WindowsやMacのGUIアプリケーションを使うときに、さまざまな入力を求められることはありませんか。書き出すファイル名の入力や、利用するサーバを一覧から選択するといった場合などです。GUIのPythonアプリケーションでも同様のものを作ることができるのですが、今回は今までのようにテキストベースのアプリケーションで「ユーザーからプログラムへの入力」を扱う方法についてお話します。

ユーザーからの入力の方法にはいくつかありますが、ここではプログラムの起動時に指定する「コマンドライン引数」と、プログラム中でユーザーに入力を求める「標準入力」、そして標準入力を使ったインタラクティブなプログラムの書き方と「exec」についてお話します。

コマンドライン引数

コマンドライン引数の使い方についてお話しする前に、それがなぜ必要なのか説明しておきます。まず以下のような「一人の生徒の成績表を表示するプログラム」のshow_score_sheet.pyがあるとします。

student = 'taro'
score_sheet = get_score_sheet(student)  # get_score_sheetは実装済みとする
print(score_sheet)

上記の例では‘taro’の成績を取得していますね。では、‘taro’の代わりに‘jiro’の成績を取得したいと思ったらどのようにすればよいと思いますか。簡単ですね。成績取得をする関数に与える生徒名の‘taro’を‘jiro’にしてやればよいのです。

student = 'jiro'  # 生徒の名前を変更
score_sheet = get_score_sheet(student)
print(score_sheet)

ただ、40人の生徒の成績を取得したい場合、プログラムのファイルを40回開いて、その都度生徒の名前を変更してプログラムを動かすのは正直面倒くさいです。それにそもそも「プログラムを開いてそれを修正する」などということは、そのプログラムの開発者でなければできません。まぁ、どどのつまり、上記対応での解決策はナシということです。

ではどうすればよいのでしょうか。解決方法はいろいろ考えられますが、最も一般的なものは、コマンドライン引数を利用することです。コマンドライン引数とは、Pythonコマンドでプログラムを起動する際に与えるパラメータのことです。たとえば以下のようなものになります。

python show_score_sheet.py taro

注目して欲しいのは3番目のキーワードのtaroです。今まではPythonプログラムを実行するときは“python ファイル名”だけでしたが、そこにtaroが追加されています。このtaroという与えられたキーワードを、Pythonのプログラムが内部で利用することで、生徒の名前をプログラム中に直接書き込まなくても指定した生徒の成績を取得できるようになります。今回は生徒名ですが、プログラムによってはファイル名であったり接続するサーバ名であったり、いろいろな利用方法があります。

コマンドライン引数の使い方は以下の図のようになります。

コマンドライン引数の使い方

直感的に動きをつかんでもらえればよいのですが、起動時に与えたコマンドライン引数を、プログラム中のsys.argvでアクセスしています。図の細かい説明をするより、実際にコマンドライン引数を利用するプログラムを見たほうが早そうなので、以下に記載します。

import sys   # sysモジュールをimport

# sys.argvにコマンドライン引数が「リスト」で格納されている
print(sys.argv) 
print(len(sys.argv))

これを実行すると以下のようになります。

% python test.py taro
['test.py', 'taro']
2

% python test.py taro jiro
['test.py', 'taro', 'jiro']
3

sys.argvをprintしているのでわかると思いますが、これは「リスト」です。そのリストの中の最初の要素は必ずPythonの実行プログラムとなります。今回は同じディレクトリのプログラムを相対パスで呼び出したのでファイル名だけですが、絶対パスなどで呼び出すと要素も絶対パスとなります。

2番目以降の要素はコマンドライン引数に与えられた入力値と対応します。上記例を見てもらうとわかりますが、引数のn番目がsys.argvのn+1番目の要素になっていますね。sys.argvはリストですので、その長さはlen()関数で取得できます。

