少子化/大学数増加による学生獲得競争の激化、日本経済の急速なグローバル化。歴史的にみても、国内大学は極めて厳しい環境に晒されている。

この逆境に対し、国内大学はどのように変化し、さらなる成長を実現するのか。

アクセンチュアでは4つの視点で転換が生じ、国内大学そのものがパラダイムシフトを実現すると考えている。

  1. 教育プログラムの転換
  2. 対象マーケットの転換
  3. 提供場所の転換
  4. 経営モデルの転換

今回は「1. 教育プログラムの転換」について我々の示唆を紹介させていただく。

18歳人口の減少を受け、国内800超の大学には本質的な競争原理が働く事になる。

これまでは、余りあるパイの"どこを食べるのか"、という状況であったが、これからは日に日に小さくなるパイを"誰がどの程度食べるのか"、という状況に陥り、各大学が抱く危機感は増幅する。その結果、価値の明確化に迫られ、"出口"視点から逆算した教育プログラムへの転換が生じると考えている。

なお、大学には教育とともに研究という柱も存在するが、本連載では教育に焦点を当てさせていただく。また、教育プログラムとは個別の授業内容やカリキュラム構成を指す場合もあるが、本連載ではより大局的な視点から "大学のあり方"という位置づけで用いらせていただく。さらに、アクセンチュアでは大学の存在意義は研究活動に帰結すると考えており、今後、教育-研究間のバランスに変化が生じる可能性はあるものの、大学という体を成す以上、両者は永続的に両輪を成していくべきと考えている。

大学のパラダイムシフトはいかにして起こるのか?

皆さんは、大学がマーケティング活動の一環として行っている電車の中刷り広告を見たことがあるだろうか。目を凝らしてみてみると、ほとんどの大学で「やる気を引き出す!」や「少人数教育!!」といった売り文句を掲げている事に気づくだろう。

アクセンチュアでは、国内大学の本質的課題はここにあると考えている。

数多くの大学では軒並み、少人数教育やゼミ、資格取得といった教育提供上の"プロセス"がウリとなっており、志願者や保護者が特に重視する卒業後の"結果"を明確にしている大学は皆無に等しい。

文系学部を例に出すと、入学金や試験料、学費を計400万円程度払うにも関わらず、その効果はグレー化している。一般的に消費者の購買判断は、購入によって得られる価値によって決まってくることを考えると、結果にコミットしない中で高額な投資判断を行うという摩訶不思議な状況が今の大学には存在している事になる。

見方を変えれば、進学先の判断が学力(偏差値)や立地・ブランドに偏りがちな状況にも頷け、進学する事で得られる"価値"による実質的な競争原理が働いていない事になる。

しかしながら、この状況は学生獲得競争の激化やグローバル化を背に変わると予測している。

近い将来、大学-志願者間の需給関係が逆転し、学生獲得競争が激化する。その結果、学力や立地・ブランドの点から遅れをとる大学は立ち行かなくなり、はじめて競争原理が芽生えるのだ。

競争原理が生まれることで、学生獲得競争はこれまで以上に激しいものとなり、各大学は勝ち残りに向けた理由を模索する事になる。

その様相として、研究大学と呼ばれるような一部の上位大学では、世界大学ランキングの向上を目指して研究成果の強化を進めると想定されるが、その他の大学では顧客(学生/保護者)視点からみた"価値"追求になると考えられる。すなわち"出口"の明確化であり、卒業する人材が得られるキャリア・活躍の姿を明確に謳う時代が到来すると考えられる。時はデータの時代であり、卒業生の一挙手一投足をデータ側面からトラックできるようになる。各大学の売り文句が"就職できる"から、Factに基づいた"○○業界で活躍できる/評価される人材"に転換し、それらを担保するためのカリキュラムや仕組みを提供し始めても大きな違和感はない。

また、大企業の動向に引っ張られるかたちで中小企業が販路拡大を目指してグローバル化を推し進めるほか、観光客や外国人就業者の量的拡大に伴って、観光業やサービス業、製造業が内向きのグローバル化を進めることも不可避な状況となる。これを踏まえると、グローバル対応はSGU(スーパーグローバル大学)に代表されるような学力トップ大学に限った問題ではなく、すべての大学で対応が進んでいくと思われる。

とはいえ、これも各大学が明確化するであろう"出口"と密接に関係する。

例えば「政府やグローバルトップ企業で活躍できる人材の育成」をターゲットとする大学では、授業はすべて英語で履修させ、外国人研究者との共同研究、留学やグローバルインターンの必修化、グローバル企業から招聘した教員によるビジネス視点からの成績評価、などの環境が整備されてくるだろう。

「地場の観光産業で活躍できる人材の育成」をターゲットとする大学では、ホスピタリティなどの育成に向けた実習のほか、地場の歴史や英語/中国語授業の拡充、国内の一流ホテルでのインターンなどの環境が整備されてくるものと考えられる。

このように、多くの大学では自学が提供する価値を基軸に出口指向でカリキュラムやコンテンツといった教育プログラムの転換を進め、各大学の投資配分も自ずと変化してくると考えられる。結果、各大学が提供する大部分の教養課程はデジタルを活用したより効率的な方法に転換していくのではないだろうか。

これがアクセンチュアの考える大学のパラダイムシフトの第一歩(1.教育プログラムの転換)である。

実際、これらの予兆となる動きが出始めている。

日本政府は、産業競争力会議で提示した「日本再興戦略」改訂2015(素案)で、国内トップ大学に対する「世界的地位の継続的な向上」のほか、「"職業実践力育成プログラム"認定制度の創設」「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」といった改革案を盛り込み、国力の維持に向け、政府主体で学制改革も辞さない、という強い意志を示している。

視点を大学に落としても同様である。

近年の文部科学省への学部学科の申請または改変に係る届出(平成23-27年度)を確認すると、看護・児童・リハビリ・スポーツ・保健・教育等のいわゆる「手に職」タイプの学部学科が増えてきており、各大学が就職・就業=出口という捉え方のもと、徐々に出口指向に向かっている事が伺える。

注:文部科学省が開示している「大学設置・学校法人審議会 答申・届出」から

平成23年度~27年度の文部科学省に届け出をした学部学科新設件数は69大学106学部。その内、69学部が看護・児童・リハビリ・スポーツ・保健・教育等のいわゆる「手に職」タイプの学部学科であり、中でも「看護学科」は31大学で設置されている (文部科学省 大学設置・学校法人審議会の公開資料を元に編集部作成)

大学は最高学府であるとともに、若者の約半数を日本経済に送り出す巨大な人材バンクでもある。

時代が大きく変化し、競争原理が芽生える今こそ、大学は市場の要請に合わせた変化を進め、市場も大学の変化に大きな期待を寄せるとともに、変化を積極的に要請していく必要があるのではないだろうか。

国内大学の競争激化にどう立ち向かうのか?

上述のとおり、少子化・グローバル化によって国内大学の競争はより一層激しさを増す。

結果、それぞれの大学が強烈な個性を発揮し始めるはずだが、学生獲得の主な対象である18歳市場の縮小は止められない。次回は、個性を持った大学が新たな学生獲得先としてどのような市場に触手を伸ばすのか、という点に焦点を当て解説をさせていただく。

(次回は9月中旬の掲載予定です)

著者プロフィール

根本武(ねもとたける)
アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジャー
入社以来、数多くの大学改革案件を主導。
経営戦略や教育改革、組織・業務・IT改革に至るまで幅広い分野に精通。
保有資格は中小企業診断士、システムアナリスト、テクニカルエンジニア(ネットワーク)など