「ジャーナルITサミット - 2010仮想化セミナー」の事例講演では、サイバーリンクスのリテイルネットワーク事業部開発部流通システム1課課長の吉田俊樹氏が登壇。「サーバ仮想化がSaaS提供企業にもたらした新たな価値」と題し、流通業向けに同社が提供する店舗-本部基幹システムにおける仮想化の取り組みを紹介した。

小売企業向けSaaS提供企業の事例

サイバーリンクス リテイルネットワーク事業部開発部流通システム1課課長の吉田俊樹氏

サイバーリンクスは、和歌山県に本社を置くITサービス企業で、全国のチェーンストア(スーパー、ドラッグストア、ホームセンター)向けにSaaS型のサービスを提供している。小売業向けの本部基幹システム「@rms(アームズ)」、小売-卸間のEDIプラットフォーム「Cloud EDI Platform」、商品画像センター「MDBセンタ」の3つが主要サービスで、データセンターも自社運営している。

講演では、このうち@rmsの提供基盤に仮想化技術を導入したことで、コスト削減、ダウンタイム短縮、既存システムの延命といった効果が得られたことを紹介した。@rmsは、マスタ管理、発注管理、仕入管理、在庫管理、実績管理などのモジュールで構成される小売業向け基幹システムで、2005年のサービスインから年平均10社という割合で利用企業が増加し、現在は全国約60社が利用するサービスとなっている。

同社が仮想化への取り組みを開始したのは2007年から。サービスイン当初は、ラックマウント型のサーバで、シングルユーザー・シングルサーバという構成をとっていたが、ハードウェア障害時に、本番機から予備機にデータや設定などを移行する際に時間がかかるという課題があった。そこで、2007年にブレードサーバ「IBM BladeCenter HS22」とSANストレージ「IBM System Storage DS 8100」、2009年からは障害発生時に備えてVMware vSphereを導入し、仮想サーバ間(ブレード間)でデータなどを移行し、復旧するかたちに変えた。

「ブレードサーバを仮想化し、本番機停止から、予備機ネットワーク物理接続、予備機起動、設定変更、データ復旧、リカバリ、動作確認などといった7項目あった手順が、VMware HAによる自動起動、動作確認という2項目に簡略化された。故障したハードは翌日以降に修理すればよいなど、復旧作業にも余裕が生まれた」(吉田氏)

もっとも、導入企業が増えるにしたがって、シングルテナントの構成では、ハードウェアや運用管理コストが増大していくという課題に直面した。また、ユーザーの規模によっては、提供するサーバがオーバースペックになるという課題もあった。そこで、サービス提供基盤をVMware vSphereを活用しマルチテナント型へ移行。ブレードサーバ内でリソースプールを構築し、複数ユーザーを同居させることで、ユーザーごとに生じがちだったリソースのムダを省く構成とした。

仮想化により大幅なコストダウンを達成

「仮想化の効果としては、ハードウェアコスト、運用コスト、導入コスト、ハードウェア更新対応などの面で、大幅なコストダウンを達成できたことが挙げられる」(吉田氏)

ハードウェアコストとしては、運用もソフトも変えずに1台の物理サーバ上で複数ユーザーの稼働が可能になり、余剰分のリソースが有効活用できるようになった面が大きく寄与している。また、運用管理コストとしては、メモリやCPU、ハードディスクの増設作業を緊急でやったり、OS障害でサーバが停止した際にマシンルームまで出向いたりといったことが減った点が大きいという。

新たにユーザー企業を追加する際にも、例えば、5社導入の場合、5社×5人日で25人日のコスト(ラック設置、ネットワーク敷設、OS/ミドルウェアインストールで各1人日など)がかかっていたが、仮想化後は、ラック設置など物理的な作業が不要になったうえ、OS/ミドルウェアインストールをテンプレート化できることなどから、最終的に5社×1人日と、20人日のコストダウンにつながった。

さらに、ハードウェア更新への対応についても、ゲストOSを新しいブレード上の仮想化基盤にマイグレーションするといった工夫を施すことで、データ量にかかわらず短時間で切り替えが可能になった。従来は、切り替え作業が煩雑であったり、データ量が多いために切り替えが難しかったりして移行リスクが高かったが、そうした問題も解消することができたという。また、一部のPOS通信サーバや通信系システムなど古いシステムを延命できたことも仮想化の大きな効果だ。

吉田氏は、移行の際に苦労した点として「従来型と手順が大きく異なるために、手探り状態で進めざるをえなかった点」を上げた。これらについては、実害のない環境から試験的に導入し、段階的に稼働させていくという方法で対応したという。今後の取り組みとしては、和歌山や大阪、東京の拠点を利用して、サービス基盤のディザスタ・リカバリを整備することを挙げた。

※ 吉田氏の講演動画を以下の「2011 仮想化オンラインセミナー」で無料公開しています(マイコミジャーナル会員IDとアンケートへの回答が必要)。本稿ではお伝えしきれなかったナレッジも紹介しているので、ぜひそちらも併せてご覧ください。