長野県諏訪市に本社を持つ、プリンタの生産/販売などで知られるセイコーエプソンも社内SNSを活用しているという。同社の社内SNSはどのように誕生したのか、また目指すゴールは何か。同社 経営戦略本部 ブランド・コミュニケーション推進部 主事 中村剣氏、同・宮沢由香氏に話を聞いた。

長年の思いが実を結ぶ

セイコーエプソン 経営戦略本部 ブランド・コミュニケーション推進部 主事 中村剣氏

中村氏は、10年来イントラネットを担当している。もともと情報システム部に在籍し、ナレッジマネジメントや人と人をつなぐことをテーマにして、顔写真の張ってある電話帳や、電子掲示板などを担当してきた。そのときのコンセプトをもとに、2007年から社内SNSを開始したという。

「上層部は『セイコーエプソンには自由闊達な雰囲気がある』としていますが、今は人数も多くなり、隣が何しているかわからない状態に近い。けれどやはり、知っている人や背景のわかっている人と仕事ができるほうがベターと考え、お互いをもっと知ることができる、顔の見える取り組みをしたいと考えたのです」(中村氏)

2007年1月、OpenPNEを発見した中村氏は、先行して社内SNSを導入しているNTTデータに話を聞きに行った。「(SNSへの)思いや"こころざし"などがうちと似ていると感じたので、とても参考になりました。立ち上げ時は、利用規約こそ会社ごとに色が違うので多少手を入れましたが、勝手に"兄弟サイト"と名乗っています」

そして、セイコーエプソンの社内SNS「Palette(パレット)」は、2007年10月に生まれた。NTTデータには開始から半年後にまた訪れ、「兄弟の契りを結んだ」(同氏)という。

思いを込めたPaletteのデザイン

セイコーエプソン 経営戦略本部 ブランド・コミュニケーション推進部 宮沢由香氏

「最初は明るく元気にしたいとミクシィっぽいオレンジ色にしていた」と宮沢氏は語る。「けれど、背後から見られたときに遊びっぽいとやりにくいので、今のエプソンブルーにしたのです。ちなみに、波紋のデザインは、人を水滴に見立てて知識や情報が広がって交わるといいなと思ってデザインしました」(宮沢氏)

"Palette"というSNS名にも思いが込められている。「いろいろな"色"を持った社員が集まって、新しい色を作り、絵を描こう」というコンセプトだ。2000年当時に考えたものだったが、姿形を変えてコンセプトは変わらずに再開したのがこの同名の社内SNSとなったのだ。

上司や人事の了解を得ることも大切

Paletteは、春にはスタッフ間では開始していた。しかし、全社に広げる際には乗り越えなければいけないさまざまな壁があった。

NTTデータのようにトップダウンで決まったところと違い、うちは部門のミッションとして開始しています。そこで人事担当者に相談したところ、就業時間中の利用については難色を示されました。たしかに人事部門は「(自由に)やっていいよ」とは言えない立場なんですよね。そこで、利用規約の中に「業務に関係ないことは仕事中にしないでください」という一文をいれることにしました。今ではPaletteの有用性を理解していただいて、人事施策に活用できないか一緒に検討しています」(中村氏)

「しかし、その書き込みが業務に関係あるかないかはわからない」と同氏は首を傾げる。「業務時間中にたばこを吸いに行くのはOKなのに、なぜかネットになるとそういう規制が入りがちです。しかし、業務に関係ないことをする場合は休憩カウントになってしまうため、Paletteは、朝や昼、業務時間後にアクセスが多くなります。人事部門は心配していましたが、ログをとったり調査してわかったことは、"うちの会社ってやっぱり真面目だよね"ということでした。また、公的じゃないと参加しづらい人もいるため、その人たちも来やすくするように公認を取ったという面もあります」

「全社のお知らせ」で1つに集約

開始時、「全社のお知らせ」に載せると、応募が100人くらいきたという。中村氏らは、6事業所を回り、そのうちの80人ほどに直接会い、「"ミクシィみたいなもの"を始めます」と説明会をしていった。

ソフトフェア開発センターから「うちもSNSを入れようと画策していたのに、先にやられたな」と言われたので 誘ったら、センターごとごそっと入ってきたりもした。「全社のお知らせに載せたのは、セイコーエプソン内のあちこちで社内SNSがばらばらに作られてしまうと困ると考えたから。うちの部署で集約しようと考えたのです」(中村氏)

