「ITは今まさに歴史的な転換点を迎えようとしている。企業は、ITを武器に企業競争力をグローバル・レベルに高めるべく準備と実践を開始すべきだ」

ガートナー リサーチでバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める亦賀忠明氏は、自社のITシンポジウム「Gartner Symposium / ITxpo 2008」の基調講演でそう語り、今後10年を見据えたビジネスIT戦略を策定していくことの重要性を強調した。

ガートナー リサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト 亦賀忠明氏

亦賀氏は、まず、近年の経済・金融動向を踏まえ、同社がIT市場成長率の予測を世界市場で従来の5.8%から2.3%へと、日本市場で1.3%から0.4%へと改訂したことについて触れ、「2009年はIT投資環境が厳しいものにならざるをえない」との認識を示した。また、経済環境についても、1986年からGDPが上昇を続けている米国、中国、欧州などと比較して、日本は1996年頃から低成長/マイナス成長に転じており、「中長期的には、米国とのギャップ、他国の追い上げにどう対応するかが課題になる」とした。

そんななかで日本が競争力をつけていくためのキーワードとして、同氏は「構想力」と「実行力」を挙げる。例えば、ドバイで建設を予定している高さ1000メートルの超高層ビルや、CERN(欧州原子核研究機構)が実験を開始した粒子加速器LHCなどは、テクノロジーを使って地球上にないものを構想し、実行している端的な例という。同氏はこれらのテクノロジーを"ウルトラ・テクノロジー"と呼び、日本が中長期的に取り組み、グローバル市場で戦っていくための武器にしなければならないとする。

「ウルトラ・テクノロジーによって、これまでになかったような大変化の時代に入った。ITとは関係ないと思われるかもしれないが、ITもまたテクノロジー。実際、グーグルのように、船の上にデータセンターを設置して波力で電力をまかなうといったように、かつてなかったものを構想し、次々と実行していく企業が現れている」

だが、企業ITは、複雑性が増す一方で、変化に対応するスピードが落ちている。同氏は、これを逆転させ、複雑性を減らしながら、変化に迅速に対応していくことが不可欠だと強調する。そのために必要なものとして挙げるのが、4つのS──スピード、スケール、サービス、サステナビリティである。

同氏によると、スピードとは、単に早く実行するというよりも、変化にすばやく対応するアジリティを身につけるということ。スケールとは、これまで国内という範囲で考えていたものをグローバル規模で考えること。サービスとは、クラウド・コンピューティングに代表されるようなITによるサービスを活用するということ。そして、サステナビリティは、大きな変化に対して、弾力性(Elastic)をもって対応すること。「こうした話は、2000年頃からあったが、テクノロジーの大きな進歩によって、今まさに現実になろうとしている」ものであり、4つのSによって、ITは業務をドライブしていくことが求められるという。

亦賀氏は、ITの歴史的な転換点の例として、従来のITシステムのあり方を「発電機モデル」、これからのITを「発電所モデル」にたとえる。発電機モデルは、業務に対して1つのシステム/アブリケーションを割り当て、設計、導入、運用といったフェーズで、ハード・ソフトを所有しながら数ヶ月かけて構築していく。一方の発電所モデルでは、大量のユーザーに対して1つのアプリケーションを割り当て、必要なときに必要なサービスを従量制で利用するかたちとなる。

そして、こうした発電所モデルでは、すべてのレイヤーにおいて、仮想化、クラウド・コンピューティング、サーバ(ブレードを超えたもの)、Web指向アーキテクチャ、BIなどといった「戦略的テクノロジー」が重要な基盤となることを強調した。実際、グーグル、IBM、HP/EDS、マイクロソフトなどといったグローバル・ベンダーは、発電所モデルの時代を見据えて、データセンター戦略やサービス展開を加速していると説明した。

最後に、亦賀氏は、2009年はIT予算の抑制が予想され、思い切った戦略がとりにくいかもしれないが、この機会に、今後10年を生き抜くための施策を考える準備期間ととらえることが重要と強調した。