企業での従業員やその扶養親族からのマイナンバーの収集は、この時期順調に進んでおり、すでに完了したとする企業も多いようです。

そんななかで支払調書の支払先が個人事業主の場合、まだ収集が完了していないケースも多く、収集に苦慮している企業も多いようです。こうした点に商機を見いだして、支払調書の支払先からのマイナンバー収集に特化したシステムも登場しています。なぜ、支払先からのマイナンバー収集がなかなか進まないのか、その解決策はどうすれば良いのか、考えてみたいと思います。

支払調書と支払先を再確認する

支払調書については、この連載でも何度か触れてきましたが改めて整理してみましょう。「給与所得の源泉徴収票」、「退職所得の源泉徴収票」など従業員やその扶養親族のマイナンバーを記載して提出する法定調書と一緒に毎年1月に税務署に提出する支払調書には、以下のようなものがあります。

・報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
・不動産の使用料等の支払調書
・不動産の譲受けの対価の支払調書
・不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書

このうち、「不動産の譲受けの対価の支払調書」や「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」は、主に不動産業を営む企業や個人事業主が提出するものですから、多くの企業で作成、提出する支払調書は、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」と「不動産の使用料等の支払調書」ということになります。

「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の支払先と提出要件

国税庁のホームページでは、支払先および提出が必要となる金額要件について、以下のように、「提出範囲」としてまとめられています。

(1)外交員、集金人、電力量計の検針人及びプロボクサー等の報酬、料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬、料金、広告宣伝のための賞金については、同一人に対するその年中の支払金額が50万円を超えるもの

(2)馬主に支払う競馬の賞金については、その年中の1回の支払金額が75万円を超えるものの支払を受けた者に係るその年中のすべての支払金額

(3)プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金については、その年中の同一人に対する支払金額の合計額が5万円を超えるもの

(4)弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるもの

(5)社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が50万円を超えるもの

外交員や集金人などを使う業種や、バー・キャバレーなどをのぞく他の一般的な企業では、このなかで主に(4)のケースで支払調書を作成することになります。そして、この(4)のケースで支払先となる対象が個人の場合は、作成する支払調書に支払先の個人のマイナンバーが必要となります。

「不動産の使用料等の支払調書」の支払先と提出要件

こちらについても国税庁のホームページであらためて支払先と提出要件を確認してみましょう。

「不動産の使用料等の支払調書」の提出範囲は、同一人に対するその年中の支払金額の合計が15万円を超えるものですが、法人に支払う不動産の使用料等については、権利金、更新料等のみを提出してください。

したがって、法人に対して、家賃や賃借料のみ支払っている場合は、支払調書の提出は必要ありません。

事業所の家賃や駐車場の賃借料でも支払先が法人の場合は、「不動産の使用料等の支払調書」は作成、提出する必要はないわけですが、支払先が個人の場合は作成、提出しなければならず、当然そのケースでは支払先の個人のマイナンバーが必要となるわけです。

支払先の個人からのマイナンバー収集の課題

源泉徴収票や給与支払報告書を作成するために必要となる従業員等のマイナンバーは、社内で告知を徹底し従業員に周知させることで、スムーズに収集作業を進めることができますが、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産の使用料等の支払調書」の支払先は社外の個人事業主ということになりますので、マイナンバーを提供しても良いと思っていただくだけの信頼をえるためにも、まずきちんとコミュニケーションをとるところからスタートしなければなりません。

(図1)は中小企業庁の委託事業として運営されている「ミラサポ」が提供している支払先への、「マイナンバー及び本人確認書類提供のお願い」の一部です。

マイナンバーの収集対象となる個人事業主が、いつでも対面で話ができるような場合は、口頭でマイナンバー等の提供依頼を行うことができますが、そうした場合でも、きちんとした説明ができるようにこのような提供依頼の書類を作成し、それをみながら説明することをお勧めします。

なお、このミラサポの様式では、身元確認のための書類の提供も求めていますが、国税庁が公表している「国税分野における番号法に基づく本人確認方法」という資料で(図2)のように身元確認書類を省略できる方法を例示しています。

こちらの方法は、「継続して取引を行っていること」が前提となっていますので、毎月顧問料を支払っている士業への報酬や、毎月家賃や賃借料を支払っている家主への不動産の使用料などで有効な方法となります。

