SAPジャパンが、組み立て製造業向けソリューションへの取り組みを強化している。同社は2007年3月に、「SAP xApp Manufacturing Integration and Intelligence(SAP xMII (現在は、SAP MIIと改称))」日本語版を投入、生産現場のMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)と、本社にあるERPを連携させることに着手したが、製造業を取り巻く環境の変化に伴い、現場と経営がより密接で迅速に連動できるしくみが求められていることから、コラボレーション機能の拡充と、「SAP MII」と同社の旗艦である「SAP NetWeaver」との完全な融合化を軸に、この領域をいっそう洗練していくことを目指す。

SAPジャパン カスタマーイノベーションセンター 担当部長 木下史朗氏

いま、市場からの製造業に対する要求は厳しさを増している。「小ロットでできるだけ納期を短縮化するというのは、もはやあたりまえになってきたが、その対策としては、変化への適応力を身につけること」(SAPジャパン カスタマーイノベーションセンター担当部長 木下史朗氏)が肝要であり、多くの在庫を用意するなどはいうまでもなく論外だ。木下部長は「製造と設計、あるいは営業というように、部門間、拠点間での連携がないと競争力はつかない。現場頼みでは限界がある」と強調する。

同社が昨年投入した「SAP MII」は、受注、生産進捗、歩留りなど、製造に関連する多様なデータを、リアルタイムに可視化し、ERPなどと連携することが可能で、拠点各所からでもこれら、現場の情報を閲覧できる機能をもっている。同社では近い将来、「SAP MII」を「SAP Manufacturing Foundation」とする構想を描いている。「SAP NetWeaver」が備えている既存システムとの連携や統合などの機能との完全な融合化を加速し、「SAP NetWeaver」のさまざまなユーザーインタフェース環境を活かすほか、ERP-MES間、ベンダー間、工場間などの共通インタフェース構築基盤の確立により、SOA化を進展させる。さらに、Javaなどの開発者も参画できるようにして、開発者の増加も図る。また「RFID、バーコードなどのリアルタイムイベントをトリガーにした自動化処理」(木下部長)も考えている。

SAPジャパン インダストリー/ソリューション戦略本部 産業機械建設エンジニアリング産業担当部長 見學悟氏

同社が、このような生産現場向けのソリューションを重点化するのは「SAPは、制度会計、管理会計といったソリューションは強いが、生産の領域では弱い、あるいはソリューションはないのでは、との声を聞いたことがある」(同社インダストリー/ソリューション戦略本部 産業機械建設エンジニアリング産業担当部長 見學悟氏)との背景もある。見學部長は「実際には、契約や受注の管理、購買仕入先管理をはじめ、生産計画から製造実行までのソリューションの品揃えがある。これらのようなソリューションがSAPにはない、弱いというのは誤解」と話す。

同社は、「SAP MII」でMESとERPをつなぎ、生産現場と経営を連動させる枠組みを用意したわけだが、次は、顧客企業の社外との結びつきが焦点となる。「モノや現場はものすごいスピードで動いている」状況のなか、このような動き、サプライチェーンで何が起こっているかを監視するのが「SAP Event Management」だ。「SAP Event Management」は、調達や受注から配送までの工程、製造工程についての状況を管理でき、サプライチェーン全体の統括、監視が可能になる。

また、「SAP Advanced Planner and Optimizer(SAP APO)」は、サプライチェーン全体のネットワーク最適化を担う、プランニング、スケジューリングツールで、サプライチェーン監視機能をもっており、ユーザーごとに設定された監視領域内での、通常とは異なった状況が発生したかどうかを確認でき、担当者の携帯電話などに、アラーと発生通知メールを送信することもできるという。

組み立ての製造業では「どうしても、各社各様のビジネスプロセスやロジックが必要であり、これらへの対応が求められる」(見學部長)わけだが、ここでは、やはりSOAの発想が中核となる。「SAP ERP」もこれらの独自資産も「部品」と位置づけられ、それらを組み合わせたシステムを構築することができる。見學部長は「SAPのソフトは、サービスとして利用できるXMLベースの要素が多く用意されている。組み立てにより、顧客は自由度が高くなる。要求に応じられる柔軟性ももっている」と指摘する。

製造業に限らず、日本企業は、現場での効率化に努め、それは競争力向上に直結してきたわけだが、それだけでは十分ではなくなってきたようだ。現場力と経営が、いわば車の両輪のようになっていかないと、競争力強化にはなかなかつながらない。木下部長は「SAPは、組み立て製造業の本社向けにERPを納入してきたが、もはや、MESとの連携を抜きにすることは考えられない」と語る。