Grailsを用いた開発事例

Grailsは、Webアプリケーションのさまざまな側面を個別のプラグインとして部品化したメタフレームワークであり、ユーザは自由にプラグインを追加してフレームワークを拡張できる。Groovyコンファレンス 2008では、同フレームワークを使った開発事例が8つ紹介された。

まず、「Webサービスを使ったスカッフォールド拡張(CIJ 笠原史郎氏)」では、アプリケーション中のメッセージをWebサービスを用いて自動翻訳する機能や検索機能を追加したスカッフォールド(画面生成)プラグインによる開発事例を紹介。一方、「UMLエディタを使ったGrailsアプリケーションのプロトタイピング(CIJ 杉浦孝博氏)」では、UMLエディタ(JUDE)でUMLモデルを描くだけで、簡単なWebアプリケーションを作成できるプラグインが解説された。

「Webサービスを使ったスカッフォールド拡張」では、Grailsのスカッフォールド拡張を用いてWeb上のサービスの自動翻訳を試みた

また、「GrailsPluginによる印刷・出版業界向けWEBアプリケーション開発の事例(ニューキャスト 山本剛氏)」は、プラグインの仕組みをフルに活用して商用アプリケーションを開発した事例。Grailsで既にここまでできるという最先端の成果が示された。

ニューキャスト 山本剛氏はGrailsを使ってWeb Publishing Systemを開発した

そして、「Grails開発事例 - JavaからGroovyへ (デライトテクノロジーズ 綿引琢磨氏)」「Grails開発事例 - Groovy/Grailsで作るエンタープライズアプリケーション (CIJ 永井昌子氏)」「Grailsによる社内システムの開発 - Excel難民救済計画 (NTTソフトウェア 上原潤二氏、中野靖治氏)」の3セッションでは、それぞれ社内システムにGrailsを用いて、短期軽量に開発を行った事例が紹介された。これらの事例は、小規模なものから比較的大規模なものまでさまざま。エンタープライズ系システムであってもGrailsで多くの課題を解決可能であることが証明された。これらの実績を踏まえると、今後は、社内システムから受託開発、SI案件などへとGrailsの利用が広がっていくことが予想される。

「Grails開発事例 - Groovy/Grailsで作るエンタープライズアプリケーション」では、モデル駆動開発/アジャイルプロセス+Grailsで社内購買管理システムを作りあげた事例が紹介された

一方、カジュアル・サービス系の良い事例紹介となったのが「携帯カメラでお手軽ミニブログ - 携帯百景(ケイタイヒャッケイ) (フリーエンジニア キムゾー氏)」である。同セッションで取り上げられたサービスは、「携帯百景」として公開されている。大変楽しいサービスなので、ぜひ実際に触れてほしい。

携帯百景では携帯で撮影した写真を投稿することができる。こちらもGrailsで開発

「groovy/grailsでのライヴコーディング(法規書籍印刷 渡辺大輔)」は、Groovyの動的オブジェクト指向言語という特徴を活用して、ビジュアル/サウンドをリアルタイムかつ自在に扱う事例だ。アート系のソフトウェア・ツールとして広く使われ始めているプログラミング言語/環境「processing」と連携。Groovy/Grailsでは非常に幅広い応用が効き、他環境との連携が可能であることが示された。

sMashでエンタープライズ系システムを開発

Groovy Conference 2008では、Groovyを使って開発することができるWebアプリケーション・プラットフォーム「sMash」の事例セッションも用意された。「sMash(ProjectZero)と『Reflex』で構築するお手軽営業支援システム(Virtual-Tech 竹嵜伸一郎氏)」「WebSphere sMashでお手軽マッシュアップ(日本IBMシステムズ・エンジニアリング 水野雅裕氏)」の2セッションがそれだ。

両セッションでは、sMashを使ったエンタープライズ系開発事例を紹介。ビジネス領域でもGroovyを用いたマッシュアップが手軽にできることが明らかにされた。

「sMash(ProjectZero)と『Reflex』で構築するお手軽営業支援システム」で紹介された事例では、複数のバックエンドシステムへのアクセスをsMashでラップ。クライアント(携帯電話)とのやりとりはJSON(XML)のみによるシンプルなものに

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以上、非常に簡単ではあるが、各セッションの内容を紹介した。同コンファレンスの発表資料などはこちらから入手することができる。

なお、Grailsコード・リーディングの開催予定についてはこちらの「ディスカッション」で告知している。開催告知以外にもGrailsに関するさまざまな議論が行われているので、興味のある方はのぞいてほしい。

また、今回のカンファレンスに前後して「Grails徹底入門」(翔泳社)が出版された。さらに、近日中に「Groovyイン・アクション」(毎日コミュニケーションズ)が出版される予定なので、こちらもぜひ参考にしていただきたい。

山田正樹

メタボリックス代表取締役。grails code reading主宰。ソニーコンピュータサイエンス研究所などで、OSをはじめとしたさまざまなソフトウェアの研究開発に従事。その経験をアジャイルプロセスの分野で展開し、国内における同分野の黎明期をリードした。共著書に『実践アジャイル ソフトウェア開発法とプロジェクト管理』(ソフトリサーチセンター刊)などがある。雑誌寄稿、講演実績、多数。