スポットでチラシのデザイン等を依頼する、講演や原稿を依頼するケースでは、(図1)のような様式をそのまま利用することになります。そして、(図2)の方法が可能なケースでは(図1)の様式から身元確認書類の提供依頼の部分を削除し、支払先の住所や氏名はこちらが記入するような様式に変更して使用することになります。

支払調書の支払先からのマイナンバーの収集がなかなか進まない一つの要因は、こうしたマイナンバー提供依頼のコミュニケーションがうまく行われていないことにあると思われますので、これまでの方法を見直し、再度このような公開されている様式を活用してきちんと提供依頼を行うことが大事です。

その際、判断が難しい事例としてスポットでチラシのデザイン等を依頼する、講演や原稿を依頼するケースで、現時点では提出要件となる金額を支払い額が超えていない場合の取り扱いです。

国税庁の「法定調書に関するQ&A」では、そのQ1-7で、「金銭等の支払時等において、法定調書を提出しないことが明らかである場合には、個人番号関係事務は生じないことから、マイナンバー(個人番号)を取得することは認められません。」としています。ただし、これから年末までの間に再度同じ個人に業務を依頼しその結果提出要件の金額を超えることが明らかな場合は、その契約時点でマイナンバーの提供依頼を行うようにして、ギリギリになって慌てなくても済むようにしておくことが大事です。なお、同じQ1-7では「なお、支払金額が税法の定める一定の金額に満たず、税務署長に提出することを要しないとされている法定調書についても、税務署に提出する場合には、法定調書に変わりありませんので、支払者や支払を受ける方のマイナンバー(個人番号)又は法人番号を記載する必要があります。」という記載もありますので、金額要件にかかわらずすべて対象となる業務については支払調書を作成すると決めて、スポットで業務を依頼する際にその旨を伝えて、マイナンバーを収集しておくことも可能です。どちらが、企業にとって手間なのかを考えて選択することになるのでしょうが、管理するマイナンバーを増やすことは漏えいや紛失のリスクが高まるという観点からは、後者はお勧めできる方法とはいえません。

また、スポットでの業務依頼という点でもうひとつ課題となるのは、クラウドソーシングで業務を依頼している場合です。通常、クラウドソーシング事業を行っている事業者を通して発注や支払いを行うため、支払調書に必要な相手先の氏名や住所などを知ることなく発注、納品等が行われます。クラウドソーシング事業を行っている事業者の中には、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成できる機能を提供している事業者もいますが、マイナンバーについてどのようにすれば良いのかという点については、現時点でまったく触れられていません。したがって、発注者側が支払金額により「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成しなければならない場合は、受注者にメール等で氏名や住所といった個人情報とともにマイナンバーの提供を依頼するしかありません。もともと匿名で登録して受注している側からすると、マイナンバーの提供依頼にすんなりと応じることは抵抗があるようで、マイナンバーの提供拒否ということも今後多くなってくるのではないかと思われます。このあたりは、クラウドソーシング事業を行っている事業者がなんらかの改善策を示すべきだと思いますが、今のところそうした動きはないようです。

クラウドソーシングでの業務発注、支払に伴う支払調書作成の場合だけでなく、その他の支払者からもマイナンバーの提供拒否ということは起こりえます。その場合は、従業員がマイナンバーの提供を拒否した場合と同様に、記録を残しておくことが求められていますので、提供を求めた経緯など記録しておくことが大事です。

なかなか進まない支払先からのマイナンバーの収集をよりスムーズに進めるためには、支払調書の支払者は社外の方であるということをもう一度再認識して、マイナンバーの提供を依頼するにあたっては、きちんとしたコミュニケーションとして提供依頼の文書等を作成し提示することで信頼をえることです。

そして、ここでは紙ベースでのマイナンバーの収集方法を例示しましたが、クラウドのマイナンバー管理サービスでは支払調書の支払先が直接マイナンバーを入力し本人確認書類もアップロードできるものもあります。支払先ときちんとコミュニケーションをとった上で、より安心できるマイナンバーの収集方法としてクラウドでのマイナンバー管理サービスを支払先に提示することも、収集をスムーズに進めるための近道といえます。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。