賑やかな収穫の秋は終わり、厳しい冬がやって来ようとしている――時代の流れを季節の変化に例えるなら、いまはちょうどこの時期なのではないだろうか。少々長い至福の時を過ごしていたIT業界の総本山「シリコンバレー」も例外ではなく、いままさに冬の時代へと突入しようとしている。いまこの業界では、どのような変化が起きているのだろうか。

ベンチャー冬の時代―「さらば至福の時」

経済紙の米Wall Street Journalは10月10日付けの紙面の中で「Silicon Valley Finds It Isn't Immune From Credit Crisis(シリコンバレーは自身が金融危機から逃れられないことを知る)」という記事を掲載し、いまここで起きている出来事について紹介している。

記事の冒頭では、GoogleやYouTubeへの投資で知られる名門ベンチャーキャピタルのSequoia Capitalの「RIP: Good Times(安らかに眠れ: 至福の時間)」のコメントの紹介でスタートしている。Sequoiaは同記事の書かれた10月の2週目に出資先のベンチャー企業のトップたちを招集して緊急会合を開催、そこで収益体質への転換とコストカットに対して厳しい見通しを行うよう通達を行ったという。前述のコメントはその際に提示されたスライドのタイトルで、コストカットを徹底するとともに、これから長期にわたると考えられる景気低迷に備えるようベンチャー経営者らに訴える狙いがあるとみられる。

少し前までこうしたIT企業で言われていたことの1つに、現在世界で蔓延しつつある金融危機の影響が、他の業界に比べればいくぶんか少ないという点がある。実際、IBMやOracleといった企業はドル安という為替差益の援助もあり世界市場での売上を伸ばして好決算を叩きだしており、PC市場の要であるMicrosoftやIntelといった企業群も強気の業績見通しを崩していない。またIT企業の傾向として借入金の額も少なく、バランスシート上からも業務体質は健全で、金融危機の影響が少なく見えるためだ。だが金融危機が発信源である金融業界だけでなく実体経済にも影響を及ぼし始めたことで、顧客となる企業は予算の見直しや計画の凍結の必要に迫られ、消費者は財布の紐を締め始め、さらに銀行が貸し渋りを始めたことで事業計画に影響が出るなど、金融危機とは無縁ではいられなくなっている。前述の企業の来年度の業績見通しについて「市場の予測と比較して高すぎる」と評価するアナリストらもいる。

金融危機やベンチャーの不振にもかかわらず、IT Giantsは強気の姿勢を崩していない。写真はシリコンバレーに本社を構えるOracle(左)とIntel(右)

ここでベンチャー企業らにとっての死活問題は、投資判断基準のハードルがさらに上がったことで資金調達がさらに難しくなった点にある。またベンチャーキャピタル(VC)への出資者らが、経済情勢悪化を理由に出資金の引き上げを検討するなど、投資側の懐事情が厳しくなってきていることも挙げられる。これらVCに資金を提供しているのは年金基金の運用団体など、ある意味で金融危機の直撃を食らっている組織であり、これが投資活動の抑制にもつながっているようだ。