今回は「アクティブプローブ」(「FETプローブ」とも呼ばれる)について述べていきます。アクティブプローブは高価で壊れやすいため、エキスパートだけが使いこなすことのできるプローブです。

高性能なアクティブプローブ

受動プローブの限界を超え、さらに高い周波数の測定や軽い負荷を実現できるプローブが「アクティブプローブ」です(写真1)。

写真1:アクティブプローブ - グランドを基準としたシングルエンド信号を取り扱うプローブ。「FETプローブ」とも呼ばれる

アクティブプローブは、先端の入力部に半導体素子を用いています。受動プローブ(本連載第2回目を参照)のような構造ではないため、面倒なプローブ補正も不要です。半導体素子の小さい入力容量が寄与して、アクティブプローブは自体の入力容量も非常に小さな入力容量値を実現しています。受動プローブに比べると優に10倍以上の改善が図れ、1pFより小さな入力容量のアクティブプローブもあります。 本連載第1回目に述べたように、プローブを被測定回路に接触させただけで、多かれ少なかれ波形に影響を与えます。その一因が入力容量です。周波数が高くなると入力容量は重い負荷となり、被測定回路の動作を変えます(式1)。

式1:プローブの入力容量による負荷

グラウンドリードのインダクタンスと共振回路を形成し、被測定波形を変形させます(本連載第2回目を参照)。アクティブプローブはこれらの原因である入力容量Cpが小さいため、高い周波数においても優れた特性が期待できます。高い周波数成分を含む高速パルス波形の観測において、同じ長さのグラウンドリードを使い、受動プローブとアクティブプローブの特性を比べて見ましょう(図1)。

図1:受動プローブとアクティブプローブの特性 - 黒色の波形が受動プローブ、青色の波形がアクティブプローブ

受動プローブの波形(黒色の波形)に比べ、アクティブプローブの波形(青色の波形)はパルス立ち上り部のリンギングが小さくなり、パルスをより忠実に再現しています。同様に周波数特性を比較して見ましょう(図2)。

図2:15cmのグラウンドリードを使用した場合の周波数特性

15cmのグラウンドリードが付いた受動プローブでは50MHzを過ぎたあたりから振幅が変化し始めています。一方、やはり同じ15cmのグラウンドリード付きのアクティブプローブは120MHzあたりまでは振幅の変化がほとんどなく、振幅誤差も3%以内に収まっています。受動プローブに比べ、はるかにグラウンドリードの影響を受けにくいことが分かります。

プローブ先端を延ばすことによる失敗例

これで入力容量が10倍くらい改善し、グラウンドリードの延長による影響を受けにくくなることが分かりました。しかし、これに安心して長いリードを使用するのは要注意です。特にグラウンドリードではなく、プローブの先端(シグナル入力部)に長いリードを付けると、リードのインダクタンスが共振を起こしやすく、容易に波形が歪みます(図3)。

図3:プローブの先端に長いリードを付けると波形が歪む

測定ポイントがグランドから離れている場合は、グラウンドリード側を延長するように努め、プローブ先端の延長は最小にとどめましょう。この観点から、Yリードアダプタではプローブ先端を延長することになるので、使用には十分な注意が必要です(写真2)。

写真2:Yリードアダプタで延長したプローブとグラウンドリードで延長したプローブ

Yリードアダプタを使用して取り込んだパルス波形は、大きなリンギングを生じます(図4)。

図4:Yリードアダプタを使用すると大きなリンギングが発生

周波数特性も見てみましょう。Yリードアダプタを使った周波数特性は90MHzを過ぎると共振が始まり、288MHzでは17.4dBものピーク値となります。このアクティブプローブ本来の素直な周波数特性と比べれば、いかにリードの延長が特性を悪化させるかが分かります(図5)。

図5:Yリードアダプタを使用したときの周波数特性

Yリードアダプタを使用する場合は、数十MHzまでの周波数範囲にとどめる必要があります。

抵抗器を挿入して失敗を回避

そもそも、アクティブプローブの扱う周波数は受動プローブのそれに比べずっと高い周波数なので、リードの延長は極力避けたいものです。しかし延長せざるを得ない場合は、まずグラウンドリード側を延長しましょう。プローブ先端側を延長しなくてはならない場合は、20~60Ωの小抵抗を介して信号をプローブ先端に入力する効果的な手法があります(図6)。

図6:20~60Ωの小抵抗を介して入力 - 黒色の波形はYリードアダプタだけを使用した場合、青色の波形はYリードアダプタに60Ωの小抵抗を直列に挿入した場合

図6の例では、Yリードアダプタによる大きな共振波形(黒色の波形)に比べ、Yリードアダプタに60Ωの小抵抗を直列挿入した波形(青色の波形)は、共振がダンプされ共振波形の振幅を小さくできます。

見分け方のポイント

この例では入力した波形がきれいな基準信号だと分かっているので、歪んだ波形が現れた場合、プロービングの問題だと分かります。しかし、実際のプロービングにおいては、現れた波形が本来の形なのか、それともLC共振による創られた形なのかを見極めなければなりません。LC共振波形を実波形だと誤認しては大失敗です。

