第3章 Windows 8のUI/UX - "従来のデスクトップ"と新しい"スタート画面"

従来のWindows OSにおけるデスクトップは、コンピューターの画面を机上に見立て、道具や書類(=フォルダーやファイル)を配置するという一つのメタファー(隠喩)になぞり、1970年代のパロアルト研究所で生み出された概念を採用したものだ。このデスクトップという概念が生み出され、実用レベル化されてから、かれこれ四十年の月日が経つ。このままデスクトップを使い続けることに疑問を覚える声が出てもおかしくないだろう。

過去には本当の机上を目指し、Windows OSをベースに3D化を施したデスクトップも考案されたが、普及することはなかった。また、Microsoftの研究機関であるMicrosoft Researchでは、より新しい3Dデスクトップを研究しているが、現時点では実用レベルに達していない(図140)。

図140 Microsoft Researchで研究中の3Dデスクトップの一種

だが、従来のデスクトップをそのままタブレット型コンピューター向けに移植したWindows XP Tablet PC Editionを過去にリリースしてみたが、その結果は芳しくなかった。この結果を元にWindows 8は、タブレット型コンピューターでのUXを高めるため、Microsoft Designスタイルという新しいUIを備えてきた。ロンドンの地下鉄で用いられる標識にインスパイアされ、タイポグラフィを中心としたデザインが用いられる(図141)。

図141 Windows 8のスタート画面。

タイポグラフィを基軸としたデザインは決して目新しいものではない。2006年に発売された同社の携帯音楽プレーヤー「Zune(ズーン)」のメニュー構成は、アイコンではなくタイポグラフィを強調したメニュー項目を採用し、そのままWindows Phone 7に受け継がれた。そして、Metro UIはWindows Liveの各ソフトウェア、Windows 8で採用され、現在に至っている。

タイル状に並ぶ各ボックスは「タイル」、動的に情報が更新されるものは「ライブタイル」と称し、それぞれをクリック(タップ)することでWindowsストアアプリが起動する。つまり、ここが新しい"スタート画面"なのだ。ここにはWindowsストアアプリだけでなく、従来のデスクトップアプリも列挙される。

では、以前のWindows OSに備わっていたスタートメニューはどこへ行ったのだろうか。Windows 8では従来のデスクトップをWindowsストアアプリやデスクトップアプリと同じく、一つのソフトウェアとして位置付けている。もちろん内部的な構造は異なるし、前節で述べたようにデスクトップをメタファーとして使ってきたユーザーには慣れないものだが、Microsoftが考えるコンピューターの新しい道筋はMicrosoft Designスタイルなのだろう(図142)。

図142 Windows 8では、デスクトップも一つのソフトウェアとして扱われる

新しいスタート画面だが、スタートメニューにおけるフォルダーと同じように、タイルをグループ化することが可能だ。スタート画面右下にある<->ボタンをクリックしてスタート画面を縮小表示に切り替える。そしてグループを右クリックすると、グループ名の入力をうながされるので、好みのグループ名を付ければよい。さすがに階層化させることはできないが、多数のWindowsストアアプリを管理する際に便利だろう(図143~144)。

図143 「Classic Shell」をインストールすることで、Windows 7以前と同じ操作性を再現することは可能だった

図144 スタート画面を縮小表示させ、グループを右クリックすると、グループ名の入力が可能になる

さて、このスタートメニューの廃止について、Windows&Windows Live担当プレジデントのSteven Sinofsky(スティーブン・シノフスキー)氏は、従来のデスクトップとWindows 8スタイルによる複数のUIに対して「バランスを取るのが難しい問題である」と認めつつも、「今ある二つの世界のよいところをユーザーに提供するデザインを目指す」という意志を持ってWindows 8を作り上げた、とブログ記事で述べている。

だが、デスクトップメタファーを過去のものとするMicrosoft Designスタイルが、これまでデスクトップ上で作業を行ってきたユーザーに受け入れる可能性は低い。確かに"デスクトップありき"のスタイルに慣れ親しんできた(筆者を含む)オールドスクールユーザーにとって、新しいスタート画面や全画面表示が前提のWindowsストアアプリに馴染むのは時間がかかるだろう。

筆者も従来のデスクトップからMicrosoft Designスタイルへの移行は性急すぎる印象を覚えるが、iPadやiPhoneに搭載されるiOSが生み出したマーケットの存在や、タブレット型コンピューターの台頭は、デスクトップ/ノート型コンピューターを主なターゲットとして捉えてきた同社に厳しい状況だ。その巻き返しとして、タブレット型コンピューター上での動作を主軸にしたWindows 8や、自社製コンピューター「Surface」を市場に投入するのだろう(SurfaceのリリースはWindows 8と同じく10月26日予定)。

さて、Windows 8をプレビュー版から使ってきた筆者は、"慣れれば使えないものではない"という感想を持っている。ただし、Windowsストアアプリとデスクトップを併用するのであれば、という条件付きだ。しかし、あくまでもWindows 7以前のような操作性を求めるのであれば、Classic Shellというオンラインソフトを使ってみてはいかがだろうか。

RTM版では「スタート画面をスキップして、直接デスクトップを呼び出すことができない」と言われていたWindows 8だが、Classic Shell 3.5.1で確認した限り、サインイン直後からデスクトップが現れ、Windows 7と同じ操作を行うことが可能だった。[Win]キーを押すとClassic Shellのスタートメニューが開くため、Microsoft Designスタイルのスタート画面を呼び出す術までは確認できなかったが、デスクトップで作業を行いたいユーザーには唯一の助け船となるのではないだろうか(図145)。

図145 ご覧のように各タイルを整理してグループ化することが可能だ