原口 豊(はらぐち・ゆたか)
大手証券会社システム部に在籍後、1998年ベイテックシステムズ(現サテライトオフィス)を設立し、社長就任。2008年に、いち早くクラウドコンピューティングの可能性に注目し、GoogleApps導入サポートを開始。導入実績は、ガリバー、ミサワホーム、三井倉庫などの大手企業から、中堅・中小企業まで、1,200社以上。「組織&グループカレンダー for Google Apps」など、多数のテンプレートを無償提供するなど、Google Appsの普及に尽力。Google Enterprise Day 2011ではパートナーアワードを3年連続で受賞した。

情報資産の保護に適したクラウドサービス

企業では現在、「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」の必要性が見直されている。BCPとは、企業が事故や災害などに直面した際、残された資源を利用してビジネスの被害や復旧時間を最短に抑えられるよう、事前に社内で策定しておく計画のことだ。もちろん、その存在は以前から知られていたが、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響を受け、積極的に取り組む企業が増えている。

こうしたBCP対策の一環として注目を浴びているのが、クラウドサービスの利用である。例えば、社屋もろとも倒壊してしまうような大規模災害が発生した際、建物や設備は資金さえあれば何とか復旧できるが、情報資産となると話は別だ。

企業には長年のビジネス経験で蓄積された顧客データやノウハウが数多く存在する。このきわめて貴重な財産が消失してしまっては、いくら設備が整っても復旧に大きな支障を来すだろう。それ以前に、顧客やパートナー企業の連絡先がわからないような状況では、関係各位への被害報告すら行えなくなってしまう。

こうした不測の事態に備え、最近では情報資産関連のBCP対策としてクラウドサービスを利用する企業が増えているのだ。社内にサーバを設置する従来のオンプレミス環境では、大規模な地震や火災、社屋内まで浸水するほどの洪水などが発生した際、サーバ自体がダメージを受けてデータ損失につながる可能性は高い。しかし、インターネット経由でデータを保存・取得するクラウドサービスなら災害発生時でも情報資産の保護が可能。さらに、インターネットに接続できる環境さえ手配できれば、迅速に社内外への連絡や被害報告が行えるのもメリットと言える。

なかには、「クラウドサービスで利用されているサーバが事故や災害に巻き込まれたら」と不安に感じる人もいるかもしれないが、そこはさすがに提供側も独自のノウハウを持っている。サーバの設置にあたって地理・地形的に災害の影響が少ない場所を選んでいるのはもちろん、データ消失を防ぐバックアップ作業なども定期的に実施。こうした点から、少なくとも自社にサーバを設置するよりは格段に安全と言えるのである。

情報共有や復旧時間の短縮に役立つBCP対策サイト

クラウドサービスの中でも、Google Appsは「事故や災害発生時にデータ消失を防ぐ」という機能に加え、もう1つ大きなメリットがある。それが「BCP対策サイト」を簡単に構築できるという点だ。

ここでいうBCP対策サイトとは、大規模な震災や事故が発生した際に役立つ機能を集めた特別な社内ポータルのこと。普段は休眠状態だが、いざという時にすぐ使えるようサイトの準備を整えておくだけで、社員同士の安全確認や情報共有、ビジネスの復旧に向けた計画立案などを迅速に進めることができる。

BCP対策サイトに含まれる主な内容としては、全社もしくは部門ごとに現状を報告する「お知らせ」、フォーム機能などを使って社員たちの状況を確認する「安否確認」、経営者から復旧に関するメッセージを送る「動画」、行動指針や対策方法をまとめた「災害対策マニュアル」、安全な場所を示した「緊急避難所の地図」といったものが挙げられるだろう。

ちなみに、BCP対策サイトは専用のサービスを使うのではなく、Google Appsのサービスに含まれるGoogleサイトで構築する。そのため、上記以外に企業で必要と思われる内容を簡単に盛り込むことが可能だ。

GoogleサイトでBCP対策を構築した例

アクセスに関しては、「有事の際に社内ポータルのトップページへ誘導リンクを表示する」「事前に各社員のモバイル端末へブックマークしておく」「休眠状態ではなく普段から社内ポータルに含めておく」など、企業ごとに管理しやすい方法を選べば良い。むしろ重要なのは、「社内にBCP対策サイトが存在し、万が一の際はそこで情報共有ができる」という点を社員に周知徹底することだろう。

もちろん、インターネット環境さえあれば利用可能なGmailも、災害発生時には大きな力となる。Gmailで連絡を取り合いつつ、BCP対策サイトで企業全体の状況確認や復旧に向けた計画立案を行う。これがGoogle Appsの多彩な機能を活かしたBCP対策というわけだ。