私は日本最大手のベンチャーキャピタルを経験したのち、2009年に父親が経営する株式会社クレストに入社しました。クレストは店舗のサイン(看板)や広告、ウィンドウディスプレイの設計・施工と、ガーデニングを中心とするライフスタイルを提案するショップ「インナチュラル」の運営を行う会社です。

入社後しばらくは、店舗の看板や店内広告をの製作と施工を行うサイン&ディスプレイ事業の営業に従事していました。

看板やディスプレイの設計・施工と聞くと、「アナログな業界だな」というイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。まさにその通りで、筆者が参画した当初は、営業手法としては紹介とテレアポ(コールドコール)がもっとも有力であり、競合他社とはっきりと差別化できている商材もありませんでした。社内の誰もが心の中で、自分の営業している商材だけでなく、業界全体が成長も拡大も見込めない、斜陽産業であるど思っていたことでしょう。

しかし、そのような業界でも、工夫次第で大きく成長させることができる、その成長の鍵が「テクノロジーの力」です。

昨今では、我々のようなアナログな業界にテクノロジーの力を取り入れ、既存製品とITの組み合わせで新製品の開発を進める企業が増えています。これまで競合とは思ってもいなかったIT企業が自社の市場に当然現れ、既存顧客をごっそりとリプレイスしていくようなシーンに、みなさんも何度か直面しているのではないかと思います。フイルムカメラがデジタルカメラに取って代わられたり、ガラケー市場にスマートフォンが参入したり、タクシー市場にUberが参入するなど、例を挙げれば枚挙にいとまがありません。まさに、マイケル・ポーターのファイブフォースでいうところの「新規参入の脅威」と「代替品の脅威」がより激化しているようです。

しかし、これだけが脅威ではありません。ビジネスモデルを変えずに内部改革を進めて強い構造にすることも、テクノロジーの力による成長です。ユニクロ、コカ・コーラ、ニトリなどの成長は、どちらかというと内部強化による経営戦略に底支えされたものであったと考えられます。

クレストに関していえば、私はこの数年間、CRMとMAを駆使し、リードへのアプローチから受注、リピートまでの流れを見直すことに注力してきました。成長戦略として誰もが最初に思いつくような新製品の投入や、他者との圧倒的な製品差別化を行ったわけではありません。それでも、サイン&ディスプレイ事業単体での売り上げを、4年連続で30%増加させることができました。これが前述した「内部強化による経営戦略に底支えされた成長」です。そして、この経営戦略上でもっとも重要な意思決定となったのが、Marketoの導入でした。

クレストでは、2014年に初めてMarketoを導入し、CRM(Salesforce)のデータとMarketoを連携させて、営業プロセスの大改革を進めました。これまでアポ獲得率は10%以下だったのが、効率が大幅に向上したことで、獲得率は3倍に引き上がりました。

また、面談の質も大幅に変化しました。これまでの面談はコールドコール式の営業により「無理やり獲得したアポイント」であったため、クレストの営業側が一方的に自社製品や事例などを説明し、訪問先の企業側から「はい、では何かあったら連絡しますね」とやんわり断られてしまうことがほとんでした。当時は、相手に一方的に自社情報を伝えるという営業手法しか知らなかったのです。現在ではMAの活用によって、面談前にお客様が自社製品についてどの程度理解しているのか、どの製品にどの程度興味があるのかという情報を把握した上で訪問できるため、面談が「ダメ元でとりあえず営業してみる場」から、「ニーズがある方に対して確実に提案する場」へと変化してきました。

私は自社で起きたこの変化の過程で、MAの魅力にとりつかれてしまいました。未受注顧客へのフォロー、 受注率の向上、そして社内組織の改善に至るまで、既存の業務プロセスをMAを軸とした構造に変えていくことで、目に見える数値だけでなく、社内の空気にすら変化がうまれ、成長スピードが加速していくことを体感したのです。

以下の図の通り、MAの導入によって営業リソースを増加させることなく、成長スピードを加速させることができます。傾きの変化、つまり成長率の向上は、単に売上増加に繋がるだけでなく、営業活動の効率化を意味し、会社全体の営業利益率、1人あたりの生産性の向上にも大きく寄与します。業種・業態に関わらず、MAは企業が大きな成長を遂げる起爆剤となり得ます。

この連載では、実際にMarketoをどのように活用すればよいのか、というMAの導入上のプロセスとアイデアをMarketoの製品にフォーカスした形で、全10回にわたり執筆をさせて頂きます。読者の皆様がMAの導入・運用を通じて社内の営業プロセスを再構築し、これまでの常識にとらわれることなく、新たな一歩を踏み出すことができれば、今回の連載は大成功と言えるでしょう。

著者プロフィール

永井俊輔

1986年、群馬県生まれ。2009年に早稲田大学を卒業後、株式会社ジャフコに入社。M&Aやバイアウトに携わった後、株式会社クレストへ入社。2016年より代表取締役社長に就任。入社後、CRMやMAを活用して4年間で売上を2倍に拡大させ、クレストをサイン&ディスプレイ業界の最大手に成長させた。その一方、起業家として成熟産業にITを組み合わせて新たな価値を生み出し、生涯に100の企業を立ち上げることを目標としている。「デジタルマーケティング格差がゼロの世界を作りたい」という思いから、2015年10月にグリードナーチャリング株式会社を創業。2017年には初の書籍となる「できる100の新法則実践マーケティングオートメーション」(インプレス)を上梓。