地下鉄の駅なのに地下にない駅がある。こんな話は当たり前すぎてトリビアにもならない。東京メトロ銀座線渋谷駅が山手線の上にあるなんて、もはや常識だ。あえて説明すると、渋谷は文字通りの谷だから。地下トンネルを水平に進んでいくと谷の上になってしまった。地下鉄丸ノ内線の茗荷谷駅や後楽園駅も同様だ。

都営地下鉄三田線や東京メトロ東西線などは郊外で地上区間を走る。大阪をはじめ、他の都市の地下鉄も同様だ。そもそも地上に線路を作る場所がないから、しかたなくお金のかかる地下トンネルにしたわけだ。土地を確保できる場所では地上、おもに高架で作られる。こうなると「地下鉄の定義とはなんぞや」 という話になってややこしい。

幸いなことに、日本には「一般社団法人 日本地下鉄協会」という組織がある。会員資格は「(1)地下鉄事業を営み、又は営もうとする法人」「(2)地下鉄と相互乗り入れを行い、又は行おうとする鉄道を経営する法人」となっている。では、地下鉄とは何かというと、公式サイトの「日本の地下鉄」というリストに15社局が並んでいる。日本ではこれらの社局が運行する鉄道を地下鉄と言って良さそうだ。

日本の地下鉄(日本地下鉄協会のリストより)
札幌市営地下鉄 北海道
仙台市営地下鉄 宮城県
東京メトロ 東京都
都営地下鉄 東京都
横浜市営地下鉄 神奈川県
名古屋市営地下鉄 愛知県
京都市営地下鉄 京都府
大阪市営地下鉄 大阪府
神戸市営地下鉄 兵庫県
福岡市営地下鉄 福岡県
埼玉高速鉄道 埼玉県
東葉高速鉄道 千葉県
東京臨海高速鉄道 東京都
横浜高速鉄道 神奈川県
広島高速鉄道 広島県

下のほうに並ぶ会社は、「地下鉄」と言われてもなじまないかもしれない。「千葉県に地下鉄事業者がある」「東京都には地下鉄事業者が3つある」「横浜市には地下鉄事業者が2つある」「広島にも地下鉄がある」、こんな知識こそトリビアといえそうだ。

仙台市営地下鉄八木山公園駅の地上部分 線路とホームはガラスの向こうに見える道路の下にある

それでは、日本地下鉄協会が認めた「日本で一番標高の高い場所にある地下鉄駅」はどこか。正解は仙台市営地下鉄東西線の八木山動物公園駅だ。日本地下鉄協会が2016年1月21日に発行した「地下鉄短信第225号」には次のように書かれている。

仙台駅(レール標高5.7m)から八木山動物公園駅(レール標高136.4m : 全国の地下鉄でもっとも標高の高い駅)までの西側区間では、すべて上り勾配であり、その最急勾配は57パーミリであるなど、非粘着駆動であるリニアメトロの特性を十分に活かした路線となっています。

八木山動物公園駅こそ日本地下鉄協会が認めた「日本一高い地下鉄駅」というわけだ。

八木山動物公園駅は2015年12月に開業した。仙台市営地下鉄東西線の西側の終点だ。地上区間もあるとはいえ、八木山動物公園駅は文字通り八木山の中にある。八木山動物公園駅が開業する前の日本一は、神戸市営地下鉄西神・山手線の総合運動公園駅だった。標高は103m。ただし、地上駅だから地下鉄の駅らしくない。それに比べると、八木山動物公園駅は地下鉄らしいトンネル駅である。なんだかすっきりした。

ところで、標高が高い場所につきものといえば展望台や展望広場だ。八木山動物公園駅にも展望広場が併設されている。改札口を出て、コンコースの奥のエレベーターで屋上に出ると、そこが「八木山てっぺん広場」だ。ここから仙台市が一望でき、景色が良い。

展望広場からの風景

展望広場と八木山動物公園西門出入口

筆者が訪れたときは早朝で小雨模様だったけれど、ここからは日の出も望めそうだ。駅員さんに尋ねると、たしかに早朝の電車で日の出を観に訪れる人もいらっしゃるそうだ。初日の出の人気スポットになったかもしれない。

地下鉄はトンネルばかりで景色が期待できないと思われがちだけど、仙台市営地下鉄東西線は景色が見える区間がある。終着駅には展望広場もある。乗って楽しい地下鉄路線のひとつだ。ちなみに、駅名の由来となった八木山動物公園の西門出入口は「八木山てっぺん広場」に面している。