半導体製造装置業界の新たな戦略

SEAJ「2020年プロジェクト」は、前述した半導体市場および製造装置市場予測から、半導体製造装置産業が市場を獲得するための戦略を検討、提案している。半導体製造の永遠の課題であるデバイスの性能向上とトランジスタ1個あたりのコスト低減に向けて、新規技術開発が必要な22nm以下の後工程を含む最先端世代と、既存の確立されている32~65nmの成熟先端世代、そしてIoTの到来で投資額の比率が大きくなると期待される90nm以上の成熟世代の3つのセグメント(表2)に分けて戦略を立てた。

表2 新戦略を展開する半導体の世代区分 (出所:SEAJ)

最先端市場での戦略は? - 製造装置コンソーシアムの創設を提案

最先端市場では、顧客へいかにすばやくソリューションを提供できるかが重要になる。そのためには、シーズとニーズ、特に、シーズをどうやって正確に読み取るかということが必要である。もっとも容易なのは、ある特定の顧客と共同開発を行うことであるが、その顧客に特化した技術であったり、契約によって他の顧客に展開できなかったりと弊害もある。また、開発費が高騰しており、すべての顧客と共同開発することもできず、単独の半導体製造装置メーカーでは、必要とされるインテグレーションの評価ができない。さらに、ソリューション提供が遅ければ、中国や韓国の新興装置メーカーと厳しい価格競争となる。

そこで、「2020年プロジェクト」ではコンソーシアム設立を検討した。欧米の半導体コンソーシアムがうまく機能しているのに比べて、日本のこれまでの半導体コンソーシアムはうまく機能しなかったとの分析に基づいて、同プロジェクトは、それを改善できる半導体製造装置メーカーのためのコンソーシアムを提案している。シーズの検証を早くできれば、日本の半導体製造装置メーカーの技術力をもってすれば、ソリューションの提案や製品化が早くできるという結論に至った(図4参照)。

図4 半導体製造装置を作るまでの流れ(出所:SEAJ)

半導体製造のコンソーシアムとしては、ベルギーimecが理想的な組織形態であるが、製造装置メーカーにとっては理想的な形態であるとは限らない。例えば、関連するインテグレーションであっても、他社の製造装置やプロセスに関することは情報開示されないために、自社技術を全体最適化する、あるいは、他社製造装置メーカーと協業して全体最適化するという開発にはハードルがある。基本的に、1つのプロジェクトにはプロセスごとに1つの装置メーカーのみ参画できる。成膜、リソグラフィ、エッチングがそれぞれ違う装置メーカーが参画しているとすると、他社のユニットプロセスの情報は入ってこないため、装置メーカーに全体最適化をどうすれば良いかは分からない。こういった状況では、imecのインテグレーションスキームではソリューション提供できても、顧客への応用の仕方がわからない場合もある。

これらを鑑みて、「2020年プロジェクト」で半導体製造装置メーカーにとって理想的なコンソーシアムについて議論した結果、コンソーシアムはimecのような独立した組織形態が理想的だが、今から適任者を1から募り、高額になった研究費を集めるのは非常に困難で時間がかかるために現実的でないという結論に至った。したがって、ボードメンバーはSEAJ会員企業で構成することは避けられない。そこでしがらみのない共同開発を行い、インテグレーションに関する情報を製造装置メーカー間で共有できるようなコンソーシアムにする運営体系を検討した。ただし、製造装置メーカーでインテグレーションの完全な全体最適化が必要な場合は多くなく、部分最適化の方が多い。また、ソリューション提供を早くするという目標にもそぐわない。以上を考慮すると、開発はインテグレーションの全体ではなく、モジュール単位に分けることが最も有効であるとの結論に達した。

車載パワー半導体の小プロジェクトを例示

その一例として車載パワー半導体後工程の小プロジェクトを取り上げている(図5)。「車のインテリジェント化」はここ数年で大きな技術革新が見込まれ、電子機器メーカーや自動車部品メーカーが主導権を握る形で半導体産業に参入してきている。また、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池車などの省エネ環境自動車向けにパワー半導体の開発も盛んになってきているが、検査工程では高電圧・大電流を扱う必要があり、ウェハレベルでの試験が課題となっている。しかしながら、パワー半導体メーカーは自動車メーカーを母体とした会社もあり、半導体製造の経験やノウハウが少ないため、製造装置メーカーにプローバ、テスタ、コンタクト材料の全体最適化が求められており、今後、小プロジェクトを立ち上げて、全体最適化したソリューション提案することが望まれている。

車載パワー半導体後工程の小プロジェクトでは、製造装置メーカーに加えて半導体材料メーカーにも参画してもらう(図5右側)。これからの半導体製造装置とユニットプロセスの開発には、インテグレーションと材料開発を考慮に入れる必要があるからである。逆に、材料開発においても、インテグレーションとユニットプロセスを考慮する必要がある。幸いにも、日本には技術力の高い材料メーカーが多くある。「2020年プロジェクト」は、「この新しいコンソーシアムが立ち上げられる場合、材料メーカーには是非参加していただき、材料メーカー自身のシーズ探索に活用していただきたい」と半導体材料業界へ呼び掛けを行いたいとしている。

図5 車載パワー半導体向け後工程における小プロジェクトの例 (出所:SEAJ)