ジェーアイシー専務取締役の鶴巻榮氏は、「赤字からの脱却を支援する、病院経営情報システムの構築技法」と題して、部門別損益把握の高速化と立体化や、情報の積極的開示と情報保護という二律背反を解決する構築技法、非課税収入割合が大半を占める医療法人における損益管理技法等について語った。

ジェーアイシー 専務取締役 鶴巻榮氏

鶴巻氏は、自身が専門分野の学習に際しても、あまり本を読まないということを取り上げ、本の知識に頼るのではなく、自分で意味を考えることや、識者の意見を聞いて考えを進めることが重要であると指摘。「病院経営について書いている本はたくさんあるが、置かれて環境や位置はそれぞれに違う。本の通りに全部の病院ができるわけではない。原点を見据えることが成長につながるのでは」と語った。

具体的な対策として鶴巻氏が挙げたのは、患者満足度等も数値化して会計に組み入れて行くという手法だ。「病院内で数値化すべきデータは何なのかを見極め、勘定科目として入れることをお勧めしている。会計という1つの入れ物に体系的に保存し、予算策定時に活用すべき」と鶴巻氏は語る。

数値の取得にあたっては、将来的には電子カルテ等からのデータが期待できるが、現在はアンケート等を活用する方法があるという。「経理畑の人間は数値の正確性にこだわる傾向がある。しかしこうした数値は正確である必要はない。集められるデータを少しずつ集めることで、病院の本質的な特性が見えてくる」と鶴巻氏。経営者が細かい数字を見なくとも月次の収益を把握できるように、感覚的なデータと実績データを照らし合わせ、感覚を磨くことで実データに近い予測が立てられるようになり、病院経営全体が俯瞰できる環境構築につながるとも指摘した。

また、「病院ごとに特性があり、一律的な方法論はない。情報収集によって病院ごとのウィークポイントを見つけることが極めて重要。そうした積み上げから以降がコストをかけてシステムを導入すれば解決できるフェーズになる」(鶴巻氏)

重要なポイントとして、様々な要素を把握できる勘定科目をつけて、計算技術として収斂させていくことと、コストセンターの最小単位を小さくすることが挙げられた。 特にコストセンターは、大きいと漫然とした管理を招くことになるという。最初は小さすぎて予実管理が難しいほどの単位でも、1年の実績ができれば計画値を算出できるようになる。翌年度からはその値を基準に予実管理を行い、年々精度を上げることで、自然とコスト意識を持たせられるという効果があるという。

「会計システムに投資しても収益拡大にはつながらない。情報を集め、開示することで次の経営行動を起こすためのヒントとして活用すべき。数値化されたデータは共通理解できる情報として開示し、考えてもらうことが重要。その中から改善ポイントを見つけなければならない」と鶴巻氏は語った。

固定資産やリース資産の管理方法でも、法律で求められているものとは違った考えを持つべきだと指摘している。「病室が綺麗かどうかは患者の満足度に影響する。病院は施設産業。法的に定められた減価償却年限ではなく、病院としていつまで使うかを考えた、会社計算による原価償却年限を考えるべき」と鶴巻氏は語る。

「経費科目を分けて特殊な勘定科目を作っていても、外部に提出する時にはまとめて記載すればいい。実際の管理は、もっとメッシュの細かいところでやっていくべき。どんな勘定項目を作るかは病院ごとに合ったものを考えなければならないが、補助コード化することは勧めない。どういうジャンルの経費なのかを自然に植えつけることができれば、経営管理能力につながる」と鶴巻氏。

ジェーアイシーの会計システムでは2000程度の勘定科目を提供しているという。「いくらメッシュを細かくしてもいい。細かい方が自分の行動と費用科目との相関関係がはっきりする。こういうものが管理会計だ」という鶴巻氏は、「会計は会社経営情報の最終的な表」だと語り、一般的な会計基準を超えた活用を強く勧めた。