シャッターやビル・マンション用ドアで知られる三和シヤッター工業は、手で開け閉めできる軽量シャッターの製作メーカーとして昭和31年に創業。社名が示すとおり、現在でもシャッターの製造・販売をコアビジネスにしているが、社内では2000年のミレニアム改革からスチール建材ナンバーワンを標榜し、総合建材メーカーへの道を歩んでいる。

現在の商品ラインアップはシャッターに加え、家庭向けおよびビル・商業施設向けのスチールドア、間仕切り、トイレブース、自動ドア、窓関連(窓シャッターや雨戸)、商業ビルのエントランス、エクステリアなど、約200種類の建材を取り扱う。

三和シヤッター工業 東京本社

多品種化に伴い、営業スタイルの変革に迫られる

同社を取り巻くビジネス環境について、事業企画部 営業支援グループの伊藤俊美氏は次のように語る。

事業企画部 営業支援グループ グループリーダー 伊藤俊美氏

「多品種化をキーワードとして業務変革に取り組み始めたのは10年ほど前です。最近の戸建て住宅では車庫はカーポートが多くなり、シャッターを付けないスタイルが多くなってきました。また、大型ショッピングセンターの普及に押され、商店街が衰退している現状では、商店向け軽量シャッターの需要も頭打ちになっています。脱シャッターを合言葉に、シャッター依存型からドアの事業を第2の柱として成長してきましたが、総合建材企業としてさらなる成長をしていくためには、多品種化を図り商品の幅を拡大していくことが、現状の大きな課題です」(伊藤氏)

シャッター依存からの脱却を目指すなかで、営業部門がいくつかの課題を抱えていることが明らかになった。多品種化に伴って商品数は飛躍的に増えた結果、従来の商談スタイルに限界が見えてきたのだ。

東日本事業本部 営業企画部 企画課 課長 石渡進氏

「シャッターを中心に販売していた頃は、お客さまから引き合いがあった場合、当該商品の紙カタログを鞄に入れて商談に出かければよかった。しかし幅広い商品を提案する多品種化販売は、例えば商業ビルの施工主との商談では、シャッター以外にもドアや間仕切り、エクステリアなども提案します。当然、お客さまからさまざまな商材についてご質問をいただくのですが、常にすべての商品カタログを持ち歩くことができず、タイムリーな商談ができませんでした」と語るのは、同社 東日本事業本部 営業企画部 企画課の石渡進氏。近日中にカタログをお持ちします、と商談をいったん途切れさせることで、受注機会の損失につながっていたという。

もうひとつの営業課題は、同社の商品が「動く建材」であることに起因する。動作スピード・動作音をセールスポイントにしている商品は、実際に動くところを見てはじめて理解される部分が大きい。紙カタログでは商品の優位性を伝えにくいため、QRコードを活用した商品紹介の動画を見せたり、カタログに動画を納めたDVDを付属している。

しかし携帯電話の動画は商談中にタイムリーな再生は可能でも、画面が小さくて説得力が弱い。DVDは再生する装置が商談場所になければ、タイムリーな提案につながらないなど、いずれも満足いく結果が得られずにいた。

営業力強化にiPadと独自アプリを導入

こうした営業課題の解決に向け、同社は全営業担当者へ新たな営業ツールとしてiPadを配付した。多くのメリットをiPadに見出してのことだが、中でも強く意識した導入目的は、営業力強化だと、同社 事業企画部 営業支援グループ 教育企画課の丸茂直樹氏は語る。

事業企画部 営業支援グループ 教育企画課 課長 丸茂直樹氏

「シャッターやドアといった個別の商品ごとの提案ではなく、ひとつの建物に対して当社が扱っている商品群をトータルに提案したいわけです。それにはマンション、工場・倉庫、学校などといった建物の用途別に提案する営業力が求められます。それを支援するツールとして、紙カタログとして制作していた用途別カタログをベースに『建物用途に合わせたiPadアプリ』を自社開発しました。すべてのお客さまへ提案できるよう、一般のお客様/建築・設計事務所の方へのインタフェースを設けたほか、営業担当者の詳しくない商品であっても、シナリオに沿って関連する商品をトータルに提案できる作りにしています」(丸茂氏)