見分け方は簡単です。延長したリードやYリードアダプタを指で触れるかひねるかして、リードの位置や引き回しを変えてみてください。共振による波形ならば、リードのインダクタンスが変化し、歪み方が変わります。変わるようなら本当の波形ではなく、LC共振でつくられた波形です(図7)。

図7:延長したリードまたはYリードアダプタを指でひねったときの波形 - 黒色の波形はYリードアダプタをひねらなかった場合、青色の波形はYリードアダプタをひねった場合

入力抵抗で失敗

アクティブプローブの入力を最もシンプルな等価回路で描くと、入力抵抗と入力容量の並列回路となります(図8)。

図8:アクティブプローブの入力部分の等価回路

入力容量Cpが小さいことは既に説明しましたが、アクティブプローブで注意しなくてはならないことのひとつは、入力抵抗Rpが多少小さく、20kΩ~1MΩ(機種による)くらいの値だということです。被測定回路の出力抵抗Riが大きな場合は注意が必要です。本来の振幅Esが分圧され、実際より小さな振幅Epに見えます(式2)。

式2:ただし、Cpの無視できる低い周波数において成立

入力抵抗Rpが20kΩのアクティブプローブを例に取れば、出力抵抗Riが4.7kΩの回路を測ると、19%も小さく見えます。省電力のフラットパネル駆動回路やC-MOS水晶発信回路等の高インピーダンス回路にプロービングする際には、注意が必要です。

しかし、全周波数帯域に渡る入力抵抗(入力インピーダンス)として考えた場合、アクティブプローブは優秀です。低い周波数では受動プローブ(10MΩという高い入力抵抗により負荷が軽くなる)が魅力的ですが、高い周波数になると瞬く間に低下します。一方でアクティブプローブは入力インピーダンスがあまり低下しないので、高い周波数においても軽い負荷となり、被測定回路に与える影響を小さくできます(図9)。

図9:アクティブプローブは高い周波数において被測定回路に与える影響を小さくできる

壊れるぞ! - 大きな振幅は加えない

さらに注意しなくてはならないことは、アクティブプローブに大きな振幅を印加しないことです。プローブ入力端子がほぼ半導体素子に直結された構造のため、大きな振幅の波形を加えると壊れます。ダイナミックレンジ±4V、非破壊電圧±30Vと規定されたアクティブプローブに、実際に大きな振幅の波形を入力してみましょう。+5Vを超えると頭のつぶれが目立ち始め、+6.6V、+10Vの振幅では完全に形が歪んでいます(図10)。

図10:アクティブプローブは大きな振幅を印加できない

振幅が非破壊電圧+30Vを超えたなら、このアクティブプローブは壊れます。-側もほぼ同じように歪み、-30Vを超えたら壊れます。つまり、このアクティブプローブに印加する波形は-4V~+4V、8Vp-pのダイナミックレンジ内に収まる小さな波形でなくてはなりません。ダイナミックレンジを超えると波形は歪んでしまい、正しい測定ができません。

壊れるぞ - 静電気に注意

このアクティブプローブの例では、壊れてしまう電圧(非破壊電圧)はたった±30Vです。"パチッ"と放電音のするほどの静電気が印加されるとひとたまりもありません。「音がしなければ大丈夫」などと夢にも思わないでください。放電音がしなくても、静電気放電はあちらこちらで発生しています。たった数十Vの静電気放電によってアクティブプローブは簡単に壊れるものなのです。静電気対策用リストバンドは万能ではありません。ケーブルに溜まった静電気や、ボードの一部に留まる静電気に対しては、役に立たないこともあります。測定点の静電気の放電を行った後、プロービングする必要があります。

入力範囲を拡大する方法

アクティブプローブを歪ませずに印加できる電圧範囲(ダイナミックレンジ)は小さく、この例ではたった±4Vです。0~+5VのTTL信号さえその範囲を超えてしまいます。このようなアクティブプローブを使ってTTL信号を測る手法があります。それは、オシロスコープのオフセット機能を使う手法です。±4V、8Vp-pのダイナミックレンジを正方向、負方向にシフトできるのです。つまり、8Vp-pを-8V~0Vにも0~+8Vにもできるのです。図11は、オシロスコープのオフセット電圧を+4Vと設定し、+4Vを中心に±4V、つまり0V~+8Vの範囲に設定した例です。こうすれば、0~5VのTTL信号は無理なく測定できます。

図11:プローブのダイナミックレンジを最大にする

アクティブプローブを使えるのはエキスパートだけ

アクティブプローブは安価ではありません。壊さないために、波形振幅がプローブの限界を超えていないか、静電気破壊の恐れはないか、常に注意を払い続ける必要があります。それができるエキスパートだけが、アクティブプローブの優れた性能を享受できます。使用に際しての煩わしさを加味しても、アクティブプローブは大いに価値のあるプローブです。その高い性能は積年の問題を解決し、大きな利点をエンジニアにもたらします。

次回は差動信号をプロービングする差動プローブについて述べていきます。お楽しみに。

※ 本連載記事は、毎週火曜日と金曜日に掲載いたします。

著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長