ゲーム開発者の祭典『CEDEC 2009』が9月1日から9月3日にかけて開催された。今年は神奈川県・パシフィコ横浜の会議センターに場所を移して規模を拡大。経済産業省や大学機関と連携してプロフェッショナルの開発者以外に入場無料の学生版 CEDEC 業界研究フェアが同時開催された。

ゲーム業界外から専門家を招いたCEDEC 2009

CEDECでは、連日にわたって業界関係者や専門家を招いた基調講演が行われる。今年の基調講演は、初日が「顔学」などで知られる東京大学名誉教授の原島博氏、2日目は「機動戦士ガンダム」など日本アニメの創成期から現在まで多数の作品を手掛けてきたアニメーション監督の富野由悠季氏、そして最終日には「ドラゴンクエスト」で有名なゲームデザイナーの堀井雄二氏を中心にスクウェア・エニックスからプロデューサーの市村龍太郎氏、同社ディレクターの藤澤仁氏の3名が登壇した。

初日と2日目を担当した原島氏と富野氏はゲーム関係者ではないという点に注目したい。これまで閉鎖的と言われてきた日本のゲーム業界が、映画や教育など別の業界と手を結ぼうと試行錯誤している姿がうかがえる。日本がグローバルなゲーム市場でリーダシップを取り戻すには、業界を超えて日本の英知を結集しなければならないだろう。原島氏と富野氏の両名は、今もアニメやゲームが低俗なメディアと考えられている風潮がある点を指摘し、文化として尊敬される作品を創出する必要があると訴えた。

直列進化から多様化の時代へ

3日間の基調講演を通して、それぞれ業種も経歴も異なる講師が個別に話をしているにもかかわらず、共通していたことがいくつかある。中でも、ハードウェアの進化に合わせて成長してきた直列的(連続的)なゲームの進化の時代は終わりを告げたということが共通認識であったのは興味深い。

初日、原島氏はENIACから始まったコンピュータの歴史を紹介しつつ、現在までの指数関数的なハードウェアの進化がゲームのコンテンツも進化させてきたと説明した。今後もハードウェアは進化するが、技術依存でゲームの将来を考えるべきではないと訴えた。産業は、発展途上期の間は技術に依存するという。かつて、デジタルカメラが画素数一辺倒で競い合っていた時期があったが、成熟するにつれて付加価値が重要になっていった。ゲーム産業も、グラフィック性能一辺倒の時代から脱却して「大人」になる必要があるというのだ。

同時にビジネスモデルも改革しなければならない。これまでは技術の進化にものを言わせてメガヒットするパッケージを作れば成り立ったが、このビジネスモデルだけでは開発費の高騰や開発期間の長期化を招き、結果として新作を企画する冒険ができなくなる。この手法では、総合力のあるアメリカには勝てないという。

日本のゲームの多くがヒット作品のブランドに依存しきっているのは周知の事実である。この状態から脱却するにはロングテールのビジネスモデルが必要になる。サーバー課金、アイテム課金、広告収入、「Second Life」で一時注目された仮想空間の不動産ビジネスなど、いくつかのビジネスモデルが考えられるが成功は難しいだろう。ネットワーク(SNS)や携帯ポータルとの連携、キャラクタビジネスも含めた多角的な展開を産業としてどう図っていくかが問われている。これまでのゲーム業界は一部のヒット作品に依存してきたため、多品種少量生産型のロングテールへの転換は容易ではない。そう、原島氏は語る。

2日目の富野氏もまた、別の角度から現代のゲーム産業が抱えている問題を鋭く指摘した。所詮ハードウェアのスペックが向上しているだけでゲームの本質は変わっておらず、ハードウェアの進化に合わせてソフトウェアを作り直すことで新しいことをした気になっていただけだと手厳しい。人を楽しませるということがどういうことなのか、10年~20年後の変化をどう受け入れていくのか、コンテンツを中心に原理原則をもって考えるべきだと訴えた。

2日目の基調講演 富野由悠季氏。講演タイトルは「慣れたら死ぬぞ」

3日目、堀井氏らのディスカッションにも同じ話題があった。堀井氏は、映画におけるシリーズもの多くが回を重ねるごとに人気が落ち込んでいく現象と比較して、ドラゴンクエストは「幸運にもハードウェアが進化した」からこそヒットが続いたと語った。ドラゴンクエストIの時代は容量が限られおり、RPG(ロール プレイング ゲーム)の経験者が少ないこともあって分かりやすさを追求するために多くを削ぎ落としたという。ドラゴンクエストIIからは容量が増えたため、パーティプレイを導入し発展させていった。ドラゴンクエストIIIでは、さらに転職などのシステムも導入され要素が増えていった。

3日目の基調講演を行なった堀井雄二氏。話題のドラクエ9ですれちがい通信を行なう場面も

堀井氏は、ドラゴンクエストIを作っていたころに思い描いていた夢がドラゴンクエストVIIIで完成されたと語る。そして、ドラゴンクエストIXで初めてハードウェアの性能が前作に劣るニンテンドーDSで登場することになる。ドラゴンクエストIXは、ハードウェア性能の進化に依存した開発からの脱却であり挑戦だったというわけだ。基調講演の壇上でニンテンドーDSを開き会場の参加者とすれ違い通信をしてみせた。バーチャルがリアルを浸食する、新しい現象といえるだろう。