「Memory」

2008年に関しては、大きな動きは無いと思われるのがメモリの分野。勿論細かく見れば色々あるのだが、表10でも明らかなように、大きな括りでは世代交代などもなく、安定した年になるだろう。

表10 : ロードマップ

DDR-SDRAM

もはやPC向けのマーケットがなくなってしまったのがこの分野。結果、Spot MarketにおけるDDR-SDRAMのシェアはかなり小さくなっており、かなりの量がContract Baseになっている。とはいえ、組み込み市場向けにはかなり大きなニーズがまだまだ残されており、丁度2006年とか2007年におけるSDRAMの市場を今年はDDR-SDRAMが担うことになる。

ちなみに、マーケットそのものはやはりPC向けを外れた事で縮小しているため、中小ベンダーの中には生産を中止したり、OEMで供給を受けたりといった動きが見られつつある。省電力向けとしては、Mobile DDRとかLP-DDR DRAMなどが登場しつつあり、従ってDDR-SDRAMはあくまでも汎用品を中心に、引き続き細々と供給されてゆくことになるだろう。プロセスの点では、130nm~90nmあたりを中心としたレンジになるはずだ。

DDR2-SDRAM

言うまでも無く現在のコモディティ製品。これに関してはトップ5社とその他ではっきり製品が分化してしまっており、トップ5社は80nm未満どころかDDR3と同じ70nm未満のプロセスを利用して、原価の低減と省電力性を両立した製品を投入しつつある。対してそれ以下の製品の場合、未だに90nm前後のプロセスを使っているケースもあり、DDR2-667までは何とかなってもDDR2-800が苦しいなんてことになっている。結果、DDR2-667以下の価格は猛烈に暴落しており、中小ベンダーが次第に脱落しつつある。

既に市場にはDDR3も登場しつつあるが、少なくとも2008年はDDR2が引き続きメインとなる。理由はいくつかあり、

  • DDR3を使うべき理由が無い。引き続きDDR2でも帯域的には十分足りる。
  • DDR3の価格が依然高止まりしている。
  • 特にDDR3-1600の場合、チャネルあたりDIMMが1枚に制限されるので、容量が不足しかねない。この点DDR2では問題なくチャネルあたり2枚が利用できる。
  • IntelがDDR2のサポートを引き続き行う。AMDはDDR3をサポートした製品を投入するのは2009年になる。

というあたりだろう。そんなわけで、2008年も引き続きDDR2がメインとなるのは間違いない。

ちなみにトップ5社の動向を見ると、まずはサーバー向けに大容量のチップ(一応1Gbがメインだが、いくつかのベンダーは2Gbチップを視野に入れている)の生産量を増やすことと、もう一つ、特定用途向けのスペシャルDDR2の製造を始めることで差別化を図りつつある。このスペシャルDDR2というのは、電源電圧がDDR3の1.5V相当で駆動されるDDR2の事。サーバー向けの場合、システムあたりのメモリ搭載量はかなりのものだし、ここで省電力を実現できれば、1枚あたりの節約分は少なくても、システム全体としては馬鹿にならない分量になる。これは運用コストの低下に繋がるから、既存のシステムのMemory Replaceという新たなニーズが生まれる事になる(Replaceそのものは金が掛かるが、それによって節約できる電気代の方が大きかったりすれば、Replaceへの動機には十分である)。実際、60nm未満のプロセスでDDR2チップの生産を計画しているベンダーもあり、これはDDR3の製造に利用されるものと同じなので、電圧を1.5Vまで下げることに技術的な障害はないようだ。この省電力チップはJEDEC標準では無いが、Green ITというトレンドに載ったものであり、2008年中には業界標準の形で定着する可能性がある。

逆に、標準化が失敗しそうなのがDDR2-1066である。AMDが中心となって進めており、また技術的にもDDR3世代のメモリセルを流用すれば実現は可能である(実際Elpidaなどは既にサンプルを製造している)が、それと標準化はまた別の話である。恐らくNVIDIAのEPPなどと同様、ローカル規格のまま終わりそうだ。

DDR3-SDRAM

既に製品が多少なりとも流通し始めているDDR3。IntelのX38/X48に引きずられてか、DDR3-1066/1333の前にDDR3-1600モジュールが流通しているのはご愛嬌といったところ。ただこのDDR3-1600モジュールは電圧を2V近くまで引き上げた、いわばオーバークロック動作の製品で、あまり一般的とは言えない。

では一般的なメモリは? というと、2007年9月の時点でDDR2のほぼ倍程度。その後DDR2の価格が暴落したにも関わらず、DDR3は一定だったために、ギャップは更に広がっており、お値打ち感は微塵もない。おまけに、メモリを早くしても性能面に寄与しない(これはDDR3の牽引役であるIntelのアーキテクチャが、未だにFSB方式であることが大きい)から、ますます持ってニーズが無い。通常のIntelの製品の場合、例えば900シリーズを例に取ると910シリーズはDDRとDDR2の両対応で、DDRからDDR2への移行をサポートし、次の940シリーズはDDR2のみの対応という形でDDR2への速やかな移行を促進していた。ところがDDR3に関しては、まずIntel 3xシリーズがDDR2/DDR3の両対応なのは同じだが、続くIntel 4xシリーズも引き続きDDR2とDDR3の両対応になってしまった。これではDDR3に移行する訳が無い。結果としては、IntelからはNehalemベースの製品が、AMDからはSocket AM3ベースの製品がそれぞれ出揃う2009年まで、DDR3への移行はまず起きないと考えて良いだろう。

FB-DIMM

Direct RDRAMに続き、またもや1世代で無くなってしまったのがFB-DIMM。確かにメモリ搭載量こそ稼げるものの、レイテンシの増加やAMBの発熱の問題はFB-DIMM2を断念させるほどに大きなものだったと言える。結果として、当初はDDR3-800メモリを使ったFB-DIMM2が登場する予定だったが、これは完全に無くなってしまった。ただ、Xeonのプラットフォームを使ったデスクトップ、つまりAppleのMac ProとかIntelのSkullTrail向けに、DDR2-800ベースのFB-DIMMが(数はそれほど多くないものの)登場する予定だ。

これとは別に、先の省電力DDR2と同じものがFB-DIMMの世界にも登場する。むしろニーズとしては、こちらの方が大きいかもしれない。

ちなみにNehalem世代ではFB-DIMM2のテクノロジーが一部で採用されるが、今度はAMBがDIMM上ではなくマザーボード側に搭載されるため、メモリそのものはRegistered DDR3になる予定だ。このあたりはAMDのG3MXにも似た構成であり、結果としてFB-DIMMは現行の製品が最後になるだろう。

当然ながらメーカーもそれほど本腰を入れるわけではない。省電力FB-DIMMは恐らく60nm台のプロセスで製造されると思われるが、その先の改良はなさそうだ。