12月に利用者アンケートを取ったが、その時は「周りの目があって後ろめたい」とか「何に使っていいかわからない」などの意見もあった。「このままでは、使わない人は使えないという悪循環に陥ってしまうかもしれない」と考えた中村氏と宮沢氏らは、メルマガを毎週発信することにした。Paletteがいかに便利か、参加者がどれだけ増えているか、などを地道にアピールし続けたのだ。その結果、参加者は順調に増え、アクセス数、日記や書き込みなども、2008年になってうなぎのぼりに増えている。

サポーターの協力が大切

ファシリテーターは中村氏と宮沢氏の二人だ。ほかにファシリテーター的役割をしてくれる自発的サポーターが10名くらいいるという。「よく読まれている日記を書くアルファブロガーなどです。足あとが2,000を超えた人たちが『足あと2,000の会』というコミュニティを作り、Paletteに何を寄与できるかを考えてくれたり、さまざまな活動を自主的に始めてくれたました。たとえば、Palette用の絵文字の辞書を作ってくれて、みんなが使い始めたので、画面も明るくなりました」(宮沢氏)

ファシリテーターがやることは入会処理だ。問題はとくに起きておらず、著作権が関係する写真が問題となったくらい。日記は遊び系が多いが、書き込みは7割くらいを業務系が占める。さらに今年の5月ごろからは、取締役が入って日記を書いて盛り上がっているという。

「当初、人事部門が思っていたような心配はまったくありません。子ども扱いするのではなく、『立派な大人だし、”こころざし”と利用規約をわかって入っているんだよね』という接し方をしているので、それがよかったのかもしれません。招待制にしており、”こころざし”と利用規約に同意して賛同した人が入る仕組みにしているので、メンバーはそれに賛同していることが大前提なのです」(中村氏)

"Palette"のログイン画面。同SNSの"志"に賛同できる人に集まってほしいという思いが込められている

業務にも役立つQ&A機能

PaletteにはQ&A機能があり、質問をすると誰かがすぐに答えてくれる。質問はオン/オフが混じっているが、回答はどれも中身が濃くしっかり書かれているという。これまでにたとえば、「ExcelやWordの使い方を教えて」とか、「いい整骨院を教えて」とか、「働きがいは何?」などのさまざまな質問が投げかけられている。「Excelの時は2時間くらいで一気に回答がついて解決し、決算報告でWebで載りました。マイコミジャーナルのこの取材に向けて『SNSを使ってよかったのは?』という質問を投げかけた時も、たくさんの回答が寄せられました。これも普段から他の人の役に立ちたい、協力したい、と社員が前向きに思っていることの表われだと思います」(宮沢氏)

ちなみに、Q&A機能は特別に作ったわけではなく、コミュニティ機能を利用している。「Q&Aコミュニティ」と「その日いいことあったこと話そうコミュニティ」は初期コミュニティとして設定し、入会者は基本参加としているのだ。また、Q&Aはページの一番目立つところに表示するようにしており、常時動きがある感を演出するのにも一役買っている。さらに、「新メンバー一覧」も表示されるようにしているため、ログインする度に必ず動きがあるというわけだ。

もうひとつ、さりげない工夫もされている。もともとの仕様だと、コミュニティに誰が所属しているかは外から見えるようになっていた。しかし、「メンバー制のコミュニティは参加者が外から見えなくできるようにしました。たとえば、病気の相談ができるコミュニティなどは、参加者がわからないようにしたため、入りやすくなったようです」(中村氏)

あえて使わない機能もある。アルバムやレビュー機能などはない。極力簡単に、できることを制限しているのだという。「本当に業務で機密事項などを取り扱う場合は専門のツールがあります。Paletteでは、敷居が低い間での情報交換ができればと思っています。たとえば、上層部の生の声が返ってきて、上の人はちゃんとこういうことを考えているんだとモチベーションが上がる場になったりしています。オーストラリア駐在の人の報告も楽しいですね。会社本体から離れている人が情報を得たり発信する場もなかったので、その意味でも良かったです」

後編では、他の社内ツールとの使われ方の違い、Paletteを通じて社内の人間関係が拡がっていった事例などについて紹介したい。

基本データ

特徴: ネットでつながり、会って深まるSNS
使用製品: OpenPNE
開始時期: 2007年10月(試行)
利用者: 1,700人(うち今年の新人70名/270名)
ファシリテーター: あり。管理者2名 + サポーター10名程度(問題意識が高いメンバー、日ごろから日記を書き、かつ読者が多いメンバー)
参加方法: 招待制
アクセス数: 1万4,000P/日
アクティブ率: (7日に1回ログインする割合)50%以上