それほど難しくないと思うので、さっそく先ほどの生徒の成績を取得するプログラムをコマンドライン引数に対応させてみます。

import sys

# 誤った入力値の場合はメッセージとともにプログラム中断
if(len(sys.argv) < 2):
    print('usage: student.py student_name')
    exit()

# sys.argvよりもわかりやすい変数名に代入して使う
student = sys.argv[1]
score_sheet = get_score_sheet(student)
print(score_sheet)

コマンドライン引数の長さを調べて、2未満であれば使い方を表示して終了するようにしています。コマンドライン引数に指定された内容は、プログラムの途中で都度チェックするよりも、このように最初に調べてしまって問題があれば終了するとしたほうがきれいにコードが書けるかもしれません。必要になった場所でチェックをするという実装だと、プログラムのコアとなるロジックに余計なものが食い込み、汚くわかりにくいコードになりがちなので気をつけてください。また、無言で終了するのも何が原因なのかプログラムの利用者にわからないのでやめたほうがよいです。

その後はコマンドライン引数の値を「わかりやすい名前の変数」に格納しています。sys.argvの何番目という表現を延々とプログラム中で使い続けるとわかりにくく、なおかつ引数の順番を変えたときなどの修正が面倒になるため避けたほうがいいかもしれません。それ以降のコードは先ほどとまったく一緒ですので解説は不要ですね。

なお、UnixやLinuxコマンドの「オプション(-v や --help など)」相当のことを実装したいのであればsys.argvを使って根性で作りこむよりも専用のパッケージ「argparse」などを利用したほうがよいかと思います。

標準入力

ユーザーがプログラムに入力を与えるのはコマンドライン引数だけではありません。標準入力も用います。先ほどの生徒の成績を取得するプログラムを例に、標準入力がどのようなものか説明します。

コマンドライン引数はプログラムの「起動時」に入力値を指定しますが、標準入力はプログラムの「起動後」に入力値を与えるものです。さっそくですが、生徒の成績表示プログラムを標準入力のものに書き換えてみます。

print('please input student name.')
student = raw_input()                  # 標準入力
score_sheet = get_score_sheet(student)
print(score_sheet)

1~2行目が変更されていますね。1行目は入力を促すテキストを出しているだけなのでたいしたことはないのですが、重要なのは2行目です。これは以下のように動いています。

  1. raw_input()関数が実行される
  2. pythonはユーザーからのキーボード入力を待つ
  3. ユーザーがキーボードでテキストを入力し、Enter(Return)を打つ
  4. pythonがユーザーからの入力を読み取り、raw_input()関数がそれを文字列として返す
  5. 変数 studentが返された文字列を格納

長々と書きましたが、要するにraw_input()を書いた場所で「ユーザー入力」が求められて、その入力値がraw_input()から返されるということです。図にまとめると以下のようになります。

raw_input関数のイメージ

上記プログラムを実行すると次のようになります。

python show_student_score.py
please input student name.
taro
…… # taroの成績が表示される

簡単ですね。

ほかにはsysモジュールのreadline関数も同じ目的で利用できます。詳しくは書きませんが、以下のように使うことができます。

>>> import sys
>>> line = sys.stdin.readline()
hello
>>> print(line)
hello

>>> line = raw_input()
hello
>>> print(line)
hello
>>>

ほとんどraw_input()と同じですが、着目して欲しいのは改行コード“Enter(Return)”も取得されているということです。上記サンプルを見ると、前者のreadline()は改行コードを含んでいますが、後者のraw_input()は省かれていますね。そのため、readline()を使う場合、必要であれば“文字列.strip()”などとして行末の改行コードを削ってください。

なお、かなりの小ネタですが、raw_input()などの標準入力を挟むことで、指示があるまでプログラムをわざと中断させておくという使い方もあります。たとえばデモプログラムを実行する際に、デモとデモの間にraw_input()を入れておくと、ひとつめのデモが終わったあとに、すぐに2つめに入らず標準入力で待ちに入ることができます。意外と便利な使い方です。

コマンドライン引数 vs 標準入力

さて、ちょっと余談です。コマンドライン引数と標準入力の2つのユーザー入力方法を示しましたが、利用するとしたらどちらが優れているでしょうか。

これは個人の好みによるとは思いますが、どちらでもよい場合、私は「Unixのコマンドの思想に沿っている」という点からコマンドライン引数を支持します。ここではUnixとしていますが、この思想は、LinuxはおろかWindowsであってもCUI(テキストのコンソール)を使う限りあてはまる大事な考え方です。当然、Pythonで作成したプログラムも基本はテキストベースなので当てはまります。Unixの思想にはいろいろあるのですが、「入力」に関しては以下が当てはまるでしょう。