建物用途に合わせた提案用アプリ

事業企画部 企画管理グループ 経営管理課 橋本和典氏

「このほかのiPad独自アプリは、ドアおよびシャッターの『シミュレーション』ツールが営業担当者からの評価が高いです。お客さま宅の外壁にシャッターやドアを取り付ける場合、外壁写真を撮ってそこに商品画像を埋め込み、その場でお客さまと一緒にタイプや色を選べることで、仕上がりイメージを共有できます」と事業企画部 企画管理グループ 経営管理課 橋本和典氏は語る。個々の顧客に合わせた提案営業の実現に向けて、こだわりを持って作り込んだという。

iPad導入以前から、顧客宅の写真に商品画像を埋め込んで提案書を作っていた。この提案書は非常に大きな効果があるのは分かっていたのだが、時間がかかり、作業が煩雑で、なかなか効率が上がらなかった。それならば、iPadを使って簡単に作れるようにしようと開発した。

シミュレータの操作画面。アプリから既存シャッターを写真撮影して取り込み、四隅を合わせた状態で商品写真を合成し、形状や色をシミュレーションできる

これを使えば商談中にiPadで写真を撮るだけで、簡単に自社製品を埋め込んだ提案書がその場で完成する。一度社に戻ってパソコンで仕上げる頃に比べて、格段のスピードアップが可能になり、提案力の向上と平準化が同時に達成された。またiPadならではの感覚的な操作性を生かし、説明書なしで直感的に使いこなせるよう使い勝手を良くする部分には時間をかけたという。

このほかにも同社のWebサイトで公開しているガレージの紹介ページ「Sanwa Garage Life」をiPad用に独自アプリとして開発し、営業活動に使っている。従来の紙カタログでは、シャッターの開閉速度をアピールするのに、「従来製品比で2倍の速度」や「秒速○メートル」など言葉による説明に限られたが、iPadで動画を見せることで視覚的に訴求できるようになった。営業担当者へのアンケート調査でも、iPadによる提案で最も顧客の反応が良かったコンテンツは動画だった。課題としていた、動作スピード・動作音の説明を正確に伝えることができるようになった。

実際の導入効果は、以下の動画で紹介している。


iPadの活用度を高めるには社員研修が必須

同社では全営業担当者にiPadを配付するに先立ち、約300人に先行導入して一定の試用期間を設けた後、業務改善効果や課題を定量的に測定するためのアンケート調査を実施した。その結果、iPadを使った提案により、多くの商品情報を正確に伝えられるようになり、訪問件数・商談時間の増加に繋がることが分かった。こうした客観的なデータを示しながら、営業担当者向けのiPad導入研修を実施しているという。

研修内容は上述の自社開発アプリに加えて、すべてのカタログや動画、提案書の閲覧に使用している「Handbook」、PDFや写真の取り込み・書き込みができる「GoodNote」、外出中にiPadからメールを確認するための「Google Apps」、さらに外出先でのインターネットによる情報活用の「Safari」など。実際にiPadに触れながら進める体験型の研修に取り組んでいる。

営業スタイルを変えることから始まった同社のiPad活用は今後、「設計部門や施工部門にも配付先を拡大し、全社的な業務改善につなげていきたい」と伊藤氏は構想している。図面の電子化や、現場での点検・検査をその場でiPadに入力してデータ化するシステム、管理職向けに外出先でもiPadで決済できるワークフローシステムなども検討したいという。こうした業務全般にわたるICT化の取り組みは、同社の掲げる“多品種化”を強力に支援することになるだろう。