ソフトバンクは例外としても、メーカーがサービスロボット事業を本格的に開始しづらい理由としては、安全性の問題も関わってくるのだが、現在、サービスロボットの研究開発を行っている企業が、大手過ぎる点もあるとする。例えば、今回の成果報告会における体験デモの1つとして用意されていた、ホンダの「リズム歩行アシスト」(画像20)を例に取ってみよう。

リズム歩行アシストは腰に装着して脚部の振り出しをサポートするというもので、ASIMOなどのヒューマノイドロボットの研究開発から生まれてきた技術の一部を用いて開発されたものだ。CYBERDYNEのロボットスーツ「HAL」(画像21)のように全身に装着して歩行支援を行うようなものに比べると簡易なシステムだから、安価で一般販売もそう難しくはなさそうな気がする人も多いことだろう。

価格が抑えられれば比較的数は出ると思われるが、仮に1台10万円で4万台売れ、1年間に40億円を売り上げたとする。個人の感覚からすると十分に大金なわけだが、ホンダはワールドワイドで展開する8兆円規模の大企業なので、40億円というと、わずか0.05%にしか過ぎないのだ。非常に微々たるものなのである。

画像20。リズム歩行アシスト

画像21。ロボットスーツHAL

そのわずかな売り上げにも関わらず、リズム歩行アシストを着用したお年寄りが転倒してケガをした場合、例えリズム歩行アシストには問題がなく、ユーザー側の使い方に問題があったとしても、「ホンダの歩行アシストでケガ! 安全性に問題か?」などといったアオるような報道がなされるのはおそらく間違いない。こんな報道がなされた日には、先進技術を売り物にしている自動車がメインのものづくり系企業としてはイメージダウンでしかないのはいうまでもないだろう。

つまり、大手メーカーがサービスロボット(特に福祉用)を手がけると、このようにわずかな収益の事業にも関わらず、企業イメージを大きく傷つけてしまう危険性を背負う羽目になるのである。そんな危険性を背負ってまでゴーサインを出す経営者は、残念ながらいないのではないだろうか。

そこで重要となってくるのが、第三者機関による安全検証をクリアして安全性を保証するという仕組みだ。もちろん、どこまでいっても人の作るものなので完璧はあり得ないし、ユーザーの使い方の間違いから起きる事故に関してはどれだけ安全機構や注意書きなどを準備しても絶対に確率をゼロにすることは不可能だろう。しかし、それでも第三者機関による安全検証を受けたロボットと、受けないロボットではユーザーに対する信頼性の面でのアピールは大きく異なってくるのはいうまでもない。

安全性の検証はもちろん企業内でも行われているが、その認証も企業が単体で行おうとすれば、予算、人員、時間の面で非常にかかるためになかなか難しく、手を出すのは不可能だろう。すでに世の中に当たり前のように出回っている家電や自動車などはしっかりとした安全検証と認証を行う公的な第三者機関が存在し、仕組みもできあがっているわけで、ロボットだけは自分のところだけで行う、という点からもなかなか難しいはずだ。それに加え、前述したように企業で独自に行うよりは、第三者の公的な機関のお墨付きをもらった方がユーザーに対するアピールの点からも良い。

そうした理由から2009年度から5年間にわたったNEDOの主導の下に実施されたのが、サービスロボットの分野で世界においてリーダーシップを取ろうということも含めた生活支援ロボット実用化プロジェクトというわけだ。その成果として、2010年末には安全検証のための拠点となる世界初の施設「生活支援ロボット安全検証センター(安全検証センター)」(画像22)が設立され、2014年2月にはPersonal Care Robot(生活支援ロボット)の国際安全規格「ISO13482」が正式に発行されたのである。

画像22。安全検証センター。施設に関するレポートは後ほどお届けする予定