前回は、SharePoint Server 2010が持つ機能の全体像を解説しました。今回は SharePointのファイル管理機能を利用するために欠かせない事前知識として、クライアント環境およびSharePointサイトについて説明します。

クライアント環境について

SharePointを利用するためにクライアント環境で必要となるのは、Webブラウザです。SharePointに対応しているWebブラウザについては、マイクロソフトが「サポートされている」「既知の制限付きでサポートされている」「テストされていない」の3つのサポートレベルで分類しています。サポートされているWebブラウザは、Internet Explorer 7/8(32bit版)です。既知の制限つきでサポートされているWebブラウザは、Mozilla Firefox 3.6、Safari4.0.4です。Internet Explorer 6はサポートされていないので注意してください。

Webブラウザのサポートレベルの詳細については、次のサイトを参照してください。

ブラウザー サポートを計画する (SharePointServer 2010)

また、SharePointServer 2010では、様々なページでWebブラウザのプラグインであるSilverlightが利用できるようになっており、特にSharePoint上で動画配信を行う場合は欠かせません。そのため、Silverlight 3以降のインストールが推奨されています(Microsoft Silverlightの詳細参照)。

動画配信。動画配信を閲覧するには、Silverlightのプラグインが必要となる

そのほか、SharePointはWord、Excel、PowerPointといった主要なOfficeアプリケーションとの連携機能を持っているため、クライアント環境のOfficeアプリケーションを利用できます。SharePoint上での文書管理では、大別すると「既存のファイルを共有する」場合と、「SharePoint上でファイル共有しながら、複数ユーザーでファイルを完成させていく」場合の2つの利用シーンがありますが、Officeアプリケーションとの連携機能が活きてくるのは、特に後者の場合です。ファイルの共同作成を行う場合は、最新のOffice製品であるOffice 2010クライアントと組み合わせた利用が最も推奨されるため、本連載では、基本的にOffice 2010との組み合わせをベースに説明します。なお、既存ファイルを共有する場合は、Office 97/XP/2003/2007以外に、PDFファイルなど、様々な種類のファイルを共有できます。

ファイルの格納先となる「SharePointサイト」 について概念を理解する

SharePoint上でのファイル管理の基本は、SharePointサイト内でファイルを共有することです。SharePointでの情報共有は「SharePointサイト」で行います。SharePointサイトは、複数のページの集まりであり、ユーザーに対してアクセス権限を設定するための管理単位でもあります。

SharePointサイトは、入れ子構造で複数作成できるようになっています。ルートとなるサイトを「トップレベル サイト」と呼びます。トップレベル サイトの配下に必要に応じて、子サイト、孫サイトというように複数のサブサイトを作成できます。

このような複数の作成できるサイトを一元的に管理できるようにするため、SharePointでサイトを構築するときは、最初に「サイト コレクション」という管理単位(複数サイトを管理するための「入れ物」のようなイメージ) を作成し、その中に1つのトップレベル サイトとサブサイトを作成していくことになります。

サイト コレクションには「サイト コレクションの管理者」を設定できるようになっており、複数のSharePointサイト全体に対する管理権限を持つことになります。ただし、これでは与える権限が大きくなりすぎてしまうため、サイトごとに管理者が個別に管理できるようサイトの管理者を設定し、権限を委任することが可能です。サイトの管理者は、サイトに対してフルコントロール権限を持つユーザーです。なお、ファイル管理の設定によっては、サイト コレクション全体で有効になる機能や、サイト コレクションの管理者権限が必要となる場合があるため、「サイト コレクション」という言葉の概念を把握しておくことは重要です。

SharePointサイト構成の概念図

サイト内の構成を理解する

次に、SharePointサイト内がどのようになっているかを説明しておきましょう。SharePointサイト内には、大きく分けると4種類のページが存在します。

ページの種類

Webページの説明 SharePointでの名称
Excelワークシートに似た操作感を持つWebページ リスト
ファイル共有専用のWeb ページ ライブラリ
リッチテキスト形式またはHTMLで編集できるシンプルなWebページ Web ページ
Webパーツと呼ばれるページ構成部品を配置するWebページ Webパーツページ

リスト。上記は一般的な表示用の画面だが、データシート ビューという表示に切り替えることで、入力をExcelワークシートと似通った入力が可能になる。

リストのデータシートビュー。Excelワークシートに似た使い勝手を持つページ。列を自分で自由に追加し、列ごとにソートやフィルタを行うことが可能

ファイル共有の専用の場所であるライブラリ。ファイルサーバと異なるのは、任意のプロパティを自由に定義して利用できること。プロパティをうまく利用することで、ファイルを開かなくても目的のファイルを見つけやすくなる

