ERPの代名詞である独SAP、「R/2」「R/3」で顧客を獲得、長年業務ソフトウェア王座に君臨してきた。しかし、ここ数年、米Oracleなど他社の猛攻、さらにはIT業界全体に押し寄せるクラウドコンピューティングなど、取り巻く環境は変わりつつある。

本稿ではSAPのいま、そして課題を探ってみたい。

欧州を代表する優良企業

SAPは今年2月、主力製品「SAP Business Suite 7」を発表、BI(ビジネスインテリジェンス)などのソリューションやモジュール発表も続いている。SAPは現在、大企業向けのBusiness Suite、中規模企業向け「Business All-in-One」、小規模企業向け「Business One」を中心とした製品ポートフォリオを敷いている。

これまで堅調に事業を成長させてきたSAPも、昨年来の世界不況においては無傷ではいられなかった。4月末に発表した2009年第1四半期の業務報告書では、ライセンスの売上高が4億1,800万ユーロと、前年同期の6億2,200万ユーロから減少した。同社は今年1月、約3,000人規模の人員削減計画も発表している。同社が人員削減に踏み切るのは、1972年の創業以来初めてという。

だが、SAPの安定性はそれほど揺らいでいないようだ。調査会社、英Ovumの業務ソフトウェア担当上級アナリスト、Warren Wilson氏によると、SAPの強さはソフトウェアライセンスよりも、サポート/メンテナンスという。「ライセンスとサポートは同社の収益の2本柱だが、後者の比率の方が大きい」とWilson氏、SAPは長年かけて戦略的に、景気の影響を受けにくいサポートにより安定した収益を得る構造を構築したと続ける。

同社は米Microsoft、米Oracleに次いで世界第3位のソフトウェアベンダであり、欧州では優良企業として確固たる知名度を誇る。

Oracleの猛攻をかわすことができるのか、無視できないMicrosoft

そんなSAPに戦いを挑むのがOracleだ。OracleはPeopleSoft、JD Edwards、Siebel Systemsなど、さまざまな規模の業務ソフトウェアベンダ買収を続け、製品を拡充してきた。買収により技術を取得するOracleに対し、SAPは社内開発が中心。買収するとしても、自社技術を補完するための小規模ベンダを対象とすることがほとんどだ。

そのSAPも、BIでは大胆な動きを見せた - 最大手の仏BusinessObjectsの買収だ。2008年に完了したこの買収で、SAPは約48億ドルをはたいた(なお、OracleはPeopleSoft買収に約1年半の月日と103億ドルを投じており、2社の買収に対する戦略の違いが伺える)。

当初、製品ポートフォリオの重複も指摘されたが、この買収は正しい決断であり、「非常にポジティブなものだった」とWilson氏は評価する。SAPはBI技術を獲得しただけではなく、BusinessObjectsの顧客も一気に手に入れ、クロスセルのチャンスを得た。この買収の成果はすぐに数字に現れており、2008年SAPの業績に大きく貢献した。

競合について、Wilson氏に聞いてみたところ、SAPとOracleの戦略の違い(社内開発か買収か)から、長期的にはSAPに強みがあるのではないかとの見解を示した。Wilson氏はその上で、まだ大きな存在感はないが、「業務ソフトウェア市場を狙うMicrosoftにも要注意だ」とした。