「アジアの売上10億ドル以下の優良企業200社」に選ばれたエニグモ。前編に引き続き、取締役の金田洋一氏と人事総務グループ マネージャーの大谷彰徳氏に、同社の人材活用のコンセプトについてお話を伺った。

ピンチから学んだ"カルチャーマッチ"

――2011年に経営理念を刷新する前は、厳しい経営状態だったと聞いておりますが、その時と現在で違うことは何でしょうか?

金田氏:あの時期に学んだのは「無理に採用を進めない」ということです。事業の拡大に合わせようと、人を大幅に増やしていったのですが、40人規模の会社で2、30人採用すると、どうしてもほつれが出てしまい、いろいろな面でうまくいかなくなってしまいました。

その経験を踏まえて、現在は、われわれの考え方や価値観、「BUYMA(バイマ)」というサービスをつくりあげたコンセプトに共感してもらう"カルチャーマッチ"が無ければ、どんなに優秀な人材でも採用しないことにしています。

――お二人はエニグモのカルチャーのどの部分に惹かれましたか?

エニグモ 人事総務グループ マネージャー 大谷彰徳氏

大谷氏:入社前、社員の方と語った時に、「働かされてる感」が無かったんです。全員、会社のことが好きで、サービスのことが好きで、能動的に働いている人だらけだと感じました。また、それぞれがスペシャリストとしてのプライドを持っていて、お客さまとパーソナルショッパー(海外在住の個人バイヤー)の両者に対する愛情が深い。その視点が、会社として健全だなと思ったんです。

金田氏:私は5年前、上場の直前から入ったのですが、代表を含めた経営陣に「従業員とサービス利用者の方々のためにならないことは絶対にしない」という考えが常にあるんです。どんな提案があろうと、どんな事件が起きようと、「利用する方々のためになるかどうか?」この判断が絶対にぶれません。何をやるかよりも、誰とやるかの方が大事だと思うんです。このメンバーであれば、どんな事業の形であっても、自分たちが胸を張れる仕事ができるはず、その安心感があると思っています。

最大の福利厚生は財務基盤の安定

――先ほど「能動的に働いている人だらけ」とおっしゃっていましたが、健康管理や人事マネジメントの点で注意されていることはありますか?

金田氏:われわれは、外から依頼されてシステムをつくっているわけではなく、自分たちのサービスを自分たちでつくってリリースしているので、まわりからの圧力がありません。「この企画はいつまでに仕上げる」という自分たちの思いに合わせて締め切りを決めているので、精神的にはよい環境にあると思います。

われわれはベンチャーですし、今年の秋から冬にかけてグローバル展開を予定していますので、厳しいスケジュールを課したハードな環境であることは間違いありません。このハードな環境を、健全な状態のまま、いかに乗り切るかがポイントだと考えています。

――福利厚生についてはどのようにお考えでしょうか?

エニグモ 取締役 金田洋一氏

金田氏:奇をてらったり、一見おもしろそうな制度はいくらでも作れますが、人によってありがたいと思うことは違いますよね。社員にとって最大の福利厚生は「会社の財務基盤がしっかりしていること」なのだと思っています。

取材にいらっしゃる機関投資家の中には「エニグモさんてやんちゃじゃないですよね?」なんていう方もいらっしゃいます。それは近年新興市場に上場した企業の中でも収益性の安定感では目立った存在だからなのですが、当社が目指す「やんちゃさ」というのは、こういう本質的な部分でしっかり結果を積み上げていったものに 付加的に創造していく価値と捉えています。

経営陣は、社員がやんちゃなことをするには、会社が絶対に安定していないといけないと考えています。キャッシュフローと財務基盤をどれだけよくしていくか、これが一番の根本にあるんです。どんな制度にもお金がかかりますから、社員のやんちゃな提案にすぐに手を打つためには、お金の基盤を作っておかなくてはなりません。

カルチャーを共有する秘訣

――人事のご担当として、今後注力していきたいことは何でしょうか?

大谷氏:今の健全な状態を崩すことなく、そのまま成長を続けることが重要な課題です。採用や研修制度、福利厚生を戦略的に運用することで、気付いたら仲間が100人になって、売上が2倍以上になって、会社の雰囲気は変わっていないという状態にしていく、それが私のミッションです。

――最後に、カルチャーを共有するための職場づくりについて、秘訣を教えてください。

金田氏:組織が大きくなればなるほど、業務が縦割りになって、物理的に空間が分かれていくことが多いと思います。それをどれだけ排除できるか、そして、分かれてしまった業務の時間以外で、人事がどれだけ横の時間を創れるかが鍵だと思います。

エニグモは会社自体がワンフロアで仕切りが無く、みんながどこで何をやっているのかが分かるようになっています。島と島の間は、ある一定以上は絶対に離さないように、振り向けば会話ができる環境を作り出しています。空間的にも、時間的にも、「障壁を無くすこと」が不可欠ではないでしょうか。

エニグモオフィスの入口にて