沖電気実業有限公司の役割

沖電気実業(深セン)有限公司(以下深セン工場)は2001年に操業を開始。現在の新工場は敷地面積が3万6,000平方メートルあり、そこに4階分のフロアを合計すると5万6,000平方メートルにもなる巨大な建物が完成している。資本金は4,750万香港ドル(約7億円)で、沖電気香港有限公司が100%出資し、董事長を杉本春重氏、総経理を安藤嘉孝氏が務める。従業員は1,764名(2007年6月現在)で、金融機関のATMをはじめとして、SIDM(ドットインパクトプリンタ)およびカラーページプリンタとその消耗品を生産している。少々ややこしいが、沖電気工業と沖データが出資して設立した沖電気香港公司の子会社ということになる。このような組織になっている理由は、前述の「香港←→深セン」での取り引きをスムーズに行うためである。

沖電気実業(深セン)有限公司の新工場。広大な敷地に最新の工場がそびえ立つ

董事副総経理佐野浩章氏(左)と管理部長の三好徹也氏(右)

深セン工場の操業は2001年であり、当初はATMのモジュール生産のみだったが、現在では完全生産が可能となっており、今後は中国国内への出荷を5,000台以上見込むほどの生産体制となっている。プリンタに関しては2002年から生産を開始し、最近の日本ではあまり目立たなくなったが中国では大きなマーケットに成長しつつありSIDMやワールドワイドの主力製品であるカラーページプリンタを生産している。2004年12月からカラーページプリンタ「MICROLINE 9000シリーズ」の生産を開始し、2006年からはC8000シリーズも手掛けている。深セン工場は、関税対策のための販売支援的な存在から本格的な生産が可能な体制へと変わり、新工場の開業によってコストを追求できる生産拠点へと進化している。

工場の周囲には車で60分以内の場所に主要サプライヤが位置しており、スムーズな部品調達を可能としている。また、各サプライヤに対しては常にコストダウンの努力を求めているが、各社が競って質の高い部品を低価格で提供してくれるため、高品質でありながら低価格の製品を生産することができる。人件費の削減もさることながら、製品のクオリティアップにもつながる深センの環境は、活力に溢れる中国ならではの状況といえよう。これが、沖データが高機能で低価格な製品を次々と産み出せる理由の一つである。

ずらっと並ぶプリンタの部品の数々。ケーブル1本、ネジ1個に至るまで、細かく目標価格がされており、深センのサプライヤはそれに向けて絶えず競争をしている

福島事業所の生産システムをそのまま展開

工場内に一歩足を踏み入れると、そこはまるで福島事業所にいるのと錯覚してしまうほどよく似た光景が広がっている。基本的には福島事業所と同様にプリンタの生産はベルコトンベアによる流れ作業ではなく、1人が責任を持って1台の製品を組み立てる「セル生産方式」を採用しており、1カ所でトラブルがあっても全体に影響が及ぼないようにしている。実際に写真で見比べてもらうとわかるが、福島事業所で成功した生産方式を中国で取り入れることによって、福島事業所の高い生産クオリティを海外でも実現し、「信頼性」と「品質」を保持しているのである。つまり、日本で生産された製品と深センで生産された製品に差がないということである。これこそ、グローバル・オペレーション・マネージメント体制の成果といえよう。

福島事業所の生産風景(左)と深セン工場での生産風景(右)。日本で成功したシステムをそのまま深センで展開している

ATMの組み立て風景。細かな部品から組み立てまで、大半の部分をこの工場で生産することができる

お札に見立てたサンプルを組み立て中のATMに実際に投入し、トラブルが起きないかチェックを繰り返す

熱心にプリンタを組み立てる従業員。床には製品を移動する先が支持されている。深セン工場では、帽子の色によってその人の役割が一目でわかるように工夫されており、さらにツバの付いている帽子はリーダーを表している

紫外線を通さない部屋で、トナーをセットして印字品質のチェックを行っている

福島事業所とほとんど同様のシステムを取り入れている深セン工場ではあるが、少しだけ違っている部分がある。それは、従業員の若年化だ。熟練工の多い福島事業所と違って、ここでは23歳以下の若者が中心となって生産に取り組んでおり、同じ生産システムでも自然と雰囲気が異なってくる。もちろん生産ラインでは、教育プログラムによるトレーニンングが行き届いていることもあって、熱心に組み立てに集中しており、一見その姿は福島事業所の従業員とほとんど変わりはない。だが、社員食堂で昼食を楽しそうに頬張る彼らは、本来の若々しい姿に戻っている。そのパワー溢れる中国の若者の姿を見ると、沖データが深センに生産拠点を設置した理由の一つがここにあるのだと感じた。

食堂での昼食風景。先ほどまで黙々と作業を進めていた従業員が、本来の若者の姿に戻る。食事は複数の種類から選択できるが、そのボリュームには驚かされる。彼らはペロリと食事をたいらげてすぐに職場に戻って行った。深センでは雇用が多く、従業員を集めるのにもひと苦労だそうで、派遣会社などを利用して集めているという

海外でのスポンサードによるブランド力向上

今回、深セン工場訪問と同時に香港では「FA Premier League Barclays Asia Trophy 2007」のサッカー戦が行われた。沖データは、ポーツマスFCのオフィシャルスポンサーであり、そのチームの試合がはるばる香港で行われたわけだが、同社では積極的に海外でスポンサードを行っており、ブランドの向上に努めている。沖データは、海外、特にヨーロッパで強い市場を持っているが、競合がひしめく本家の日本市場でも着実にシェアを拡大している。同社では、このブランド力をさらにワールドワイドで展開するとともに、日本市場での更なる飛躍を狙っている。そのためにも、より高機能で低価格な製品の投入は欠かすことのできない要素であり、深セン工場はその最前線に立つ戦略拠点といえよう。

海外でのブランド力は日本では想像できないほど高い沖データは、英プレミヤリーグのポーツマスFCのオフィシャルスポンサーを務める。この日の試合は、「OKI」のロゴが入ったユニフォームを纏ったサポータが会場に詰めかけ熱心に応援する姿が見られた。試合は、1対0でポーツマスFCが勝利した。写真は、そのゴールの瞬間とご満悦の沖データグローバルブランド部の宮本部長