【連載】

大空を駆けるスポーツ、エアレースの魅力をゼロから解説

3 空のサーキット、エアレース会場

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(c)Red Bull Content Pool

初めてのレッドブル・エアレース観戦でその魅力に取りつかれた筆者が、エアレースを知らない方々にお伝えする本連載。第3回は筆者が取材したサンディエゴ大会を中心に、レッドブル・エアレースのコースや会場を紹介しよう。なお2017年サンディエゴ大会の模様はNHK BS1で5月1日に放送、日本の千葉大会は6月3日・4日に開催の予定だ。

迫力と安全を両立したレースコース

コース全体図。観客席左手から進入した機体はシケイン通過後左へ急旋回し、再び左手へ戻ると宙返りで方向転換する (c)Red Bull Content Pool

シケインからハイGターンに入る室屋機。観客席から離れる方向のターンで正面へ戻ってくる。小さく回れば距離は短く済むが減速も大きいため、機体特性と操縦のマッチングが重要だ (c)大貫剛

ダイナミックな急上昇から背面飛行、そして急降下に至る「インメルマンターン」は迫力満点のうえ、タイムに大きく差が付く勝負ポイントでもある (c)大貫剛

今回のサンディエゴ大会のコースは、7組のパイロンからなる周回コースを2周する。筆者が感心したのは、ダイナミックな動きを意図しつつも、危険性の低いコースになっていることだ。実際、レッドブル・エアレースでは競技中の墜落事故は一度も起きていない。

コース全体は観客席と平行な方向に長く設定されている。スタートの第1ゲートを通過すると、左右に大きく機体をロールさせる「シケイン」があり、すぐに急旋回で180度ターンする「ハイGターン」があるが、この間、機体が観客席に正対することはない。ミスをして大回りしても観客席からは離れる方向だ。

次に、機体を90度横に倒しながらのスラローム飛行で斜めに観客席に接近、目の前の7番パイロンを通過したら急上昇から背面飛行へ移り180度反転する「インメルマンターン」で観客を沸かせ、第1ゲートへ降下する。垂直上昇はあっても垂直降下はない。

ここから同じコースをもう1回周り、2周のタイムで勝敗を争う。言葉で説明するとダイナミックさが伝わりにくいかもしれないが、時速300km以上でフルスロットルのまま、1周わずか1分で駆け抜ける「マシン」のパワーと操縦の正確さには圧倒されるばかりだ。

初出時「レッドブル・エアレースでは墜落事故は一度も起きていない」と書きましたが、実際には2010年4月15日、大会前にコースを飛行する練習で墜落事故が起きていたとのご指摘を頂いたため、訂正しました。確認不足をお詫び致します。なお、パイロットは軽傷だったとのことです。

修理作業も醍醐味? 巨大なエアパイロン

レッドブル・エアレースの特徴のひとつであり、これなしにレッドブル・エアレースはないとも言えるエアパイロンは、驚くべき技術だった。レッドブル・エアレースの創始者でもあり自ら参加選手でもあったハンガリーのピーター・ベネゼイの考案によるこのエアパイロンは、ダイナミックな競技と安全性の両立に成功した。

飛行機が接触しても安全なように作られたエアパイロンは9段のセクションに分かれており、チャックで接続されている。下から3段は丈夫な素材で作られたハードセクションで、上の6段は横方向に簡単に割けるクラッシャブルセクションだ。パイロンヒットすると「エアゲーター」と呼ばれるチームが破損したセクションだけを交換する (c)大貫剛

エアパイロンは高さ25mの巨大な円錐形で、2本並べてエアゲートとしたり、1本ずつ並べてシケインを構成したりする。薄い布で作られており、内部はコンピューター制御のエアポンプで加圧されている。つまり風船だ。

エアパイロンは9つのセクションに分かれており、セクション間はチャックで接続されている。下から3つのセクションはテントのような丈夫な素材で作られているが、上の6つは引っ張っても強いが裂け目が入ると簡単に割ける特殊素材て作られており、飛行機が接触すると刃物のようにすっぱりと切れて機体に絡み付かない。

筆者は今回、このエアパイロンの内部を見学することができた。エアパイロンの基礎部分は鉄パイプを組んだ高さ1mほどの枠で、トランポリンのような床が張られている。床にはマンホールほどの大きさの穴があり、下へ開く扉がついている。問題は扉の開閉だ。扉を開けた瞬間から内部の空気は漏れ、エアパイロンはヘナヘナと傾き始める。1回に開放できる時間は10秒ほどで、見学者が2名入ったらすぐに扉を閉め、内圧が上がるのを待たなければならない。出るときも同じだ。

エアパイロン修復の連続写真。チームが到着してからセクションを交換し、空気を入れて立ち上がるまで1分。上の写真のパイロンヒットから完了まででも2分しかかかっていない (c)大貫剛

エアパイロンに飛行機が接触する「パイロンヒット」が起きた場合、破裂したエアパイロンは水面に倒れる。これをあっという間に修理するのが「エアゲーター」というチーム。彼らはエアパイロンの破損したセクションの上下のチャックを外し、新品のセクションを取り付けて再度立ち上げる。交換作業は1分、移動などを含めても2、3分という早業だ。

最新設備のコントロールタワー

エアレースの文字通り「司令塔」、コントロールタワー。すべての選手と通信可能なのはもちろん、エアゲーターや撮影ヘリへの指示、リプレイによるゲート通過の判定などエアレースのすべてがここから指揮されている (c)大貫剛

