【連載】

はじめての無線組み込み機器設計

7 スペアナの種類と測定の基礎 その(2)

中塚修司  [2016/01/07]

7/12

スペアナの基礎

無線組込み機器設計ではスペアナなどの測定機器が活躍しますが、測定機器はスペアナに限らず、その測定原理や測定方法を知らないと、間違った値を測定してしまうことがあり、製品設計時の品質・性能評価はもとより法規制評価や開発期間にも重大な悪影響を与えます。またエンジニアが、スペアナを新規に購入やレンタルする場合は、複数のメーカーのカタログ仕様値(スペック)を見比べて、価格・性能比を判定しなければなりませんが、カタログに書かれているスペック用語の意味がわからなければ、必要以上にオーバースペックの測定器を入手したり、逆に性能や機能の足りない測定器を選定してしまうことにもなります。

今回は、基本的なスペアナの測定原理と、無線組込み機器設計の際に使用するスペアナの選定方法の基礎をお伝えします。

スペアナのカタログに記載されている主な仕様値(スペック)。各項目の言葉の意味や、数字の単位系の違いを知っておく必要がある。

(1) スペアナの種類は?

スペアナには測定原理の違う2種類のスペアナがあります。スペアナやEMIレシーバといえば、スーパーヘテロダインの技術を使った掃引型の測定機というのが常識でしたが、近年はFFT(高速フーリエ変換)方式の技術を使ったスペアナが登場し、2010年には測定機の国際規格CISPR16-1-1の改定で、FFT方式の受信機(EMIレシーバ等)が、EMIのフルコンプライアンス試験で使用できるようになりました。また、日本国内の電波法でも、認証サイトのTELECが発行している技適の無線設備の特性試験方法に、FFT方式のスペアナの仕様条件が追記されるようになってきました。

(2) なぜFFT方式が使われる?

FFT方式の測定機は掃引型に比較して、広帯域な電波のパワーを高速測定することができ、機種によってはデジタル無線の復調評価まで行えます。たとえば汎用的なWi-Fi無線LANの802.11a/b/g規格のチャンネル帯域幅は20~22MHzですが、画像データなどの大量のデータを無線で高速伝送できる新規格の802.11ac無線LANは80~160MHzという広いチャネル帯域幅を占有します。時代とともに無線通信の伝送速度が速くなるに従って、チャネル帯域幅も広がる傾向にあり、広帯域のデジタル無線に対応できるFFT方式の測定機が重宝されるようになってきました。

無線LAN 802.11acの測定解析例

(3) 掃引型スペアナの測定原理とカタログ用語の意味は?

掃引型スペアナのスーパーヘテロダイン技術はAM/FMラジオの受信機と同じ原理で、特定の周波数成分のみを切り出して増幅する同調掃引の技術です。たとえば、スペアナで30MHz~1GHzの周波数範囲を1MHzの分解能帯域幅(RBW)でパワー測定をする場合、スペアナは、まず最初にプリセレクタミキサ(混合器(アナログ乗算器)=ヘテロダイン)、LO(ローカル・オシレータ=局部発振器)等の部品を使用して、入力した信号の一部を切り出して狭帯域な低い周波数のIF(中間周波数)に変換(ダウンコンバート)します。汎用的な掃引型スペアナのIF帯域幅は一般的に10~20MHzくらいです。AM/FMラジオでは周波数の選局は手でダイアルを回しますが、スペアナはLOで周波数を自動掃引させながらIFに変換し、その後さらに狭帯域のIFフィルタ(これがRBWになります)を通過したパワーを測定画面に表示させます。スペアナはAM/FMラジオと同じように、狙った周波数成分以外はノイズとして切り捨てることで、測定結果を表示する画面の低いノイズ・フロア(DANL:表示平均ノイズレベル)を得ています。

掃引型スペアナの測定原理をブロック図で表している。スペアナはAM/FMラジオと同じ原理で、同調掃引の技術を使用している。

(4) FFT方式のスペアナの測定原理は?

