全社レベルのBI活用を実現

BusinessObjectsとのソリューション統合においては、もう1つの重要なファクターがあります。それは、基幹情報系に不可欠なオープン・アーキテクチャーへの転換です。

SAPが提供するERPソリューションは、初のSOA(Service Oriented Architecture)対応として最新版がリリースされるまで、いわば"SAPワールド"という観点で基幹系アプリケーションの統合を提唱してきました。

ところが、SAPワールドから一歩外に出た、他システムとの連携の面では一定の制約がありました。

特に日本の場合、財務会計の分野ではSAP ERPを導入し、販売管理や生産管理、人事などの仕組みは他社のパッケージ、またはスクラッチ開発で構築されているケースが多くあります。このような環境におけるデータの分析活用には、いくつかのハードルがあります。

たとえば、サプライチェーン全体の管理を行う上での指標となるPSI(Purchase Sales Inventory) 管理では、仕入れ・在庫・販売の管理と、生産側の管理が同期していなければいけません。そのためには、異なるシステムで管理されるさまざまな情報を集約する作業が発生します。

その点、もともと自由分析のためのオープン・アーキテクチャーに立脚したBusinessObjects のソリューションでは、データソースがオープン系のデータベースにあれば、SAP以外のシステムからでも容易に抽出できます。つまり、システムやRDBMSの種類に依存しない自由な分析活用が可能になるのです。

このことを象徴しているのが、さまざまな分析レポートや帳票の作成を支援するCrystal Reportsというツールです。多くのパッケージソフトや.NET の開発環境にも標準搭載され、幅広いユーザーの用途に応えるオープン・アーキテクチャー・インタフェースを備えています。また、Crystal Reports の開発で得たオープンインタフェースの知識を利用し、さまざまなデータソースからデータを抜き出し、DWHを高い生産性で構築するETLツールさえも提供します。

こうしたツールとSAPソリューションを融合することで、自由なデータ活用が可能な環境を実現すること。このことこそがまさに、これからのSAPが提唱する基幹情報系ソリューションの核となる要素なのです。

次世代の情報活用のかたち

SAPとBusinessObjectsの統合の成果は、いよいよ日本国内においても、具体的な形でユーザーの皆様にご提供できる段階を迎えています。

その1つとして、SAP BWで作成される帳票データなどのビジュアル化があります。BI を全社的に広めるためには、よりエンドユーザーの視点に立った環境支援が重要になります。データが表形式で示されるSAP BWでは、こうした点が必ずしも十分とは言えませんでした。複数のデータソースを合わせたダイナミックな視覚表現は、BusinessObjects のソリューションがもっとも得意とするところです。

さらにその次の段階では、業務の中に情報系を活かす世界を創出していきたいと考えています。

たとえば、経費精算の申請が管理者に上がってきた際に、部門全体の予算がどうなっているかを調べながら承認するということは、意外に行われていませんでした。なぜなら、必要なデータの多くが基幹系ではなく情報系に入っていて、その連携には煩雑なプロセスを要するからです。こうした情報系データと業務系データとの密な連携も、SAPとBusinessObjects の統合ソリューションが容易に実現します(図2参照)。

図2: SAPとBusinessObjectsの統合による現在のSAPビジネスインテリジェンスプラットフォーム全体像

従来、SAPのソリューションはビジネスプロセス全体の効率化という視点で展開されることが多かったのに対し、BusinessObjects のソリューションは、あくまでエンドユーザーの視点で提供されます。同じエンタープライズ向けでありながら、似て非なる両社のアプローチが組み合わさることで、また新たな情報活用の世界をご提供できるはずです。ここから生まれるメリットを、ユーザーの皆様に対して、より早く、より確実に提供することが、私たちSAPに課せられた大きな使命なのです。

※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.5』に掲載された特集『SAP BusinessObjectsがもたらす企業情報活用の革新』を一部加筆のうえ転載したものです。