エアレース会場には臨時の管制塔、コントロールタワーが設置される。ここでは各選手への指示を出すとともに、大会運営に重要な「審判」の役割も果たしている。

エアレース会場の各所にはビデオカメラが設置され、すべてのエアゲートを撮影している。各機がエアゲートを通過する際に高度は高すぎたり低すぎたりしないか、バンク角は規定の範囲内かを即座にリプレイして確認しているのだ。

また選手全員が一斉に走るモーターレースと違い、エアレースは1回2分程度の飛行が次々に行われるため、飛行の間には若干の時間がある。この間にリプレイ映像による解説や、次に飛行する選手の紹介なども行われる。フィギュアスケートやスキーのテレビ中継のようなイメージだ。

千葉の方が見やすいかも? 芝生の観客席

最も高額のスカイラウンジは、後方の白いテント内で食事を楽しみながらエアレースを見ることも、遮るもののない芝生に出て応援することも可能 (c)大貫剛

一般エリアは木が少し邪魔だが、芝生に寝転びながら気楽に見ている人も少なくない。ちょうど今年4月の東京の晴れの日とほぼ同じ、日差しは強いが風が爽やかな気候だ。海側には大勢の観客が集まるが、和やかな雰囲気 (c)大貫剛

サンディエゴ大会の観客席は、細長いサンディエゴ湾に面したヨットハーバーの公園に設営されている。会場の中央は「スカイラウンジ」という最も高価な観客席だ。飲食もサービスされる豪華な客席はレースコース全体を見渡せるのはもちろん、サンディエゴ大会では第1エアゲートがレースコースの中央付近にあるため、スタートとゴールを目の前で見ることができる。スカイラウンジの料金は海外旅行並みに高価だが数にも限りがあるので、今年の千葉大会のチケットはすでに売り切れているようだ。

サンディエゴ大会では椅子とテーブルが用意された「アビエイタークラブ」と、一般エリアがあった。筆者はメディアとして専用エリアや海上の撮影ボートから観戦することができたが、「ラウンド・オブ・8」以降の本戦は一般エリアで会場の興奮を一緒に楽しむことにした。

一般エリアはヨットハーバーの中でも護岸沿いに樹木が並んだ場所のため、ややフライトが見づらい。まっすぐな砂浜を観客席としている千葉大会の方がフライト自体はよく見えそうだ。一方、樹木の後方は芝生のため、横になってくつろぐにはとても気持ちがいい。

観光地サンディエゴと意外な「穴場」

対岸の公園にも大勢の観客が。地元の人だろうか? 実はこちらの方が順光のため、写真撮影には好条件だ (c)大貫剛

コースの立入禁止水域の外にはプレジャーボートから観戦する人も。遠くに見えるのはアメリカ太平洋艦隊の母港、サンディエゴ海軍基地の艦船 (c)大貫剛

空母ミッドウェイ(奥)やツナ・パーク(手前)から観戦する人も大勢見える。好きな人にはたまらない、夢の組み合わせだ (c)Red Bull Content Pool

ヨットハーバーに沿うようにサンディエゴ・コンベンションセンターがあり、メディアセンターなど大会本部機能が置かれている。東にはメジャーリーグのサンディエゴ・パドレスの本拠地球場、ペトコ・パークがあるあたりは千葉会場となる幕張新都心と似ているかもしれない。

レースコースはサンディエゴ湾の入口の狭い部分で、対岸までは700mほどしかない。そのため対岸の船着き場と周囲の公園にも多くのファンが集まって観戦していた。実は対岸の方が南側なので、飛行機の写真を撮る場合はこちらの方が順光になる。しかもこちらは会場ではないので、入場料も取られない「穴場」だ。

また会場の北西には飲食店が並ぶシーポートレッジやツナ・パーク、そして退役して博物館になっている空母ミッドウェーがあり、少し遠いがこちらからもエアレースを見ることができる。展示機を満載したミッドウェーを背景に飛ぶエアレース機が見られるのはサンディエゴだけだ。

そして、舞台は千葉へ

昨年、室屋選手が初優勝を果たした千葉大会。直前のサンディエゴでも優勝という最高の流れで、6月3日・4日に帰ってくる (c)Red Bull Content Pool

なお2017年シーズンは世界8カ所で開催されるレッドブル・エアレースだが、開幕戦はUAEのアブダビ、第2戦がサンディエゴで、第3戦が日本の千葉だ。以後はブダペスト(ハンガリー)、カザン(ロシア)、ポルト(ポルトガル)、ラウジッツ(ドイツ)、インディアナポリス(アメリカ)で開催予定だ。これらの開催地は固定的なものではなく、サンディエゴは8年ぶり2回目、カザンはロシア初の開催だ。

千葉での開催は3年連続で、むしろレッドブル・エアレースとしては異例だ。逆に、マスタークラスとチャレンジャークラスを合わせて5人の選手が出場しているフランスでは開催されていない。フランスのメラニー・アストル選手は「レッドブル・エアレースが国内で開催されればファンも増える。フランスでも開催したい」と語っていた。

東アジア唯一のレッドブル・エアレースである千葉大会が定着し、また室屋義秀選手が「サンディエゴに続く2大会連覇」と「2年連続の千葉大会優勝」のダブル連覇になることを期待せずにはいられない。

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インデックス

連載目次
第3回 空のサーキット、エアレース会場
第2回 空のスーパーマシン、アクロ機の魅力
第1回 空の一騎打ち、レッドブル・エアレース

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