「Popteen」10月号

女性誌に増えてきたキーワード「黒髪」

ここ数か月の女性誌でよく見るキーワードと言ったら、なんと言っても「黒髪」でしょう。

今月出ている雑誌を見ても、「CanCam」10月号の「黒髪ちゃんチームと茶髪ちゃんチームでは この秋、似合うメークが違うんです」や、「JJ」10月号の「秋の髪色頂上決戦! 上品系美鈴ブラックVS.おしゃれ系紗栄子ブロンド」という特集がありました。

また、「Popteen」10月号にも「『黒髪盛り』なんでも100連発」というページがあり、あのギャル向け雑誌のPopteenまでもが黒髪推しに!? と雑誌ウォッチャーたちを驚かせました。

黒髪にこだわるのは若い世代

ただ、こうした特集が組まれる雑誌には、ちょっとした特徴があるように思われます。というのも、黒髪を推している雑誌は女子高生、女子大生がターゲットのものがほとんどで、それ以上の雑誌はあまり黒髪特集をしていないのです。

美容雑誌の中では比較的ターゲットが若いと言われている「VOCE」に「この秋、髪色は濃いめにシフト『ダークヘア』がぜったい美人!」という記事があるにはありましたが、その中心は黒髪ではなくあくまでもダークヘアです。

黒髪を若い世代がこだわり、それ以外の世代がこだわらない理由は、何点か考えられます。まず、アラフォー以上になると、ツヤなどの問題で、真っ黒というのは重たいし単純にきれいに見せるにはケアが大変です。20代のように、ほっといてもツヤツヤ、サラサラというわけにはいきません。

また、アラサーで考えると、今更黒髪ストレートにしても、似合う洋服というのが限られてきますし、ちょっと幼い感じもしてしまうでしょう。

AKB48が黒髪復活に貢献

では、なぜ10代、20代が黒髪の価値を再評価したかというと、ひとつは清楚に見えると信じられているからでしょう。黒髪が清楚というイメージはもちろん昔からありました。でも、昨今の黒髪復活に貢献したのは、なんと言ってもAKB48やそこから派生したグループの影響も大きい。なぜなら、ちょっと前まで、AKBで唯一茶髪を許されていたのは、板野友美だけと言われていて、ほとんど茶髪のメンバーがいなかったのです。

現在、厳密な規定はないそうですが、AKBがスタートしたころは、高校卒業、もしくは18歳になるまでは、黒髪でいるという暗黙の了解があったようです。今ではAKBの上位メンバーは成人も多いし、個人でモデル活動をしているメンバーも多く、けっこうな人が茶髪です。逆に、HKT48やNMB48はAKBよりも後にできたグループのため、平均年齢も若く、そのために黒髪の少女が多いのかもしれません。

昨今、秋元康が手掛けるアイドル、特にNMB48は、「ヴァージニティ」や「純情U-19」など、タイトルを見ただけでも、若さと処女性を大切にしたコンセプトとわかる曲が多くなっています。

NMB48のデビュー曲が「絶滅黒髪少女」であったのも象徴的で、黒髪は、少女だからこそ良いのであって、そして絶滅寸前だからこそ価値を持つ。そんなメッセージがタイトルから伝わってきます。もちろん、NMBも活動期間が長引くに従い、茶髪のメンバーも出てきましたが、決まりがあればそこから出ようとする人が出てくるのは、学生時代のクラスメイトを思えば自然な流れでしょう。

黒髪&清楚になることが大人へのカウンター

このように、今の黒髪ブームというのは、「アイドル」と、「若さ」と「処女性」とともに登場した部分が大きいからこそ、若い世代でしかあまり取り上げられないのです。 さて、なぜ、ここまで「若さ」や「処女性」が見直されているかと言えば、やっぱり、それが希少性を持ち、価値であると10代、20代前半の少女が気づいたからだと思われます。

ただ、少女たちというのは、いつの世代でも、大人のカウンターで反抗がしたいものです。例えば80年代の少女たちは、不良になることで、また90年代の少女たちは、コギャルになることで大人とは違う少女性を確認していたところがありました。そして今は、黒髪&清楚になることが大人へのカウンターである時代が来たと考えると、あのPopteenが黒髪を選んだ理由も納得できます。

少女たちの目には、80年代の大人が真面目で凡庸な教師的なイメージに見えていたのが、現在では、不真面目で乱れた不良に見え始めたのかもしれません。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。