小池酸素工業(東京都・墨田区)は、ガス・溶接・切断の総合製造・販売会社である。鉄鋼、造船、産業機械、建設機械といった各産業で利用される、鋼板やアルミ・ステンレスなどの金属材料を加工する機械や、NC(Numerical Control:数値制御)システムの開発・生産・販売を行うトータルシステムサプライヤーだ。1918年(大正7年)に創業し、1981年には世界初の酸素プラズマ切断システムを開発・製品化。現在は欧米や中国、韓国、インド、南米などに拠点を持ち、世界80カ国以上で製品が愛用されているグローバル企業である。

千葉県千葉市・緑区に設置されたKOIKEテクノセンター。生産工場や技術センターなどの複合施設となっており、海外からの視察も多い

多岐にわたる製品、動きもアピール要素

営業部 課長の鈴木聖徳氏は、同社の従来からの営業スタイルを次のように話す。

営業部 課長 鈴木聖徳氏

「取り扱う製品がガス、溶接、切断機械など多岐にわたり、特殊な機器も多いため、それぞれに詳しいフライヤーやブローシャーといった商品説明の資料を用意しています。さらに動画も自社で制作し、金属が切断される様子など動きの分かるものをお見せすることで、より理解を深めていただくことが良いご提案につながると考えています」(鈴木氏)

しかし、フライヤーやブローシャーなど紙の資料やCD-Rに収められた動画は、実際の営業時には取り扱いに苦労することも多かった。

「紙は持ち運びに不便ですし、CD-Rの動画も再生には起動に時間のかかるパソコンが必要です。また商品改定があればすぐに新しいものに差し替えなければなりません。これには多くの費用と作業が発生します」(鈴木氏)

性能向上や機能強化など改定頻度の高い製品もあり、その都度新しい資料や動画を作成していた。営業担当者へはそのたびにメールで周知されるが、実際に資料が置かれた棚から取り出すときに、最新のものがどれなのか分からなくなるという現場の混乱もあった。

こうした状況を改善すべく、いつでもどこでも最新の資料を参照できるプラットフォームづくりが始まった。鈴木氏はこうした資料をコンテンツとして格納するWebサイトの整備と、同時にiPadの導入を検討する。作業はおよそ10カ月を要したが、すべての資料をオンライン化してWebサイトが完成。iPadは操作性や機動性などを検証する段階的な試験導入を経て、2012年10月、最終的に全営業担当者へ80台が配付された。

カタログから価格表まで最新の資料と動画がiPadで閲覧可能に

iPadを使った商品説明の効果はどうか。鈴木氏は現場の様子をこう説明する。

「例えばレーザー切断機のお問い合わせを受けたときにはその資料をお持ちしますが、そこでプラズマ切断機など別の製品のご質問が出たときに、資料の用意がなくお答えできないということが以前はよくありました。こうした製品資料をすべてiPadでお見せすることができるので、どのような場合でもご要望にお応えでき、機会損失を防ぐことができるようになりました」(鈴木氏)

西関東営業所 所長の伊丹和夫氏も、「数百種類というカタログを営業車に載せていましたが、一カ所のお客さまへお持ちできるカタログには限度がありました。それがこれ1台にすべて収められたことで、より多くの製品のご紹介ができるようになりました。以前よりも商談時間が長くなり、プラス1の追加提案ができる営業スタイルを実現できました」とその効果を語る。

どんな場面でもiPadを使って商談が可能に

また営業担当者には、消耗品などの部品を取り寄せたいといった問い合わせも多い。事務所では分厚い部品表を見ながら対応できるが、訪問先や外出中ではそれもできない。これもiPadから参照可能になったことで、連絡を受けてすぐに部品を特定できるようになった。そのため、発注と納品が迅速化して顧客の満足度向上にも貢献しているという。

動画資料も使いやすさが格段に向上した。長野営業所 所長の中村賢二氏は次のようにその効果を話す。

「(パソコンと比べて)立ち上がりが速く、使いやすいです。すぐにお見せできますし、必要ならプロジェクターにもつなげられます。ガスを使って切ったり溶接したりしているところを手元の動画を見ながらご説明すると、『臨場感がわいて理解がしやすくなる』という声もいただきました。いろいろな動画をご紹介でき、提案の幅も広がります」(中村氏) 鈴木氏も、「新しい『ファイバーレーザー切断機』は業界初となり、誰もがその動きに注目する製品です。こうしたものについても、動画でのご紹介が非常に有効です」(鈴木氏)

製品が動作する様子をiPad上の動画で説明

ユーザーの「好み」を蓄積して活用

iPadのもう1つの使い方が、「マーケティングツールボックス」というリードシステムの活用だ。

「専用サイトからご希望のフライヤーやカタログをいくつか選択し、メールアドレスなどのお客さま情報を入力するとすぐにお手元へお送りできるシステムです。履歴データが蓄積されるので、今後のマーケティングの参考として活用できます。例えば次回の展示会では、お客さまの興味があるジャンルを重点的にご案内できるわけです。またiPadなら商談中に目の前ですぐに入力できるので、お客さまの興味もさめないうちに資料をお届けでき、こちらも会社に戻ってからの作業がなくなるため、効率化につながっています」(鈴木氏)

希望する製品資料を選択し(左)、メールアドレスを入力することですぐに顧客へ送信できる(右)

ダウンロード数や閲覧数なども確認でき、顧客の興味がどこにあるのかといった統計をもとに、商材やバリエーションの構築などにフィードバックしていくという。

今後は使い方もさらに広がっていく。

「iPad導入後に営業担当者にアンケートを実施し、フィードバックを受けました。それによると内容の充実が多く望まれているので、より使いやすいコンテンツを拡充していく予定です」と拡張の方針を鈴木氏は述べる。

「新製品の勉強や新人の研修などにも活用したいですね。大型の機器は展示場所も限られるため、営業担当者もiPadで展開された動画を見て実機の様子を知るということもあります。また、アンケートの要望にも多かった基幹システムへの接続、受発注への利用も進めていきたいと考えています。現在はパソコンを利用していますが、これが可能になればiPadだけというワークスタイルも考えられます」(鈴木氏)

新たな営業スタイルを得た小池酸素工業は、日本のグローバル企業の雄として、さらなる羽ばたきを続けていくだろう。