独SAPのサステナビリティ担当副社長 Scott Bolick氏。日本の「クールビズ」の取り組みを高く評価した

サステナビリティへの関心が高まり、企業の社会的責任への取り組みが重要視されている。業務アプリケーション大手の独SAPは、CO2排出量の管理やレポート機能を持つソリューション「SAP Carbon Impact」で顧客企業のニーズに応えている。今回、日本語版が提供されるにあたって、米ラスベガスで10月22日まで開催された「TechEd 2010」で担当者に話を聞いた。

Carbon Impactはオンデマンド形式で提供されているCO2管理ソリューションだ。Carbon Impactを開発するきっかけとなったのは、SAP自身のサステナビリティへの取り組みがある。

SAPは現在、2020年までにCO2排出量を2000年レベルにすることを目指して、CO2排出削減に取り組んでいる。これは実質50%の削減を意味し、2009年には15%の削減に成功した。金額にして9000万ドルを節約したことになるという。「SAPにとってサステナビリティとは、社会的責任と経済メリットの2つの目的をもつ」とサステナビリティ担当副社長のScott C. Bolick氏は説明する。「顧客とSAPの両方がCO2削減などのサステナビリティに取り組むためには、ソリューションが必要だった」とBolick氏、そのような経緯もあって開発されたのがCarbon Impactという。

SAPがサステナビリティレポートの下で公開しているサステナビリティマップ。だれでもコメントできるソーシャル機能が特徴だ

SAPではCO2排出管理では2つの活動があると見ている。1つ目は信頼性のあるレポート、2つ目はCO2削減と収益改善、だ。

現在、企業の多くが政府にCO2排出についてレポートを提出している。中には、非営利団体のCarbon Disclosure Project(CDP)などに参加し、自主的にレポートしているところもある。また、政府や機関だけでなく、サプライチェーン間で報告を義務付ける動きもあり、「信頼性のあるレポートの必要性が高まっている」とBolick氏。ここで重要になるのが、データ収集だ。CO2排出レポートを作成する企業は「Excel」を利用していることが多いが、「Excelの問題は、計算上のエラーが多いこと」とBolick氏。SAP自身、最初にレポートを作成した際にExcelを利用しており、「経験上言えること」という。Excelのもう1つの欠点が、監査面での機能がないことだ。そういったことから、SAPは2009年、CO2排出量測定・管理技術の米Clear Standardsを買収したという。Carbon Impactのデータ収集の特徴としてBolick氏は、さまざまなデータソースからのデータ収集と統合を挙げる。前者のデータソースでは、建物をリースしている場合など、直接光熱費データを収集できない場合に利用できる調査機能も用意した。後者では、SAPシステム、EDI経由で電力企業やビル管理企業、CSVファイルの3つが可能という。

収集したデータは、期間ベース、業務活動別、サプライヤ別などで表示が可能。金額に直すといくらか、社員1人あたりの削減量なども分析してくれる

データ表示ではCO2排出量をさまざまな項目別に分析できるほか、「Facility Dashboard」として、アメリカ環境保護局(EPA)が推進する省電力評価プログラム「Energy Star」とも統合した。EPAに直接報告でき、EPAが作成したベンチマーク(建物の設置場所、面積、人数などの情報を基に、その地域のほかの建物と比較できる)を出してくれるという。

「Facility Dashboard」。SAPの米パロアルト施設は89%という高いベンチマークを得ているという

2つ目のCO2排出は、目標を設定して達成していく。データ収集と報告、分析とパフォーマンスの理解、そして目標設定というサイクルをまわすわけだが、「重要なのは、各プロジェクトを理解し、目標達成のためにどうすればよいのか、プロジェクトをマッピングすること」とBolick氏。Carbon Impactでは、消費電力削減だけでなく、コストに与えたインパクトを理解でき、どのプロジェクトが最も高い経済効果を上げたのかをすぐに把握できるという。「CO2の削減にはコストもかかるが、投資対効果を評価できる」と言う。

サステナビリティ活動は最初の数年はすぐに効果が出るが、長期的にCO2排出削減と収益性のバランスをとることが求められる。「取り組みを開始した最初の数年はちょっとした取り組みがすぐに効果を生む。その次の段階として、CO2排出の場所を突き止め、プロジェクトのポートフォリオを管理して利益率を改善していくことが大事」とBolick氏は述べた。

目標に対する達成度や貢献度がわかる

プロジェクトの投資対効果もわかる

サステナビリティは従業員の意識改革そのものともいえる。そこで、活動をさらに加速するためにCarbon Impactではリワード(報酬)プログラムも用意した。印刷削減や自転車通勤などのプロジェクトに参加した従業員にポイントを付与することができるもので、モティベーションを高められる。将来は、アイテムとの交換機能も提供するという。これにより、あるポイントに達すると週末に会社所有のリゾート施設を利用できる、などの特典を用意できるようになるという。「サステナビリティの取り組みでコミュニティを作り、意見やアイディアを交換し、評価を通じて奨励し、リワードできる」(Bolick氏)。

リワードプログラムの展開も可能だ

従業員は自分のページでプロジェクトの参加状況や貢献度を把握できる

Carbon Impactはオンデマンドで提供され、バージョン5.0は米Amazonのクラウド(「Amazon EC2」)をサポートする。プラットフォームについては、今後選択肢を増やしていくようだ。対象企業についても、「現在は大企業が主なターゲットだが、中小規模企業も高い関心を示している」とBolick氏。Carbon Impactは完全版はもちろん、基本的な機能のみでも提供するので、CDPレポート機能だけの導入も可能という。価格と費用のバランスを考慮し、「顧客に価格に見合った価値があると思ってもらえるようにしたい」という。