Webページ。画面上部に表示されるメニューからエディタを使ってリッチテキスト編集したり、直接HTMLを記載したりすることが可能

Webパーツページ。Webパーツ領域があらかじめ決まっており、Webパーツと呼ばれる画面構成部品をペタペタと配置するだけで、HTMLやスタイルシートの知識がなくてもページのレイアウトを手軽に作成できる。Webパーツは、ビルトインのものが数多く搭載されているだけでなく、リストやライブラリもWebパーツとして配置できるため、関連する情報を1つのページにまとめて閲覧しやすくすることなどが可能となる。なお、Webパーツは、Webページでも配置することができますが、任意の場所に配置できる分、レイアウトの調整などが少し難しくなります

Webパーツ ページ表示画面。Webパーツページの編集が終わるユーザーには、画面のようにパーツが表示される

SharePointサイト内で最もよく利用されるのは、「リスト」と「ライブラリ」です。そのため、SharePointを有効に利用するには、組織内の情報を定型データと定性データに分類し、SharePoint上の適切なデータ格納場所に配置することが重要になってきます。ごく基本的な考え方としては、表形式で管理できるような定型データの場合はリストを利用し、定性データはファイルとして管理する方向で検討するとよいでしょう。たとえば、リストにはいくつかの関数なども用意されているため、簡単な売上管理などを行う場合などはリストが適していますし、提案書や見積書、報告書などはファイルとしてライブラリに格納して共有するのが適しています。

[補足1]リストは、Excelワークシートに操作感がかなり似ていてもExcelワークブックと全く同じわけではないため、利用できない関数があったりマクロを組んだりすることはできず、 Excelファイルとして共有したほうが良い場合もあります。

ファイルはライブラリで管理する

すでに述べたように、ファイル管理はライブラリで行います。ライブラリは、ページが丸ごとファイルサーバの共有フォルダのように利用できるとイメージするとわかりやすいでしょう。ただし、基盤となる内部的な仕組みがファイルサーバとは異なるため、あくまで似たように使えるということであって、全く同じ機能が使えるわけでありません。ファイルサーバとSharePointのライブラリとでは、それぞれ一長一短がある部分があります。たとえば、次のような相違点があります。

Windowsファイルサーバ SharePointServer
アップロードできるファイルのサイズの上限がない 一度にアップロードできるファイルのサイズは、既定では50MB(SharePointServer側の設定変更により最大2GBまで指定可能)
アップロードできないファイルの種類は限定されない アップロードできるファイルの種類が限定される(既定では、セキュリティを考慮し、*.exe, *.dll といった拡張子を持つファイルはアップロードできないよう設定されている)
検索機能やフィルタ機能はSharePointに比べるとあまり充実していない SharePointには標準で検索機能が搭載されており、SharePointサイト、ファイルサーバの共有フォルダ、インターネット上のサイトなど複数の場所を検索できる。また、SharePointサイト内で共有しているファイルに対して独自のプロパティを設定できるため、検索結果からさらにプロパティ値でフィルタすることなども可能である。これにより、目的のファイルを見つけやすくなる
ファイルのグループ化は、フォルダのみである ライブラリ内では、ファイルに対して自由に設定できる各種プロパティをもとに、同じファイルを様々な切り口でグループ化表示できるため、ファイルがつけやすくなる
ワークフロー機能を持たない SharePointは標準でワークフロー機能を搭載しているため、ライブラリに格納したファイルから直接承認ワークフローを起動するなどが可能である

このような違いがあることから、SharePointはファイルサーバを置き換えるものとしてとらえるのではなく、ファイルサーバと共存させながら、それぞれのメリットを享受するように運用していくことが重要です。たとえば、情報の格納場所が複数あるとユーザーの利便性や生産性を低下させてしまう可能性があるため、SharePointサイトを様々な情報のポータル (玄関口) となるようにし、SharePoint上で検索先として既存の共有フォルダを指定しておいたり、Webページ上に共有ファイルへのリンクを登録したりして対応することが可能です。

[補足2] 実は、リストでも添付ファイルを複数持たせることができます。ただし、リストのファイル添付ではライブラリが持っているようなファイル管理専用の機能(バージョン管理など)などはできず、検索もしづらくなってしまうため、ファイル管理を中心に行いたい場合は、ライブラリを使うほうが適切であるといえます。

山崎 愛(YAMASAKI Ai) - オフィスアイ 代表取締役

1999年よりマイクロソフト認定トレーナとして、マイクロソフト製品の技術教育に従事し、システム管理、.NETアプリケーション開発などに関する研修コンテンツの企画、開発、実施を行う。2008年4月にオフィスアイを設立。現在は"SharePoint Server"に特化したコンサルティング、技術研修、ソリューション開発およびサイト構築支援などを行っている。 2004年に米MicrosoftよりSharePointの分野にて日本初のMicrosoft MVP(Most Valuable Professional)として表彰され、以後現在まで連続受賞。主な書籍に、「ひと目でわかるSharePoint Server 2007(日経BPソフトプレス)」、「VSTOとSharePoint Serverによる開発技術(翔泳社)」がある (いずれも共著)。