  • 一つひとつのコマンド(プログラム)が小さい範囲で完璧に仕事をこなすべき
  • 大きなプログラムになんでもやらせるのは基本的に間違い
  • 小さいプログラムを組み合わせることで大きな仕事を実現する

ここで重要となるのは「小さいプログラムを組み合わせる」ことです。組み合わせる際に「あるプログラムから別のプログラムを呼び出す」ということをよくするのですが、この場合、標準入力よりもコマンドライン引数のほうが圧倒的に簡単に使えます。標準入力を使ってしまうと、プログラムが別のプログラムを「インタラクティブ(この出力がされたら、これを入力するといった具合)」に制御する必要があります。人間がプログラムとインタラクティブに対話するのは簡単ですが、プログラムにそれをやらせるのは結構苦労することが多いです。一方、コマンドライン引数だと、プログラムを呼び出す際にパラメータを与えるだけで簡単に期待どおりの使い方をすることが可能です。なので私は、コマンドライン引数のほうを好んで使っています。

ただ、標準入力が有効な場面というのも存在します。たとえば以下の場合です。

  • ユーザーがインタラクティブに操作するプログラムを組む場合(本記事の最後に扱います)
  • コマンドの履歴を残したくない場合(例えばパスワード入力など)

適切なものは時と場合によりますので、どちらが最適なのかよく考えて利用してください。なお、パスワード入力に関してはgetpassというモジュールもありますので、パスワード入力を求める場合は、それを使ってもよいでしょう。

インタラクティブなプログラムの作成

今までのプログラムは「ユーザーがプログラムを起動したら処理を実行し、それが終われば終了」というものでした。ただ、なかにはこれにそぐわないプログラムもあります。たとえばGUIのアプリケーションを想像してください。だいたいはボタンを押したりテキスト入力をしたりして使い続けて、必要がなくなった時点でウィンドウを閉じるなどして終了しますよね。これは「インタラクティブなプログラム」といって、

  1. ユーザーからの入力をアプリケーションが待つ
  2. ユーザーからの入力に応じてアプリケーションがなんらかの処理を行う
  3. 処理が終わると1に戻る

という処理を繰り返すことで実現されています。これと同じことは、CLIのコンソールでもできます。その一番簡単な仕組みは以下の図のようなものとなります。

インタラクティブなプログラムのイメージ

これも実例を用いて説明したほうがはやそうなので、簡単なサンプルプログラムを使います。以下のサンプルでは「あるプログラムの設定ファイルを書き出すプログラム」を作成します。設定ファイルは以下のようなものとします。

username = taro
password = my_password
server = 10.0.0.1

プログラムの流れは以下のようなものとなります。

  1. 最初に入力可能なオプションを示し、raw_input()で待機
  2. ユーザーが入力
  3. ユーザー入力を読み取り、適切な入力であればそれを設定。不適切であればエラー表示
  4. exitと入力されれば終了し、内容をファイルに書き出す(終了条件)

これをプログラムにすると以下のようなものとなります。

username = ''
password = ''
server = ''

while(True):  # 無限ループ
    print('''please input option and its value.
u USER_NAME
p PASSWORD
s SERVER_IP
exit''')

    line = raw_input()  # ユーザーからの入力を取得

    if(line == 'exit'): # 無限ループから離脱する条件
        break

    words = line.split() # ユーザーからの入力内容をチェック
    if(len(words) != 2):
        print('Error')
        continue

    if(words[0] == 'u'):    # 入力内容に応じた処理
        username = words[1]
    elif(words[0] == 'p'):
        password = words[1]
    elif(words[0] == 's'):
        server = words[1]
    else:
        print('Error')
# ループ終わり

print('username = ' + username)
print('password = ' + password)
print('server = ' + server)

