京急電鉄は京浜急行電鉄の略。東京と横浜を結び、さらに三浦半島に路線網を持つ。そのルーツは川崎大師への参拝客輸送で、最近は羽田空港へのアクセス路線としても親しまれている。京急電鉄は運行する電車について、ある厳格なルールを定めている。それは先頭車に●●●●を搭載してほしいというもの。相互直通運転を行う車両にもそのルールを守るように、各社に要請しているという。さて、●●●●とは何だろう?
電車の先頭車両にあるものといえば、運転台やヘッドライト、逆向きに走るときに使うテールランプなど。これらは京急電鉄に限らず、どの鉄道会社も先頭車両に備えているし、なかったら困る。無人運転のゆりかもめなどは運転台がないように見えるけれど、非常時の手動運転のために、ちゃんと格納されている。
京急電鉄の電車のルールとは、「先頭車にモーターを搭載する」だ。京急電鉄の赤い電車は(もちろん、ときどき見かける青い電車や黄色い電車も)先頭車両にモーターを搭載している。そして、京急電鉄に乗り入れる都営地下鉄、京成電鉄、北総鉄道の電車も、先頭車にモーターを搭載している。なぜなら相互直通運転を行うにあたり、京急電鉄が各社に要請したからだ。京成電鉄には先頭車にモーターがない車両もあって、これは京急線内には入れない。
電車は電気で動くから、モーターがあるなんて当然と思うかもしれない。しかし、電車は1編成の全車両にモーターを搭載しているわけではない。かつては必ずモーターを搭載していた時期もあったけれど、モーターの性能が向上したため、モーターのある車両とない車両を組み合わせて使っている。JRの電車の記号で「モハ」「クモハ」など、「モ」が付いていたらモーター付き。なければモーターなし。これは鉄道の知識の基本だ。モーターを搭載しない車両は付属機器が少ないため、外から見ると床下がすっきりしている。
京急のこだわりは、「先頭車にモーターを載せる」ことだ。他の鉄道会社は、長編成で運行する電車について、運転台付き車両とモーター付き車両を分ける傾向がある。点検や修理のときに車両単位で交換しやすいし、搭載機器を分散させて、編成全体の重量の偏りを小さくする意味もあるという。
それでも京急電鉄は、「先頭車のモーター搭載」にこだわっている。その理由はふたつある。
万が一のトラブルと脱線転覆を防止するため
ひとつ目の理由は、あえて先頭車を重くして、列車の位置検知システムを確実に作動させるためだ。レールには微弱な電流が流れており、これによって列車の位置を検知できる。このシステムは車両が重いほど確実に動作するという。列車の位置の検知に失敗すると、列車が通過する前に踏切の遮断機が上がったり、ポイントが切り替わったりしてしまうかもしれない。
列車編成はひとまとまりだから、中間車のモーター付き車両で列車の位置を検知してもいい。しかし、踏切やポイントの切替えでは、編成全体が通過するタイミングを予測する必要がある。京急電鉄の車両は4両編成から12両編成まで混在しているから、この予測は面倒だ。しかし先頭車は編成の両端にあるから、より正確に位置を把握できる。先頭車で位置を検知してタイムロスを少なくすると、列車の運行間隔を短くできる効果もある。
ふたつ目の理由は、万が一の脱線事故のときに、電車の転覆などを防ぐためだ。踏切で自動車と衝突したり、線路に流入した土砂に突っ込んだりしたとき、もし先頭車が脱線しても、重心の低い車両のほうが横転しにくい。もちろんそんなことはあってはならないし、予防措置も講じている。それでも事故は起きてしまうかもしれない。そこで二重、三重の安全対策のひとつとして、先頭車をモーター付きとして重くしているというわけだ。
※写真は本文とは関係ありません。