中国の月探査車「玉兎号」や「嫦娥五号試験機」の活躍、クリミア危機をめぐる米ロの宇宙開発での対立、アンタリーズ・ロケットとスペースシップトゥの事故、史上初の彗星表面への探査機の着陸、小惑星探査機「はやぶさ2」やオライオン宇宙船試験機の打ち上げ、そしてインドやロシアの新型ロケットの誕生など、波乱万丈に富んだ2014年の宇宙開発が幕を閉じた。
では、2015年はどのようなことが予定されているのだろうか。
今回は、今年予定されている数多くのロケットの打ち上げや探査機の活動の中から、特に注目すべき事柄を紹介したい。今年も昨年に負けず劣らず、多くの興味深いミッションが予定されている。
なお、日時はすべて日本時間である。また2015年1月6日時点での予定に基づくものであり、今後延期される可能性もあるので、ご留意いただければと思う。また文末の参考欄で、ロケットの打ち上げスケジュールを掲載しているWebサイトを紹介しているので、最新の情報はぜひそちらをご参照いただきたい。
1月6日: ファルコン9ロケット第1段の回収試験
ファルコン9は米国のスペースX社が開発したロケットで、今回は国際宇宙ステーションに向けた補給物資を積んだ、ドラゴン補給船運用5号機を打ち上げる。
ファルコン9もドラゴンも、資金こそ米航空宇宙局(NASA)からの提供を多く受けてはいるが、開発や製造はスペースX社の手によって行われており、近年話題の「民間主導の宇宙開発」のトップランナーだ。
そして今回の打ち上げでは、ファルコン9の第1段を、大西洋上に浮かべた海上プラットフォームに着地させる試験が行われる。これまでにも、打ち上げ後の第1段を大西洋上に着水させる試験や、実験用のロケットを、高度1kmまで上昇させた後に着陸させる試験などが行われているが、今回はさらに一歩踏み込んだ試験となる。
スペースX社は、ロケットを再使用することで打ち上げコストを下げることを目指しており、この試験もその一環だ。ただ、技術的には相当難しく、同社自身も今回の飛行で成功する確率は50%ほどと見込んでいるという。
また同社では、2015年中に10機を超える数のファルコン9の打ち上げを計画しているが、そのうち少なくとも1回の打ち上げで、回収された第1段が再使用されるだろうとしている。
1月29日: 地球観測衛星SMAPの打ち上げ
SMAPは米航空宇宙局(NASA)の衛星で、マイクロ波を使って、地上の土壌中に含まれる水分を、全球にわたって測定することを目指している。SMAPとはSoil Moisture Active-Passiveの頭文字から取られており、日本の歌手グループと同じ「スマップ」と発音する。
一方、SMAPを打ち上げるデルタIIは近々運用を終える予定で、これが最後から3番目の打ち上げとなる。またSMAPの他に、4機の小型衛星が相乗りする予定だ。
打ち上げ時刻は23時20分43秒から23時23分42秒の間に予定されている。
1月30日: 地球観測衛星DSCOVRの打ち上げ
DSCOVRは米海洋大気庁(NOAA)とNASAの共同ミッションで、太陽・地球系のラグランジュ1から、地球や太陽活動を観測する。
計画の起源は1998年に立ち上げられたトリアーナにまでさかのぼる。トリアーナは当時のアル・ゴア米副大統領の肝いりで始まったもので、宇宙から地球を見た映像をインターネットを使って生配信し、環境問題への意識を高めようとしたものだった。アル・ゴア氏はかねてより環境問題に熱心に取り組んでおり、ドキュメンタリー映画『不都合な真実』の制作や、そうした活動によるノーベル平和賞の受賞で有名だが、トリアーナもまた、その活動の一環として計画されたものだった。そうした背景から、ゴアサットなどと呼ばれてもいる。
その後トリアーナは、予算の関係などで中止の危機に陥るが、ミッション内容を変更するなどしたDSCOVRとしてよみがえり、ようやく打ち上げられることになった。
打ち上げ時刻は10時35分で、ロケットはファルコン9が使われる。またこの打ち上げでも、ファルコン9の第1段の回収試験が行われる予定だ。