ファイルの扱いについてはまだ解説していないので、書き出す代わりにprint出力させています。先に提示した処理手順と完全に同じではありませんが、ユーザーが入力した内容に応じて処理を行うということを繰り返します。

実際のプログラムでは処理をマルチスレッド(複数の処理を別々のタイムラインで実行)などとすることもありますが、この「入力 -> 処理 -> 入力 -> ……」という処理の流れは非常に重要なので覚えておいてください。バッチ処理以外のGUI(ボタンなどが押される -> なんらかのアクション)やサーバ(ネットワーク越しにクライアントの要求を受け取る -> アクション)のプログラミングも基本的にはこの流れとなり、このような処理方式を「イベントドリブン」と読んだりもします。

このイベントドリブン型のプログラミングについては、本連載の最後のほうで扱う予定です。ある程度プログラムが書けるようになると頻繁に使うロジックになるはずです。ただ実際には、利用するフレームワーク(自分のプログラムを呼び出す親分プログラムみたいなもの)などに隠蔽されていたりしているので、あまり意識しないことが多いかもしれないです。

exec

最後にユーザーからの入力とは異なるのですが、execと呼ばれている機能について紹介します。execについて簡単に言ってしまうと、文字列として与えられたPythonのプログラムを実行するというものです。例をあげましょう。

>>> exec('print("Hello")')
Hello
>>> exec('print(5 + 5)')
10
>>> text = '''for i in range(0,5):
...   print(i)'''
>>> exec(text)
0
1
2
3
4

exec関数の中にPythonのプログラムらしきものが入っているのがわかりますが、これは単なる文字列ですので本来は「実行」されません。execはこのような文字列をプログラムとして実行してくれます。execをどのような場面で使うのかということは入門レベルを超えてしまうので詳細を説明するのは控えますが、リフレクションとかメタプログラミングと呼ばれるテクニックで使ったりします。このようなものがあるということだけは、覚えておくとよいかもしれません。


演習1

コマンドライン引数で与えた2つの整数を足したものを表示するプログラムを作ってください。引数が2つ以外の場合はエラー表示して処理を中断させてください。

<ヒント> 文字列の足し算とならないように、引数の値を正数に変換する必要があります。

演習2

標準入力で受け取った文字列を“echo: 文字列”として表示するするプログラムを書いてください。exitと入力されるとプログラムが終了します。

以下のようなイメージです。

python test.py
Hello
echo: Hello
Python
echo: Python
exit

演習3

標準入力で受け取ったPythonのプログラム(1行)を実行するプログラムを書いてください。exitと入力されるとプログラムが終了します。

% python test.py 
please input 1 line program or exit.
print('hello')
hello

please input 1 line program or exit.
a = 5 + 5 

please input 1 line program or exit.
print(a)
10

please input 1 line program or exit.
exit
%

※解答はこちらをご覧ください。


さて、これでオリジナルの資料(Ciscoの社内トレーニング)の1日目+αが終わりました。来週は今までの演習を総括し、解説と解答を行います。他人の解答を見るよりも自分で考えてコードを書いたほうが、力が身につくので、解く努力をする前に回答を見るのはオススメしませんよ(笑)。時間が許せば今までの回の復習と演習問題をクリアしておいてください。

執筆者紹介

伊藤裕一(ITO Yuichi)

シスコシステムズでの業務と大学での研究活動でコンピュータネットワークに6年関わる。専門はL2/L3 Switching とデータセンター関連技術およびSDN。TACとしてシスコ顧客のテクニカルサポート業務に従事。社内向けのソフトウェア関連のトレーニングおよびデータセンタとSDN関係の外部講演なども行う。

もともと仮想ネットワーク関連技術の研究開発に従事していたこともあり、ネットワークだけでなくプログラミングやLinux関連技術にも精通。Cisco社内外向けのトラブルシューティングツールの開発や、趣味で音声合成処理のアプリケーションやサービスを開発。

Cisco CCIE R&S, Red Hat Certified Engineer, Oracle Java Gold,2009年度 IPA 未踏プロジェクト採択

詳細(英語)はこちら