる。約20年前に参入したサーバーでは、Intel Xeon E5を搭載した第12世代のPowerEdgeを発表したところだ。

だがDell氏がもっとも強調するのは、新戦略のコンバージドだ。サーバー、ストレージ、ネットワークとデータセンターに必要な技術をひとまとめにしたもので、顧客は自分たちで設定、実装、統合などの作業を行う必要はない。「コンバージェンスが鍵を握る。効率よく低価格でソリューションを提供する。顧客は面倒な作業から解放され、重要なことにフォーカスできる」とDell氏はそのメリットを説明する。

基調講演中、紹介されたのは英大手銀行Barclaysの事例だ。51カ国で展開する同社は14万人の社員、17万の顧客を持つ。ビデオで登場したCOOのShaygan Kheradpir氏は、モバイル、ソーシャルのトレンドを受けて開始した新プログラムのひとつとして個人間送金サービス「Pingit」を紹介した。

携帯電話のSMSを利用して個人同士で送金し、5秒もしないうちに送金完了するというモバイルバンキングサービスだが、2012年前半の開始後利用は急増、トランザクションがふくれあがった。需要に押される形でハードウェアの切り替えを行った。そこで選ばれたのが「PowerEdge C」シリーズで、ストレージコントローラーとして「Compellent」、Force10スイッチ、500TBのストレージも新たに導入した。

Kheradpir氏は「技術と運用部門のスタッフは、顧客のために新しく革新的なことを開発できるようになった」と効果を語った。

ソフトウェア

Dellが最も積極的に買収を重ねているのがソフトウェア部門となる。バックアップ、規制遵守、マルチデバイス管理、アプリケーションの性能モニタリング、さらにはアーキテクチャ全体のセキュリティを揃える。

「買収した企業の技術を統合して、高性能かつ実用的なソリューションにする」とDell氏、成果のひとつとして会期中に発表した「CIO Powerboard」を紹介した。Quest、KACE、SonicWall、Boomiなどの技術を統合したもので、環境全体を把握できる統一したビューを提供するという。

サービス

4万7000人を数えるDell社員の半分を占めるのがサービス部隊だ。

ITセキュリティサービス「SecureWorks」では毎日320億件のセキュリティインシデントをキャッチし、顧客を脅威から保護しているという。このほか、財務、ヘルスケアなどの業界特有の知識、世界650カ所にチームを配置してのミッションクリティカルサポート、クラウドマイグレーションなども備える。クラウドについては会期中、OpenStackへのコミットなどいくつかの発表を行っている。

1つ目のクライアントPC以外の3つは新しいDellを支える重要な柱となる。2007年にCEOとして復帰して以来、Dell氏が舵取りを進めてきたものだが、投資を続けて拡充を図りながら成果も出ているという。すでにこの3分野はDellの粗利益の半分以上を占めているとDell氏は報告した。

インターネットのコラボレーションが生む将来に楽観 - Bill Clinton元米大統領が登場

後半には元米国大統領のBill Clinton氏が登壇し、ネットワークとコラボレーションの時代への期待を語った。

Clinton氏はスピーチの中で、シリア、エジプトなどのいまだ不安定な世界情勢、天然資源の奪い合いなどが見出しを飾る現状について、これらを「"ゼロサムゲーム"であり、修復不可能な過去にしがみつこうとする衝突モデルだ」と述べた。

同氏はさらに「将来は創造的コラボレーションのネットワークにあると信じている」と述べ、インターネットの特徴であるコラボレーションやネットワークが明るい材料を提示しているとの見解を示した。また、研究開発の大切さにも言及し、「研究開発の予算を残すべきだ」と述べた。

これは研究開発費がGDP比3%を下回っている米国の現状を指摘し、GDPの3%を下回るべきではないとの見解だ。

なお、1993年-2001年とマスインターネット黎明期に大統領を務めたClinton氏、任期中に送った電子メールは2通だという。