サーバを仮想化すればハードウェアの台数、コスト、管理の手間が大きく減る――これが、仮想化導入を検討する企業の期待するところだろう。確かに、その期待は間違いではないが、方法を間違えると十分なメリットを得られないこともある。今回は、中堅・中小企業がサーバの仮想化を導入する際に陥りがちな落とし穴について、日本アイ・ビー・エムのシステムx事業部 事業開発部長 東根作成英氏に聞いた。
ストレージは容量だけでなくアクセス速度も重視
まず、押さえておきたい落とし穴は「メモリ容量」である。CPUパワーが十分余っていてもメモリ容量が足りなければ、サーバ統合はそれほど進まない。日本アイ・ビー・エムでは、eX5アーキテクチャ搭載サーバによってメモリの問題を解決しているが、こうした製品を知らずに一般的なPCサーバなどで仮想化に取り組んだ場合、期待はずれの結果になってしまうこともあるだろう。
中堅・中小企業のIT基盤としても、2CPU構成のeX5搭載サーバ1台に、ソフトウェア・ライセンスのコストを抑えながら最大70台程度のサーバ統合が可能だ。しかし、4CPU構成のeX5搭載サーバ「x3850 X5」を利用することにより、今後は1台の物理サーバ当たり100台を超えるサーバ統合の提案も可能だと、同社は見ている。大規模なサーバ統合を目的としている企業は、ぜひ注目していただきたい。
また、サーバ統合の検討において意外な落とし穴となるのが、ハードディスクなどの「ストレージ」だ。現在は、テラバイト・クラスの大容量ハードディスクが安価に購入できるようになり、複数台の仮想サーバに対応可能な容量を確保することは容易だ。しかし、実際には容量だけ確保しても意味がない。
「1個当たりのハードディスクの読み書きのスピードはそれほど大きく進化していませんから、1秒当たり200回程度の入出力が限界です。複数のサーバを1台に集約するということは、ハードディスクへのアクセス回数も集約されたサーバの台数分だけ増えることを意味しますから、容量が十分でも処理速度において対応しきれなくなります。必要となるストレージのパフォーマンスを見据えてハードディスク台数を見積もると、"元のサーバの設置場所がまるまるストレージ置き場になる"という可能性まであります」と、同氏は語る。
実際には、投資対効果を踏まえて検討する必要があるが、こうしたストレージのパフォーマンスと設置スペースの問題をバランスよく解決するなら、アクセススピードの速いSSDの検討が有効だ。
SSDは物理的な動作を伴うハードディスクよりも処理速度と耐久性に優れているうえ、ハードディスクと同様にエラーが出る前に告知してくれる機能を持っているものもある。SSDは1台当たりの容量がハードディスクよりも少ないが、2011年にはeX5搭載サーバ用に、サイズが1.8インチ、容量が200GBのSSDが発売される見込みだ。これをeX5搭載サーバと組み合わせて利用することにより、サーバ1台につき最大4.8TB容量のSSDを搭載することが可能になる。
「eX5専用のSSDオプションのほかに、フラッシュメモリをPCI-Expressのアダプタに搭載した高速ストレージも提供可能です。さらに高い集約度を目指すサーバ統合では、このような高速ストレージを利用する以外に、ネットワークのボトルネックも意識しなければいけません」
いざという時、ライブマイグレーションは期待通りに環境移行できるのか?
「管理負荷の軽減という面では、ライブマイグレーションに期待して仮想化を導入される方も多いと思います。非常時に仮想マシンを即座に移行できることが魅力の機能ですが、多数の仮想マシンが動作している環境で実際にやってみると、移行にかなり時間がかかる場合があります」と、同氏は指摘する。
その理由としては、「ライブマイグレーションに利用するネットワーク帯域が不十分」、「仮想化ソフトウェアの並列移行処理数の制約」がある。これらを意識しないで設計されたIT基盤では、期待通りの効果を得られない場合すらあるというのだ。
「仮想サーバの動的移行のメリットを最大限に生かすには、トラブルが発生する前に作業を開始することです。例えば、当社のサーバは他社のサーバよりも多くの部品についてハードウェアトラブルの事前予知が行えます。"まだ動いているけれど、この後確実にハードウェアが故障する"ということがわかった段階で移行作業を始められれば、思った以上に移行に時間がかかった場合もそのリスクを最小化できます」と同氏。
加えて、同社は「IBM Systems Director VMControl」というソフトウェアを提供することで、この事前障害予知をトリガーにした動的移行をサポートする(対応する仮想化ソフトウェアに制約あり)。
なお、ライブマイグレーションに魅力を感じている場合は、仮想化環境をまるごと動的移行に要する時間について検証したり、設計・見積りを行う業者に質問したりしておくのがオススメだ。あらかじめかかる時間を知っておくだけでも、対応時の心構えが変わってくる。
ライブマイブレーションの処理速度への対策としては、単純に帯域当たりの単価が下がってきた10ギガビット対応のEthernetスイッチを採用するのも効果的だ。
多くの仮想サーバを運用するには信頼できるハードウェアが必須
仮想環境では、ハードウェアの台数が減る分だけ管理は確実にラクになる。しかし、1台のサーバが不具合を起こした時の影響は仮想環境のほうがはるかに大きい。絶対に故障しないハードウェアは存在しないため、壊れないことを前提にすることなく、「壊れづらいこと」、「壊れる前に予測・対処できること」、「故障時に迅速な対応ができること」を重視すべきだろう。
同社の場合、x86サーバとして最高レベルとなるCPUおよびメモリに対する可用性をeX5に搭載し、先に述べたように事前予測機能を持たせることで致命的なビジネスへの影響を回避している。さらに、トラブル時の対応としてツールレスで作業できる構造を採用し、故障位置を迅速に把握できる仕組みを搭載している。
「当社のサーバは、電源が入った状態で抜き差し可能な部品はオレンジのタブ、電源を落としてから触らなければならない部品には青のタブをつけ、一目でわかるようにしています。ヒートシンク以外はツールレスで着け外しできますから、専門の技術者以外でも対応可能です。また、故障時に点灯するLEDは電源状態と関係なく点灯できるようにしてあり、サポート要員が駆けつけた時には迅速に作業できるようになっています」
出張修理を依頼する際、担当者が迅速に駆けつけてくれることは大事だが、故障個所の特定に手間取ったり、手持ち部品が足りなかったりで、時間がかかってしまっては困る。よって、出張修理を依頼する際にランプ点灯位置を電話で知らせて、それに合わせて修理部品を揃えた状態で技術者が訪れ、すでにラックから取り外してある状態でも問題点をすぐに確認できる同社の仕組みは重要だ。
「トラブルの事前予測機能やツールレス設計、故障個所を知らせるLEDの仕組みなどは、当社のほとんどの製品に採用されています。もちろん、検証済みのハードウェアと手引書がセットになった『IBM太鼓判構成』に組み込まれている製品も持っている機能です。eX5搭載サーバのx3690 X5を使った仮想化太鼓判構成もリリース予定ですので、小規模から始める仮想化システムを導入する場合はぜひIBM 太鼓判構成を検討してほしいですね」と語る同氏は、将来を見据えた導入を強く勧めている。
「とりあえず手頃なPCサーバで仮想化を試してみて、先のことは後々考えよう」というやり方では、企業の成長に悪影響が出かねない。大企業の全社システムのような大規模システムの仮想化にも、中小企業のサーバや部門サーバの仮想化にも、豊富なノウハウを持つ日本アイ・ビー・エムの「IBM太鼓判構成」には、仮想化の入口として安心できる要素がぎっしりと詰まっているのだ。