一方のFFT方式は、掃引型がIF(中間周波数)に変換するところまでは同じですが、IF出力をA/D(アナログ-デジタル)変換してからFFT(高速フーリエ変換)計算し、RBWの分解能帯域幅で複数の周波数成分のパワーを同時に表示します。掃引型のようにRBWの狭い帯域幅で時間をかけてLOが掃引する必要は無くなるので、測定速度が速くなります。ただ、FFT方式は、その代償として掃引型よりも広帯域な取込をする分ノイズが多くなり、ADC(A/D変換器)のジッタや非直線性、アンプの歪なども原因となって目的外の不要な周波数表示であるスプリアスが出やすくなります。スペアナに入力した信号の最大値と、最も大きなスプリアスの値との比を「スプリアスの影響を受けないダイナミックレンジ」=SFDR:スプリアス・フリー・ダイナミックレンジと言い、単位は通常dBcで表します。高性能のアンプやフィルター部品の評価などではダイナミックレンジが必要になるので、やはり掃引型のスペアナの性能が必要になる場合がありますが、最近はADCが安価になったこともあり、FFT方式の50万円以下のUSBスペアナでも、IF帯域幅が40MHz 、周波数レンジは9kHz~6.2GHz、DANLが-163dBm/Hz、SFDRが-50dBc、ADCが112Msps/14ビットという性能仕様のものがあり、無線組込み機器の設計用途で使用できます。スペアナのIF帯域幅は、組み込む無線モジュールのチャネル帯域幅よりも広くなければ、正確で早いパワー測定ができないばかりか、デジタル通信の復調評価もできないので注意が必要です。

(5)オシロスコープのFFTと、FFT方式のスペアナの違いは?

オシロスコープはADCを搭載したデジタル・オシロが主流になっているので、FFT機能が標準装備されている製品が増えています。オシロスコープのFFT機能を使うと、スペアナのように周波数ドメイン(横軸:周波数、縦軸:パワー)の測定表示をすることができますし、オシロスコープはADCが8ビットの製品が主流ですが、最近はFFT方式のスぺアナと同等の12ビットや14ビットのオシロスコープも製品化されています。では、FFT方式のスペアナとオシロのFFTは同じでしょうか?違いがあるでしょうか?

電気信号の波形はすべて、時間ドメイン表示と周波数ドメイン表示の両方で表現することができる。また、時間ドメイン表示と周波数ドメイン表示は、「フーリエ変換」と呼ばれる数学の計算で互いに変換することができる。

基本的にオシロスコープは広帯域な測定機、スペアナは狭帯域な測定機です。また、スペアナは周波数ドメインの測定機ですが、オシロスコープは時間軸ドメイン(横軸:時間、縦軸:電圧)の測定機です。たとえば1GHzのオシロはDC~1GHzのすべての周波数成分のパワーを入力してFFT計算するのでノイズが多くなりますが、同じ1GHzのスペアナは、IF帯域幅(10MHz~40MHz程度)の周波数成分のパワーのみを切り出してからFFT計算するので表示ノイズを減らせます。ただ、オシロスコープにも帯域制限の機能があり、20MHz以下や100MHz以下などのLPF(ローパスフィルタ)を使用して、ある程度狭帯域にすることができます。一方のスペアナは掃引を止めるゼロスパン測定をすることで、IF帯域幅をBPF(バンドパスフィルタ)にして、オシロスコープのような時間軸ドメインの測定表示をすることができますが、マイナスの電圧は+に反転して電力値として表示されます。

オシロスコープは電圧の変化を時間軸でサンプリングしていますが、FFT方式のスペアナは、位相の変化を時間軸でサンプリングする製品が主流になっています。位相の時間軸変化から、周波数の時間軸変化をトレースすることができ、位相変調などのデジタル無線通信の評価も可能になりますが、オシロスコープではFFT計算は可能でも、位相変調などのデジタル無線通信の評価はできません。

著者紹介

中塚修司(なかつか・しゅうじ)
テクトロニクス社 アプリケーション・エンジニア

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インデックス

連載目次
第12回 最終章(まとめ) 無線組込み機器設計の手順
第11回 フィールド・トラブルの原因究明
第10回 机上での無線組込み設計評価 その(2)
第9回 机上での無線組込み設計評価 その(1)
第8回 アナログ変調信号とデジタル変調信号
第7回 スペアナの種類と測定の基礎 その(2)
第6回 スペアナの種類と測定の基礎 その(1)
第5回 電波法の規制と技適 その(2)
第4回 電波法の規制と技適 その(1)
第3回 無線組込設計の課題と測定機器の種類
第2回 電波・無線って何? 何を測定評価したらいいの?(2)
第1回 電波・無線って何? 何を測定評価したらいいの?(1)

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