2月11日: 再突入実験機IXVの打ち上げ
IXVは欧州宇宙機関(ESA)が開発した再突入実験機で、IXVという名前はIntermediate eXperimental Vehicleの略から取られている。
ESAでは再使用型の宇宙往還機を開発する長期的な計画を進めており、IXVはその中間段階として位置づけられている。再使用型の宇宙往還機という点ではスペースシャトルに近いが、IXVではスペースシャトルのような翼は持たず、巨大な靴のような格好をしている。IXVの次には、国際宇宙ステーションから成果物を持ち帰ることを目指した、実用機の開発を目指している。
IXVはヴェガ・ロケットに搭載され、南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから打ち上げられる。IXVは高度約450kmまで達し、ただし地球周回軌道には乗らず、地球を約半周した後に大気圏に再突入して、太平洋上に着水、回収される予定となっている。
3月6日: 探査機ドーン、準惑星ケレスに到着
ドーンはNASAが開発がした探査機で、2007年9月27日にデルタIIロケットによって打ち上げられた。
ドーンはイオン・エンジンで航行し、まず2011年7月15日に小惑星ヴェスタに到着して、約1年間にわたって観測を行った。そして2012年9月5日にヴェスタを離れ、次の目的地である準惑星ケレスに向けて航行を続けている。ケレス到着後は約1年をかけて、その周囲を回って探査を実施する予定だ。
その後の計画はまだ未定だが、機器などが正常で、探査機に余力があるようなら、さらに別の星を訪れる可能性もあるという。
3月15日: 磁気圏観測衛星MMSの打ち上げ
MMSは磁気圏の観測を目的としたNASAの衛星で、平べったい八角柱の形をしている。MMSはMagnetospheric Multiscaleの略だ。
MMSは4機で1セットとなっており、それぞれジョン、ポール、ジョージ、リンゴという、ロックバンド『ザ・ビートルズ』のメンバーのファースト・ネームにちなんだ愛称が付けられている。おそらく関係者の中に熱心なファンがいるのだろう。
打ち上げ時刻は11時44分から12時14分の間に予定されている。打ち上げにはアトラスVロケットが使用される。
3月30日: 宇宙飛行士、1年間の宇宙滞在へ出発
この日、ソユースTMA-16M宇宙船に乗り、NASAのスコット・ケリー宇宙飛行士と、ロシア連邦宇宙局(ロスコスモス)のミハイール・コルニエーンコ宇宙飛行士、ロスコスモスのゲンナジィ・パーダルカ宇宙飛行士の3名が、国際宇宙ステーションでの長期滞在に向けて旅立つ。通常、国際宇宙ステーションに長期滞在する宇宙飛行士のミッション期間は半年ほどだが、今回ケリー宇宙飛行士とコルニエーンコ宇宙飛行士の2名は1年間にわたって滞在し続ける。
これは将来の長期間の宇宙飛行に向けた実験として行われるもので、宇宙飛行士が連続で1年間も宇宙に滞在するのは、かつてロシアが宇宙ステーション「ミール」を運用していた頃以来のこととなる。
5月: 米空軍の無人スペースプレーンX-37B、4回目のミッション
X-37Bはボーイング社が開発し、米空軍によって運用される無人スペースプレーンで、ミッション内容は秘匿されたまま、これまでに3回打ち上げられている。
X-37Bは2機が建造されており、1号機は2010年4月22日に最初のミッションに旅立ち、同年12月3日に帰還した。続いて2号機が2011年3月5日に旅立ち、2012年6月16日に帰還している。そして2012年12月11日には、1号機が再び打ち上げられ、2014年10月17日に帰還した。
この5月の4回目のミッションは、2号機の2回目のミッションとなる。
(次回は1月7日に掲載予定です)
参考
・http://spaceflightnow.com/launch-schedule/
・http://www.spaceflightinsider.com/launch-schedule/
・http://www.russianspaceweb.com/2015.html